学校法人の勘定科目と会計上の留意点 第5回:人件費
人件費における会計上の留意点を解説します。
人件費における会計上の留意点を解説します。
人件費の種類
学校法人の人件費は、以下の通り区分されます。
科目名 | 内容 | 対象者 |
---|---|---|
教員人件費(支出) | 教員に支給する本俸、期末手当およびその他の手当ならびに所定福利費をいう。 | (1)大学の場合 学長、校長、副学長、教授、准教授、講師、助手 (2)高等学校以下 校長、副校長、園長、教諭、助教諭、講師、養護教諭、養護助教諭、司書教諭 |
職員人件費(支出) | 教員以外の職員に支給する本俸、期末手当およびその他の手当ならびに所定福利費をいう。 | 教員以外の者。 事務員、用務員、運転手等 |
役員報酬(支出) | 理事および監事に支払う報酬をいう。 | 理事(理事長を含む)、監事 (評議員は含まれてない。) |
退職金(支出) | 退職者に対する退職金支払額をいう。 | 規程等に基づき支給対象となっている教職員 |
退職給与引当金繰入額 | 期末に計上すべき退職給付引当金残高に不足額が発生した場合の繰入額であり、事業活動収支計算上のみ計上される。 |
本務と兼務の区分
人件費は、人件費支出内訳表上、教員・職員に区分された後、それぞれ本務教員(職員)・兼務教員(職員)に区分することが求められています。本務、兼務の区分は基本的に学校法人との身分関係が正規であるかどうかにより判断されますが、私立大学等の場合、私立大学経常費補助金取扱要領における専任教員(職員)は原則として本務者となります。専任教員(職員)に該当するためには、下表の3つの基準(発令・給与・勤務形態)を満たす必要があります。
種類 | 基準 |
---|---|
本務教員(職員) =常勤 |
(1)発令 補助対象年度の4月30日以前に当該学校法人の設置する私立大学や高等専門学校(以下「私立大学等」)の専任教員もしくは専任職員として発令されていること。 |
(2)給与 当該学校法人から主たる給与の支給を受けていること。 |
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(3)勤務形態 1)教員の場合 当該学校法人の設置する私立大学等に常時勤務している者で、原則、1週間の割当授業時間数が6時間以上の者であること。 2)職員の場合 当該学校法人本部または、私立大学等に常時勤務している者で、当該私立大学等に係る職務に主として従事し、職務内容が所定の範囲内であるもの。 |
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兼務教員(職員) =非常勤 |
上記の要件にあてはまらないもの。 |
人件費支出内訳表
1. 人件費支出の部門別計上
「資金収支内訳表」、「事業活動収支内訳表」と同様に、人件費支出についても部門別の内訳表である「人件費支出内訳表」を以下の考え方に基づいて作成する必要があります。
内容 | |
---|---|
目的 | 学校法人の諸活動のうち、各部門がどのような収支状況・経営状況にあるのかを把握するため。 |
配賦方法 | 原則:発令基準(=所属基準) ※人件費支出は、他の支出金額と異なり、個人に支払う給与等を各学部に配分するのではないため、在学者数などの合理的な配賦基準によって各部門、各学部、各学科に配分する方法はとらず、教職員が所属している部門に計上する。但し、大学の教授として発令されている者が高校の授業も担当し、当該分は高校より支給されているような場合には、実態に応じてそれぞれの部門に計上する。 |
2. 人件費の内容
人件費内訳表上、本務教員と本務職員にかかる人件費は、さらに以下の区分表示が求められています。
人件費内訳 | 内容 |
---|---|
本俸 | 給与規定に基づく基本給。 |
期末手当 | 夏季、年末、年度末の賞与など。 |
その他の手当 | 期末手当以外の手当。たとえば、勤務手当、扶養手当、住宅手当、勤務手当、超過勤務手当、管理職手当など。 |
所定福利費 | 私学共済掛金・雇用保険、労働保険、都道府県の私学退職金団体の負担金など。 |
私立大学退職金財団負担金 | 公益財団法人私立大学退職金財団の負担金。 |
人件費と経費の区分
人件費と経費の区分は、雇用契約に基づいて支出されたか否かによります。
例示 | 勘定科目 | 備考 |
---|---|---|
アルバイト料 | 人件費 | 入試補助や研究補助等のアルバイト料は、労務の提供に対する対価であるため。 |
非常勤講師に卒業の指導料を支払った場合 | 人件費 | 学生に対する教育活動の一環であって、大学との雇用関係から生じる役務の提供に対する報酬であるため。 |
非常勤講師に支払う旅費(通勤手当) | 人件費 | 講師として出校するための交通費は、通勤手当となる。ただし、学校、校務のための出張費は旅費交通費として、その用務の内容に従い、教育研究経費と管理経費に区分して処理されることになる。 |
人材派遣料 | 管理経費 | 人材派遣会社から人材を派遣してもらう場合は、学校と派遣会社の委託契約になるため。 |
出向料 | 人件費 | 出向元の身分を保留したまま学校法人との雇用関係に入るものであり、出向料はこの雇用契約に基づく役務の提供に対する対価と考えられるため。 |
校医手当 | 人件費 | 医師と直接雇用契約を結んで手当を支給する場合。(ただし、病院との委託により医師を派遣してもらう場合の病院への支払や、個人の医師に顧問料として支払う場合には経費となる) |
渡切定額研究手当 | 人件費 | 教員に年間一律に一定額の研究手当を支給し、領収書等を提出させない場合。 |
評議員の報酬 | 管理経費 | 評議員への報酬は役員報酬に含まれず、管理経費となる。 |
退職給与引当金
1. 計算方法
退職給与引当金は以下のとおり算定する必要があります。
(前提:引当金の計上基準は、期末要支給額に対し100%基準を採用している場合)
- 独自に退職時一括払いしている場合
期末退職金要支給額×100% - 私学退職金団体に加入している場合
期末退職金要支給額×100% - 期末交付金相当額 - 私立大学退職金財団に加入している場合
期末退職金要支給額×100% - (掛金の累計額 - 交付金の累計額)
(注)平成23年度末に100%基準に変更かつ経過措置を採用している学校の場合には、変更時差異分については、10年以内に均等額組入を実施。また、独自の年金制度に対する具体的な会計処理についての基準はない。
2. 表示科目
企業会計のように「退職給付費用」のような1つの科目にまとめられていないため、各支出(費用)及び交付金については、「退職給与引当金繰入額」の他、「私学退職金団体掛金」、「私立大学退職金財団負担金」、「雑収入(私学退職金団体交付金収入、私立大学退職金財団交付金収入)」等の科目で計上します。
3. 留意事項
- 学校法人が私立大退職金財団から受け取る交付金は、事業活動収支計算書上、退職金と交付金は相殺せずに両建て表示します。
- 私学退職金団体に加入している場合には、事業活動収支計算書において、当該教職員に係る退職金と交付金の額を相殺して表示することができます。
- 私学退職金団体に対する負担金(入会金、登録料、掛金等負担金)は、人件費支出の小科目の「所定福利費支出」、「私学退職金社団掛金支出」等の科目で計上されますが、私学退職金財団に対する負担金は「所定福利費支出」には含めず、「私立大学退職金財団負担金支出」等の科目で計上します。
その他留意事項
項目 | 留意点 |
---|---|
兼任の扱い | 教員と職員を兼任している場合、それぞれの担当時間、職務内容、責任等によって主たる職務と考えられる方に分類する。1人の人件費を教員と職員で按分するような処理は行わない。 職員と役員を兼任している場合、学校法人の職員給与表あるいは職員給与の支給実態から、職員として妥当とされる額を職員人件費とし、これを超える額を役員報酬とする。 |
補助活動に関する人件費 | 補助活動事業にかかる収支の計算書類における表示については、総額表示を原則とするが、純額表示も認められる。総額表示の場合は、職員人件費支出に含める。純額表示の場合は、人件費を相殺する場合と相殺しない場合が認められる(学校法人委員会報告第22号)。人件費を相殺する方法を採用していれば、結果として人件費支出内訳表に人件費は記載されないことになる。 |
開示
資金収支計算書、事業活動収支計算書における開示は以下の通りです。
資金収支計算書 | 事業活動収支計算書 | 備考 |
---|---|---|
支出の部 | 教育活動収支事業活動支出の部 | |
人件費支出 | 人件費 | |
教員人件費支出 | 職員人件費 | |
職員人件費支出 | 職員人件費 | |
役員報酬支出 | 役員報酬 | |
退職金支出 |
退職金 |
私学退職金団体に加入している場合には、事業活動収支計算書において、当該教職員に係る退職金と交付金の額を相殺して表示することができる。 |
退職給与引当金繰入額 |
事業活動収支計算書のみ計上。 |