RPAの拡大を支えるインテリジェントモデルの実現

本稿では、RPAを大規模展開するためのポイントをご紹介するとともに、さらなるRPAの活用に向けたアプローチを解説します。

本稿では、RPAを大規模展開するためのポイントをご紹介するとともに、さらなるRPAの活用に向けたアプローチを解説します。

KPMGコンサルティングでは、2019年4月に書籍『RPA導入ガイド:仕組み・推進・リスク管理』を発刊しました。本書は、これまでに KPMGコンサルティングが企業におけるRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の大規模展開を多数支援した実績から得られたRPA導入の方法論を1冊にまとめたものです。
さて、RPAを既に大規模に導入されている企業や組織では、RPAの導入効果を組織の広い範囲で得られているでしょうか? 効果を確実に得るためには、RPA大規模展開で実施すべきポイントを適切に把握し、さらには大規模展開後に残る課題を見据えた拡大展開が求められます。その際、RPAをデジタルトランスフォーメーションの基盤として捉え、RPA単独でできること、他のテクノロジーとの連携によりできること、そして人手との連携をスムーズに行っていくことが必要となります。
本稿では、1つの企業や組織において「100を超える業務にRPAを導入するケース」を「RPAの大規模展開」と定義し、RPAを大規模展開するためのポイントをご紹介するとともに、さらなるRPAの活用に向けたアプローチを解説します。
なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

ポイント

I. RPA大規模展開のポイント

1. RPA大規模展開に必要な要素

多くの企業では、RPAが業務基盤として定着し、生産性向上や業務効率化、デジタルトランスフォーメーションなど継続的な効果を得ることが、RPAを大規模展開する意義であると考えているのではないでしょうか。
RPAを一時のブームとして終わらせることなく、継続的に効果を生み出し続けるには、RMO(Robot Management Office)やIT部門などの提供組織だけではなく、RPAを業務で活用する利用組織を含めた自走モデルが重要となります(図表1参照)。この実現のためには、体制、ルールの確立と並行して利用組織への“啓蒙活動”を行うことが非常に効果的です。RPAの特性や効果が出やすい業務などを資料や実際に動いている動画を交えた啓蒙活動を通じて、現場担当者からの意見を体制やルールに反映していくことも定着化を加速します。

図表1 RPA大規模展開における組織モデル

図表1 RPA大規模展開における組織モデル

RPAを大規模に展開するにあたっては、RPAを単なる自動化のツールとしてではなく、業務基盤として定着化させるモデル作りが必要になります。継続的なRPA化対象業務の発掘、RPAによるオペレーションの標準化、運用保守体制の構築といったRPAを安定して利用していくためのPDCAを体系化し、組織体制へと落とし込むことが大規模展開を成功へと導く重要なポイントなのです。
この実現には、体制とルールの整備が不可欠な要素となります。RMOのようにRPAによるオペレーションを支える新しい組織の構築、RPAが実行してはいけないオペレーションルールなどのガバナンスを大規模展開当初から定め、リスクを低減する仕組み作りが、組織としてRPAを安定して利用していくために求められます。
では、RPAの大規模展開を効率的、かつ安定した運用管理を実行していくためにはどのような要素に注力する必要があるでしょうか。KPMGでは、RPAの大規模展開における方法論をTOM(Target Operating Model)として「プロセス」「組織・ガバナンス」「テクノロジー」「人材・スキル」「パフォーマンス」「外部委託」の6つの観点で定義しています。これらは、大規模展開にあたってどれも欠かすことができない項目です。

2. RPA大規模展開を成功させる要素

RPAの大規模展開において安定した運用管理を行うためには、大規模展開の初期から次に挙げる3つの要素を優先して準備する必要があります。
1点目は、「プロセスの構築」です。大規模展開では提供組織や利用組織から多くのプレイヤーが参画することになりますので、導入や管理プロセスの標準化が重要になります。このプロセスにより、品質を担保したRPAの導入を進められ、関係者のスキルや経験の差による影響を最小限に抑えることができます。
2点目は「組織体制やロールの設定」です。大規模にRPAを適用するためには、複数のロールを組織ガバナンスの下で運用することによって抜け漏れのないオペレーションを実現します。その際、各プロセスにおける運用方針やルールを設定します。
3点目は「ITツールや管理基盤の導入」です。これは、プロセスと組織体制が整ったうえでオペレーションの効率化を行うためのものです。RPAの管理は、ロボットや実行環境を管理するRPAツールだけではありません。RPA化の候補となる業務の管理やサービスデスクで利用するチケット管理など、組織としてリソースを管理していくツール類も含まれます。
この3つの要素は、オペレーションの基幹的な位置づけです。したがって、早期に立ち上げることがオペレーションの安定化に直結します。書籍『RPA導入ガイド』では、より詳しく大規模展開の方法論について解説しており、大規模展開を検討し始めたタイミングで、ぜひ参考にしていただけますと幸いです。

3. RPA大規模展開後に残る課題

RPAの大規模展開が進むと、RPAが業務全体の一部のプロセスを自動化し、業務全体としては「人+RPA」の形で運用されることになります。ここでRPAが行うプロセスは、定型的なプロセスがメインであり、RPA単体としてカバーできるプロセスの範囲の限界に近くなります。それが逆に、より広い範囲で活用しようとする場合の課題となります。
しかしRPAを業務基盤として考えた場合、他のテクノロジーと組み合わせて利用すれば、RPA単体では適用できなかったプロセスにも適用できるようになり、さらなる効果を生み出します。これはKPMGが定義する“Class2 RPA”の考え方にあたります。先行している導入ケースではClass2が実現され、さらに、より業務の自動化をEnd to Endに近い範囲で実現するインテリジェント・オートメーション(Intelligent Automation:IA)の実現が進んでくると考えられています。このように業務の広い範囲で自動化が進むことで、RPAをはじめとしたテクノロジーは人にとって強力なパートナーになります。
しかし、個々のテクノロジーが持つ特性や適用箇所、適用方法が本来のポジショニングと異なった場合、拡張性や保守性が悪くなり、本来求める効果が得にくくなるかもしれません。そこで、「デジタル人材」の育成をより早い段階で実施し、テクノロジーをコントロールしながら、人とテクノロジーのコラボレーションによる業務変革スタイルが求められるようになるでしょう(図表2参照)。

図表2 デジタル人材の育成

図表2 デジタル人材の育成

II. 課題解決のケーススタディ

1. RPAの導入拡大で見えてきた課題

RPAの適用が進む企業では、その導入工程で業務プロセスの全体像が見えてきます。そうすると、個々の業務担当者や部門に閉じた改善には限界があると感じ始めるはずです。業務の現場では「作業効率は上がったが、業務プロセス全体にかかる時間は変わっていないのではないか」などという意見が聞かれるかもしれません。実際のところRPAで一つひとつの作業の処理時間が短縮できても、その後工程を受け持つ人が対応を後回しにしたり、部門を跨ぐプロセスで前工程の作業完了の連携がなされず分断が生じる状態を放置したままでは、せっかく導入したRPAも部分最適の域から脱することは難しくなります。しかし、業務プロセス全体を俯瞰すれば、RPAが活躍する「単一作業工程」を繋ぐ人や書類、他のシステムなど、RPA以外の要素についてもメスを入れる必要があることに気づきます。

2. RPAを繋ぐプラットフォーム

そこで、RPAの仕事を分断させない仕組みを考えてみましょう。たとえば、RPAが作業を完了しても後工程を担当する人や部門の対応が遅れることが課題であるなら、あらかじめ定めた作業着手の期限を超えると自動でアラートを発する機能で対応を促す、前工程の完了を感知したら他のRPAやシステムを自動で起動させてシームレスなオペレーションを実現するなどで、問題が起きているプロセスを特定し、モニタリング機能で課題の共有を促します。それにより、「一定期間あたりの業務処理件数や所要時間を測定し分析する」「仕事の滞留が発生するポイントを“リアルタイム”で検知し、課題の原因となる要素を“その場”で取り除く」といった活動が促進されます。このようにRPAの拡大に伴って業務プロセス全体の自動化を促し、整流化を図るプラットフォームの役割を担うものとして見直されてきたのが、BPM(Business Process Management)です。
BPMというとワークフローシステムの印象が強いかもしれません。しかし、BPMシステムが持つ本来のプロセスマネジメントの機能は、業務を動かし継続的に改善していくためのプラットフォームそのものです。しかも、スモールスタートで効果を確かめながら規模を広げていくといったRPA導入手法との親和性も高いという特長もあります(図表3参照)。

図表3 BPM Platform

図表3 BPM Platform

3. BPMの生い立ち

とはいえ、「古くからあるBPMをなぜ今さら」と感じた方もいらっしゃることでしょう。そこで、BPMの生い立ちを簡単に振り返ってみます。
1990年代より広まったBPR(Business Process Re-engineeing)は業務プロセスや組織、ルールなどを抜本的に見直す業務改革手法として、特にERP(統合基幹業務システム)の導入を進めていた企業で多く受け入れられました。ただ、単発的で規模も大きいBPRは職場に与える影響が大きく、改革が継続しにくいといった性質がありました。これに対しBPMは、業務を可視化しながら継続的に改善のPDCAサイクルを回す取組みとして2000年代初頭に登場しました。BPMの黎明期では、企業は「業務の見える化」による課題解決を進め、それに呼応するツールベンダーは「業務フロー作図機能」を中心に、戦略や組織、ITシステム群を業務フロー図にマッピングさせるEnterprise Modeling製品を提供しました。その後、ワークフローシステムに、複雑な業務分岐処理を担うルールエンジンや業務パフォーマンスを測定するBusiness Activity Monitoring (BAM)機能を付加したBPMスイート製品が販売され、システムとしての完成を見ました。ところが実際には、ワークフロー機能を中心に導入が進められたケースが多く、改善施策によるプロセス設計の変更のやりやすさや、プロセス管理というBPM本来の機能が陰に隠れていたように思えます。

III. RPAの大規模展開の先にあるオートメーション化の方向性

1. RPAを繋ぐプロセスから自動化余地を考える

話を元に戻しましょう。RPAの大規模展開を成し得た企業では、既に業務の自動化余地の限界を感じ始めているかもしれません。そこでRPA化が取り残された業務を再度棚卸しして、それらの業務がプロセス全体のどこに位置し、また細分化するとどのようなサブプロセスになるかという視点から業務を可視化し、さらなる自動化の余地を検討してみてください。
たとえば、コールセンターの応答業務で、「電話で受けた問い合わせ内容をオペレーター(人)がCRMシステム※1に入力し、後日その内容を分析するのにデータを集約してExcelに一覧化する作業をRPAが処理する」といったプロセスを見てみましょう。プロセスの開始点である「受電」は、IVR※2システムで担当のオペレーターに振り分けられますので、そこはRPA以前に自動化済みです。ただし、次の電話内容入力作業はオペレーターであるため、受け応えそのものや内容のシステム入力作業は音声認識の技術で自動化できそうです。さらに内容集計を行う工程を分解すると、RPA処理の手前で人が(RPAが集計しやすいように)データを分類して定型化する作業が見えてきます。そこで、そのロジックの分析により「AIが入力された文字データを認識し、あらかじめ定めたカテゴリーにその内容を仕分けてRPAが定型データ化する」などの対処が考えられます。また、各タスクを繋ぐプロセスの実行は、「前工程が終わったら自動で後続プロセスを処理するシステムを起動させよう」というように自動化の対応が進められるでしょう。

※1 CRMシステム:CRMは、Customer Relationship Managementの略。顧客との関係や情報を管理するシステム。

※2 IVR:Interactive Voice Responseの略。掛かってきた電話を自動応答で担当者などに振り分けるシステム。

2. IAの実現を担う次世代BPM2.0

こうした業務プロセス全体の流れを自動で制御する仕組みのうえでIAを実現するビジネスプロセス管理の在り方を、KPMGでは“次世代”という意味を込めて「BPM2.0」と呼んでいます。BPM2.0によるIAの追求は、企業の全体最適の追求でもあります。したがって、そこからは業務プロセスを中心に取り巻く企業の構成要素との連携をも考慮していかねばなりません。
この要素とは、企業戦略や製品とサービス、人と組織、業務マニュアルや規程類などのドキュメント、ITインフラやデータストアなどであり、これらはすべて業務プロセスに紐づいて実行、管理されています。RPAの大規模展開の先では、こうした要素との連携にも施策検討の幅を広げることで、さらなる企業改革の方向性が見えてくるでしょう(図表4参照)。

図表4 プロセスを中心にIA実現の方向性を探る

図表4 プロセスを中心にIA実現の方向性を探る

執筆者

KPMGコンサルティング株式会社
デジタルレイバー&トランスフォーメーション
シニアマネジャー 近藤 真
シニアマネジャー 信田 人

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