インダストリー4.0に対する取組みの現状~ビジネスリーダーの皆様へ~
本レポートでは、第4次産業革命(インダストリー4.0)という歴史的な変化のなかで、今後顕在化すると考えられる複雑なビジネス課題について考察します。i4.0への対応には、十分な情報と戦略的かつ価値志向のアプローチが重要です。そして、企業全体を変革させる大胆で新しい道筋を描く必要があります。
i4.0の対応は、十分な情報と戦略的なアプローチが重要となり、企業全体を変革させる大胆で新しい道筋を描く必要があります。
変革に向けた詳細なロードマップ
テクノロジーに対するハイプ(誇張や煽り)が広がる昨今、各企業はi4.0に関する様々な取組みを猛スピードで進めています。i4.0市場では真のパラダイムシフトが起きつつあり、その市場規模は2022年までに1,520億米ドルにまで拡大すると見込まれています※1。
一方で、現在のi4.0の取組みは、部門別や機能別にそれぞれ行われており、採用されているi4.0テクノロジーも様々です。企業戦略との一体感やアプリケーションの独自性も、テクノロジーごとに大きく異なります。現状のi4.0ツールやテクノロジーにおいて、エンドツーエンドの相互接続性を提供しているもの(KPMGでは、これを実現していることがi4.0の成熟度として最も高いレベルにあると定義)はごくわずかです。
i4.0の成熟度を高めるためには、ビジネスリーダーが積極的に変化を牽引し、将来に向けたインテリジェントで統合されたi4.0ロードマップの策定と実施を管理していくことが成功の秘訣です。全社的に明確な戦略を示し、機能・部門ごとに分断された縦割り組織を撤廃し、人、プロセス、テクノロジーを統合していくことが必要となります。
価値を生み出すための変革は、1つの重要な問いかけ「なぜ?」から始まる
私たちは、行き当たりばったりの変革に乗り出す前に、CEOや経営幹部に、「なぜ変革を求めるのか?」と自問することを勧めます。
「単に業務の効率化を目指すのか? 業務の方針と手順を変更したいのか? ネットワークの有効性を大きく改善したいのか? 新たな製品・サービスを作り出せる可能性を高めたいのか? これらすべての質問について、企業は答えを出さなければなりません」と、KPMGインドのオペレーションズアドバイザリー部門のパートナーでi4.0のカントリーリーダーであるRavind Mitheは述べています。それぞれの答えが、潜在的な成果 - i4.0の実現技術を使って到達したい『ゴール』を示します。しかし、予想される終盤戦を明確に理解しておくことが重要です。
価値を選択する際、その影響が及ぶ範囲を認識することも重要です。価値創造要因に対する支配力を、組織内に押しとどめておくことは可能ですが、サプライチェーンや製造の段階に一旦移行してしまえば、社外にも影響が及びます。
今日のスマートな製造企業は、サプライヤーとバリューチェーンプレイヤーがi4.0環境に加わることで、さらに高いレベルの価値が実現される将来を見通しています。これまでにない可視性、対応力、資本の柔軟性がもたらされます。
現在のバリューチェーンが明日のi4.0バリューネットワークへと姿を変えていくにつれて、真の価値が徐々に見え、サプライチェーン内でデータが柔軟に共有されます。決定事項や需要シグナルが、ネットワーク全体でリアルタイムに共有され、データソースがシステム全体に統合されます。そして、新しい機会が見つかり、パフォーマンスが劇的に改善します。
i4.0の成功に欠かせない要因
企業は、i4.0企業への進化をモニタリングし、追究し続けることがいかに重要かを理解しなければなりません。そうすれば、i4.0革命を成功に導く上でKPMGが重要であると考える要素、つまり、新しいメトリックやインセンティブ、新しいスキル、チェンジ・マネジメント、ガバナンス、サイバーセキュリティ等の導入が不可欠であることが分かります。
短期的に見た場合、昔ながらの効率性、品質、コストのベンチマークもi4.0変革のメトリックになります。しかし今課題となっているのは、大規模かつ継続的な製品改良とイノベーションやマーケットシェアの獲得など、大きな変革や利益を創出することです。
近い将来、知性と迅速性と正確性を兼ね備えた新しい業績測定方法が確立されます。この新しいエコシステムでは、関連性のあるデータをセンサーが捉え、目的に沿ってそのデータを瞬時に組み合わせ、分析し伝達することが可能になります。
例えば、第5世代(5G)モバイルネットワークの標準化は、鉄道の建設と同じくらい抜本的な革命として期待されています。企業のマーケティング、つながる工場、ロジスティクス、運輸、労働力等において、大変新しい利益をもたらすでしょう。5Gを活用すればi4.0における製品やプロセスがインターネットにつながるようになり、装置とセンサーが人を介さずに互いに通信しながら意思決定を行います。これまでは、モバイル回線の容量制限や安全かつ高速に処理する能力が不足していたので、その使用には限界がありました。5Gはこれを可能にします。
一方で、こうした破壊的なビジネスモデルでは、熾烈な人材獲得競争が始まっています。新たに定義される労働力の特徴は、継続的なイノベーションを牽引するという重要な新しいスキルを持っていることです。彼らは、ロボティクス、人工知能、自動化、データ分析ツールと連携して高い生産性を発揮する才能を備えています。
最前線を知るKPMGからのメッセージは、人材獲得競争は企業のトップが主導すべきということです。経営幹部レベルのリーダーは、労働力のイノベーション、スキル開発そして変化に着目する文化を新しいビジネスモデルに取り入れるノウハウを必要としています。この争いの勝者は、競争力と業績において優位に立つことでしょう。
また、賢明な現代のチェンジ・マネジメントは、デジタル経済にとって不可欠であり、CEOらはここでも道を切り拓いていくことが求められます。新たなガバナンスの枠組みと統治下では、将来の職場文化における新たな「デジタルレイバー」とそのコグニティブテクノロジーとの関係性について管理することも求められます。そのような職場文化では、賢明なリーダーが従業員と直接かつ頻繁に、能動的なコミュニケーションを取る必要があります。
結論:勝敗を分けるアクション
KPMGがビジネスリーダーの方々へ呼びかけているメッセージははっきりしています。デジタル経済における成功の秘訣は時間の経過とともに変化するため、今日のi4.0改革への挑戦では迅速な戦略が求められています。
多くの先見の明のある企業にとって、KPMGは「デジタルガイド」としての役割を果たしていきたいと考えています。KPMGは、継ぎ目なくi4.0への統合が進むよう、バリューチェーン全体を網羅する技術プロバイダーと提携しています。さらに私たちは、i4.0のチェンジ・マネジメント、ガバナンス、人材競争において、時宜を得た知見や助言、そしてベストプラクティスを提供しています。読者の行動を促す一環として、これらの重要なポイントを簡潔にまとめておきます。
KPMGから提示する重要なポイント
1. 実験段階は終わりました。大胆かつ戦略的になりましょう
製造業は、世代交代の真っただ中にあります。CEOや経営幹部といった意思決定を行う方々が直面している課題はまさに歴史的なものです。コネクティビティに関して差し迫った経営課題が前途に横たわっていると考えてください。工場の作業現場からではなく経営幹部の側から、全体を踏まえた戦略を掲げる大胆なリーダーシップを発揮しましょう。
2. 全体を踏まえたエコシステムを実現するために、テクノロジーではなく価値と業績を最優先しましょう
成熟したi4.0へのプロセスはお金で買えません。真の変革のためには正しく順序だったロードマップが必要です。この複雑な取組みに着手する前に、なぜ変化を求めようとしているのか自問してください。個々の技術ではなく、まずは戦略的なビジネスの成果を推進することに注力してください。貴社の体制を機能別の縦割り組織から価値のネットワークへと再編し、新しいデジタル技術が企業にもたらす価値を尊重する文化を醸成しましょう。
3. 現在の好機と、生き残りをかけた真の脅威を認識しましょう
i4.0改革の推進を支える役割は、CEOや経営幹部にかかっています。企業全体を網羅する前向きかつ戦略的なプログラムを構築しましょう。将来の成功のモニタリング手法を再定義する形で、現在のKPIを見直してください。この歴史的なi4.0変革を自らのものとして受け入れてください。デジタル経済における前例のない好機と、成功と生き残りを脅かす新たな脅威との分岐点にいることを理解しましょう。