SDGsについてどのように報告するか

KPMG Internationalは、2018年2月に、“How to report on the SDGs: What good looks like and why it matters※1を発行しました。

KPMG Internationalは、2018年2月に、KPMG Survey of Corporate Responsibility Reporting 2017を ...

※1 How to report on the SDGs: What good looks like and why it mattersは、KPMGによるCSR報告調査2017についての補足として発行


人間、地球及び繁栄のための17のゴール・169のターゲットからなる「持続可能な開発目標」(Sustainable Development Goals: SDGs)は2015年に採択され、既に多くの企業は経営や企業報告にSDGsを統合することを試み始めています。しかし、この取組はまだ始まったばかりであり、SDGsについての報告のための標準的なプロセスや基準は確立されておらず、SDGsについてどのように報告すべきか、多くの企業が悩んでいることも事実です。

本レポートは、世界の大企業(フォーチュングローバル500の上位250社)(以下、「G250企業」といいます。)によるSDGsについての報告が現状のところどこまで成熟しているのかを評価するとともに、優れた報告の事例を紹介しています。本レポートは、特に、SDGsへの取組に関する報告について悩まれている企業の実務担当者にとって非常に有用であると考えます。

調査方法

KPMGは、G250企業によるSDGsに関する報告の成熟度を評価するにあたり、「認識(Understanding)」、「優先順位付け(Prioritization)」、「測定(Measurement)」という3つの観点から、以下の9つの評価規準を設定しました。

認識

1. SDGsに取り組むことのビジネス上の意味を説明しているか?

2. 経営者自らがSDGsについて言及しているか?

3. SDGsに対するインパクト評価の結果を説明しているか?

優先順位付け

4. SDGsの17のゴールのうち、自社の活動やステークホルダーにとって優先順位の高いものを特定しているか?

5. SDGsの優先順位付けの方法について説明しているか?

6. SDGの169のターゲットのうち、自社のビジネスに関連性の高いものを特定しているか?

測定

7. SDGsに関連する自社の取組についてのパフォーマンス目標を公表しているか?

8. 設定されたパフォーマンス目標はSMART(具体的で、測定可能で、達成可能で、自社ビジネスに関連性が高く、期限が定められている)か?

9. SDGsの取組の進捗を測定するために用いている指標について詳しく説明しているか?

主な調査結果

認識

SDGsについて報告しようとするすべての企業にとって、SDGsがビジネス上どのような意味を持つのかについての認識を説明することは重要であり、これは、SDGsに関する報告の基盤であるとKPMGは考えます。しかし、それについて説明している企業は驚くほど少なく、明らかに課題であるといえます。

また、SDGsに対するインパクト評価の結果を説明している企業は少なくありませんが、多くの企業はポジティブなインパクトについてのみ報告しており、ポジティブなインパクトとネガティブなインパクトの両方についてバランスよく議論している企業は極めて少数です。バランスの取れていない偏った説明は、報告の信頼性にも影響を与えかねません。

優れた開示例:Samsung Electronics

2017年のサステナビリティレポートにおいて、同社はSDGsを自社の持続可能性戦略枠組みの中心に置き、ビジネスとの関連性を明確に説明しています。例えば、SDG10(人や国の不平等をなくそう)について、同社は「雇用創出等により地域の貧困の撲滅に貢献する」とする一方で、自社のビジネスが「発展途上国内においては、不平等や貧困に対する間接的なインパクトを及ぼす可能性がある」としており、ポジティブなインパクトとネガティブなインパクトの両方についてバランスよく議論している好事例といえます。※2
 

※2Samsung Electronics Sustainability Report 2017(英語PDF:22MB)

優先順位付け

SDGsについて報告しているG250企業の84%は自社の取り組みの優先順位の高いSDGsを特定しており、半数以上はSDGsの優先順位付けの方法について説明しています。また、優先順位の高いSDGsを特定している企業の42%はSDGsを「バリューチェーン全体のビジネス活動」と関連付けしていますが、23%の企業はSDGsを「CSR活動」と関連付けしています。これは、SDGsをビジネスイシューとしてではなくCSRイシューとして捉えている企業が少なくないことを意味しています。

なお、SDG13(気候変動対策)やSDG8(働きがい・経済成長)を優先順位の高いゴールとして特定している企業が多い一方で、SDG14(海洋資源保全)やSDG2(飢餓撲滅)を優先順位の高いSDGsとして挙げる企業は少ないという結果でした。

また、自社のビジネスに関連性の高いSDGターゲットを特定している企業も少数です。17のゴールだけでなく169のターゲットも含めて検討することで、それまで見えなかったリスクや機会が特定されることもありますので、関連性の高いSDGターゲットを特定することは有用であると考えます。

優れた開示例:Pfizer

多くのヘルスケア企業が自社が取り組むべきSDGsの優先順位付けを行っています。Pfizerの場合は、SDG3(すべての人に健康と福祉を)を自社の経営理念に密接なかかわりを持つものとして、高い優先度を認めています。また、SDG3に関連するターゲットに対する自社の取組の進捗状況を報告しています。また、その他の6つのSDGsについても自社が優先的に取組むべき課題としてその理由を記述しています。※3
 

※32016 Annual Review:Sustainable Development Goals (SDGs)

測定

SDGsに関連する自社の取組についてのパフォーマンス目標を公表しているのは、SDGsについて報告しているG250企業の3分の1程度であり、さらにSMART(具体的で、測定可能で、達成可能で、自社ビジネスに関連性が高く、期限が定められている)な目標を設定している企業はさらに少数です。これは、多くの企業はまだSDGsの優先順位付けを行っている段階であり、目標設定はこれからであることを示唆している可能性があります。特定した優先順位の高いSDGsに関する目標の設定は明らかに課題であると言えます。

優れた開示例:Vodafone

同社はSDGsに関連する取組について報告するための独立したレポートを発行しています。同社は、優先的に取り組むべき5つのSDGsを特定した上で、そのゴールに対する自社のコミットメントやパフォーマンス目標を明らかにしています。※4


※4Vodafone Group plc (2017): Our contribution to the UN SDGs available via

まとめ

企業によるSDGsに関する取組や開示は始まったばかりであり、世界の大企業にとっても大きな改善の余地があるといえます。一方で、SDGsの17のゴールに対して自社の既存の取組がどのように関連付けられるかという段階を超えて、既に自社のビジネスの長期的な戦略との統合や目標設定、インパクトの定量的な評価や進捗管理にまで取組を深めている先進企業も見られます。この点において、手始めにSDGsの169のターゲットと自社のコンピタンスとの関連性やインパクトを確認することは、企業のSDGsへの取組の有効性を高める一つの方法です。

有効なSDGs戦略は、企業が環境や社会に与えるポジティブインパクトを向上し、ネガティブインパクトを削減することに繋がります。SDGsに関する報告が成熟するにつれて、ステークホルダーとのコミュニケーションの活性化が促され、SDGsの達成に実質的に貢献する取組が拡大することが期待されます。

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