IASB、「財務報告に関する概念フレームワーク」を公表
IFRSニュースフラッシュ - IASBは2018年3月29日、一般目的財務報告の目的及び諸概念に関する「財務報告に関する概念フレームワーク」を公表しました。
IASBが、2018年3月29日に公表した一般目的財務報告の目的及び諸概念に関する「財務報告に関する概念フレームワーク」の概要を解説します。
概念フレームワークの改訂プロジェクト
従来の概念フレームワークは1989年に公表され、その後2010年に部分的に改訂されたものですが、実質的に未完成であり、その見直しが必要とされていました。具体的には、「一般目的財務報告の目的」「有用な財務情報の質的特性」の2つの章は2010年に改訂されましたが、「報告企業」の章はタイトルのみで本文については今後追加の予定とされ、資産や負債などの定義について述べた「財務諸表の構成要素」や、その認識・測定については、1989年公表時の本文が残されたままとなっていました。
概念フレームワークとは
概念フレームワークはいわゆる「IFRS基準書」ではありません。その目的は、
- 今後IFRSの各基準書を開発するうえでIASBがよりどころとすべき一貫した概念を提供する
- 財務報告書の作成者に対し、IFRS基準書上の規定がない場合において首尾一貫した会計方針の策定を支援する
- すべての関係者が、IFRS基準書を理解し解釈することを支援する
とされており、IFRSの各基準書において規定されている会計・開示の要求事項を上書きするものではありません。概念フレームワークと基準書の内容に矛盾がある場合は、基準書における定めが優先します。但しIFRS基準書上に規定がない場合には今回の改訂により従来の会計方針が影響を受ける可能性があります。
今回公表された概念フレームワークは、今後の基準開発・改訂に影響を与えるものと考えられます。
改訂の概要
今回公表された概念フレームワークにおいて見直しが行われた主な点は、以下の通りです。
- タイトルのみであった「報告企業」の章について本文が追加された。また、1989年当時の本文が残されていた部分についても章立てが整理され、概念フレームワークとしての全体像が完結した形となっている。
- 経営者の受託者責任(Stewardship)の評価に使用される情報が、財務報告の目的の達成に必要な理由が明確化された。
- 有用な財務情報の基本的な質的特性としての「目的適合性」「忠実な表現」を堅持しつつ、忠実な表現のための中立性は慎重性の行使によって支えられるものであること、また、測定の不確実性はそれ自体が財務情報の有用性を妨げるものではないことを明確化した。なお、慎重性とは不確実性を伴う局面において警戒心をもって判断すべきことを指しており、いわゆる、保守主義とは異なる。また、表現が忠実であるかどうかは、契約の法的形式ではなく、契約によって生じる権利義務の実質を表現するかどうかがポイントである。
- 資産・負債の定義は精緻化され、負債の定義における「現在の義務」をどのように考えるべきかのガイダンスが提供された。ただし、資本の性質を持つ金融商品において金融負債と資本をどのように峻別するかについては、別プロジェクトでの検討が進められており、本フレームワークでは触れられていない。
- 資産や負債、収益や費用をいつ認識すべきか、また、どのように測定すべきか、といった点に関しては、「目的適合性」「忠実な表現」の観点からの判断が求められるとされた。また、認識の中止に関するガイダンスが新たに追加されている。
- 表示と開示に関する章が新設され、損益計算書は報告期間における企業の財務業績に関する情報の主要な源泉であるとされた。よって、すべての収益費用は原則として損益計算書に表示され、「目的適合性」「忠実な表現」の観点からより適切と考えられる限定的な状況においてのみ収益費用は「その他の包括利益」に表示される。「その他の包括利益」に表示された収益費用は、後日、「目的適合性」「忠実な表現」の観点から適切と考えられる報告期間において組替調整(いわゆる『リサイクリング』)されるが、組替調整が「目的適合性」「忠実な表現」に資さない場合においては組替調整を行わないこともありうることが明確にされている。
発効日
基準設定主体であるIASB及びIFRS解釈指針委員会においては、公表後即時適用されます。
一方、IFRS基準書上に明確な定めがなく、従前の概念フレームワークに基づき会計方針を策定していた財務報告書の作成者については、2020年1月1日以降開始する事業年度から適用されます。