AIがもたらす新流通革命

「小売りの明日」第1回 - 自動運転機能を持つ電気自動車や店舗の購買システムなど、AIを活用した流通モデルを紹介し、今後の在り方について考察する。

自動運転機能を持つ電気自動車や店舗の購買システムなど、AIを活用した流通モデルを紹介し、今後の在り方について考察する。

トヨタ自動車が2018年1月、「e-Palette(イー・パレット)コンセプト」を発表し、話題になった。中心にあるのは自動運転機能を持つ電気自動車(EV)であり、移動、物流、物販など多目的に活用でき、移動式の超小型コンビニエンスストアをイメージしてもらえるとわかりやすいだろう。
どのような未来が実現するのか。気温や天気から消費傾向と合致する商品を提案し、指定した時間に自宅まで届ける、事前に頼んでおいた商品を乗せてオフィスに迎えにきてくれ、そのまま自宅まで送り届ける、また、車内で飲み会を開いて盛り上がっているうちに自動運転で旅行先に辿り着く、そして決済はキャッシュレス。あくまで創造の域を出ないが、将来的には大きく相違ない形で実現されるだろう。

こういった現象は実店舗においても起きている。例えば、顔認証システムと購買システムを連携させ、その購買データを基に人工知能(AI)が分析を行う。健康重視型の人か価格重視型の人かなど、顧客をクラスターに分け、買い合わせ商品や頻度、価格帯などが瞬時に算出される。また気温や天気、立地データと過去の購買データを掛け合わせることで、最適な売場構成や在庫、客数や回転率の予測を行い、営業利益を最大化できる経費構成がリアルタイムで算出される。このような動きは伊勢の創業100年を超える老舗食堂「ゑびや」など、既に一部の流通企業や外食企業によって展開されている。これらを展開することで、店長は本部からの指示ではなく、AIによって算出された結果を、売場や在庫、人員配置に活用していくのである。入店した顧客を顔認証やWi-Fiとの連携で捕捉すると、購買履歴やオンラインストアの閲覧履歴から何を提案すればよいかAIが判断し、店舗スタッフのスマートフォンにその情報を提示する。それら店舗やオンライン上で蓄積されたデータはいずれ国家における統計データに紐づき、輸入や農業、製造、医療など複合的な産業で活用される。このような姿が既に遠い未来ではなくなりつつある。

ここで企業側において大切なことは、どこでマネタイズ(収益化)を行うのかということと業務の高度化だ。単純に物販だけで利益を得る時代ではない。アマゾンプライムのような定額制の業種横断的なビジネスモデルで利益を生み出すのか、データプラットフォーマーとなるために、赤字部門を抱えても他の部門で利益を創出するのが、そういった経営判断も必要だ。ユーザーの利便性や満足度の高い顧客体験の最大化を掲げつつ、企業側の複雑化したマネタイズと両立させる。そのような小売り・流通業界の変革に柔軟に対応するスタンスが重要になってくる。そして効率化によって生み出された時間を、より高度な領域に集中させることが企業には求められる。

顧客に驚きや喜びといった体験をどのように提供するのか、接客をおもてなしの領域に昇華させるにはどうしたらよいのか、ということに動きだしていくことが、真の流通改革へとつながる。

日経MJ 2018年9月24日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。
 

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