有事における経営者の役割とは

「レジリエンスを高める」第5回 - 有事の際における経営者の責任について考察し、また現場での意思決定のために必要な権限委譲についても解説する。

有事の際における経営者の責任について考察し、また現場での意思決定のために必要な権限委譲についても解説する。

「有事の際に経営者はどのような役割を果たすべきか」。このような問い合わせを受けることが近年増えてきている。有事の際に経営者が果たす役割は多くあるが、主に5つの役割に集約されると考えられる。それは「責任を果たす」「組織作り」「重要な意思決定」「従業員を守る」「一般社会への説明」の5つである。ここでは「責任を果たす」という役割について解説する。

昨今、企業の不祥事で社長が「責任を取って」辞職するというニュースをよく耳にする。果たして、辞職することで社長は責任を果たしたと言えるのだろうか。「大辞林 第3版」(三省堂)によると、責任には「1 自分が引き受けて行わなければならない任務・義務、2 自分がかかわった事柄や行為から生じた結果に対して負う義務や償い」という2つの意味がある。1が「責任を果たす」2が「責任を取る」という使われ方をする。経営者にとっては2だけではなく、1の「責任を果たす」ことも重要であると考えるべきである。

これは、具体的には「意思決定をすること」と言える。ただし、全ての事柄を経営者が意思決定すればよいということではない。組織の規模が大きい場合や急を要する場合など、有事においては「業務上の意思決定は可能な限り部長等の現場責任者に任せること」が重要である。経営者は、現場での意思決定を行うために必要な権限の委譲や資源(人材・機材・設備・情報等)の提供を行い、自身は本当に重要な意思決定のみを行う。
ただし、この場合でも委譲するのはあくまでも権限のみであり、「責任」は経営者が持つことを忘れてはならない。有事の際は刻々と状況が変化し、必要な情報が集まらない、時間的制約が極端に短いなど、平時とは異なる状況で意思決定を行う必要があり、判断を誤ることも想定される。経営者としては「最終的な責任は経営者が取るので、勇気を持って判断すること。その判断が誤っていたからといってとがめることはしない」といったメッセージを発信することで、現場の意思決定を後押しすることが重要である。

実際に、現場を知らない経営者の過度な介入により、現場が混乱し二次被害が発生したケースは多く見られる。現場を信じ、現場を助け、「責任をとって辞める」のではなく、「責任を果たす」ことが、経営者の重要な役割である。

階層別の意思決定事項






経営者 本社・事務局から提示のあった事項のうち(1)経営リソースの活用が必要な事項(2)利害関係者への影響等が大きいイレギュラーな事項






本社・事務局 現場から上がってきた情報のうち(1)事前に事業継続計画(BCP)で定めた事項(2)経営陣に判断を仰ぐ事項の選別
現場(事業会社、工場、部署など)
(1)現場で判断可能な事項(2)イレギュラーな事項や組織をまたがる事項など、判断できないものを上申

日経産業新聞 2017年11月10日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

執筆者

KPMGコンサルティング
シニアマネジャー 土谷 豪

レジリエンスを高める

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