国際課税原則 帰属主義(AOA適用)への見直し
政府税制調査会の国際課税ディスカッション・グループの会合(10月24日)において、「国際課税原則の総合主義(全所得主義)から帰属主義への見直し」と題する報告書(以下「AOA報告書」)が、財務省により提出されました。
政府税制調査会の国際課税ディスカッション・グループの会合(10月24日)において、「国際課税原則の総合主義(全所得主義)から帰属主義への見直し」と題する報告書(以下「AOA ...
ハイライト
日本の国際課税の原則が総合主義から帰属主義へ見直されることは、かねてより、税制改正大綱などで示されていましたが、AOA報告書により、本改正の具体的な方向性が示されたこととなります。このニューズレターでは、同報告書の概要をお知らせいたします。
AOA報告書は、財務省主税局参事官の私的研究会として有識者によって構成された「帰属主義研究会」においてとりまとめられたものであり、同報告書で示された改正の方向性は変更される可能性があります。今後、政府税制調査会及び与党税制調査会等の議論を経て、12月に公表される2014年度税制改正大綱で改正内容の概要が示されたのち、来年3月の改正法案の国会通過により確定されることが見込まれます。なお、施行の時期についてはまだ明らかにされていません。
(本改正は個人の課税関係も対象としていますが、自国外に恒久的施設(以下「PE」(Permanent establishment))を有して事業活動を行う個人は少ないと考えられますので、このニューズレターでは法人の課税関係に限定して記述しています。)
英語コンテンツ
International Taxation Change to the Attributable Income Principle (AOA)
I. 改正のポイントと影響
1. 改正のポイント
「国際課税原則の総合主義から帰属主義への見直し」の改正には、以下の2つの要素が含まれています。
- 総合主義から帰属主義への変更
- PE帰属所得の算定にAOAを適用
(1)総合主義から帰属主義への変更
総合主義から帰属主義への変更は、多くの国で広く採用されている帰属主義を導入することにより二重課税・二重非課税を緩和し、日本が締結している租税条約との整合性を図ることを目的としています。
総合主義と帰属主義では、国内にPEを有する外国法人の課税所得の範囲が異なります。帰属主義のもとでは、PEに帰属する国内事業所得が法人税の課税対象とされ、PEに帰属しない国内源泉所得については、国内にPEを有しない外国法人と同様の課税(一部の譲渡所得等を除き、原則として、源泉所得課税のみ)がなされます。一方、総合主義のもとでは、国内にPEを有する外国法人については、そのPEに帰属する国内事業所得に(原則として)国内源泉所得のすべてが合算され、法人税の課税対象とされます。
日本が締結している租税条約のすべてにおいて帰属主義が採用されており、条約締結国の外国法人には現在も帰属主義が適用されていますので、この改正による影響はありません。しかし、条約非締結国の外国法人については、この改正により、PEを有する場合の法人税課税の範囲が縮小されることとなるほか、PEを有しないと理解していた法人がPE認定を受けた場合においても、PEに帰属しない国内源泉所得の課税関係に影響が及ぶことはなくなり、課税の予見可能性が高まることが期待されます。
(2)PE帰属所得の算定にAOAを適用
OECDモデル租税条約の第7条(事業所得条項)では、従前より帰属主義を原則としていたものの、その解釈や運用が統一されていなかったため、二重課税・二重非課税を効果的に排除することができていないという問題提起がされていました。そこで、OECDは検討を重ね、「PEへの利得の帰属に関するレポート」を2008年及び2010年に公表し、PE帰属所得の算定方法としてAOA(Authorised OECD Approach/OECD承認アプローチ)をとりまとめました。
AOAのもとでは、PEの果たす機能及び事実関係に基づいて、外部取引、資産、リスク、資本をPEに帰属させ、PEと本店等との内部取引を認識し、その内部取引が独立企業間価格で行われたものとして、PE帰属所得を算定することとなります。
なお、OECDモデル租税条約の第7条及びそのコメンタリーは、2010年にAOAに沿ったものに改正されましたが、現在締結されている租税条約の多くが改正前の第7条(旧7条)型であることから、旧7条及びそのコメンタリー(2008年に改正され、旧7条の条文に矛盾しない範囲でAOAを部分的に導入しています。)も、OECDモデル租税条約・コメンタリーに付録として収録されています。
2. 改正の影響
本改正により、日本の外国法人課税には、以下のような影響があるものと考えられます。
国内PEあり | 国内PEなし | |
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外国法人 (条約非締結国) |
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外国法人 (条約締結国) |
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また、外国法人課税の原則の改正に伴い、内国法人についても、以下のような影響があるものと考えられます。
国外PEあり | 国外PEなし | |
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内国法人 |
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II. AOA報告書の概要
AOA報告書で示された本改正の概要は、以下のとおりです。(AOA報告書においては改正の方向性が提案形式で述べられていますが、ここでは提案形式の表現を省略しています。)
A. 外国法人課税
1. 基本方針
- 外国法人に対する国内法の課税原則を、総合主義から帰属主義に変更する。
- 帰属主義は基本的に2010年改正後のOECDモデル租税条約第7条(「新7条」)と整合性を図るものとする。
2. 国内源泉所得
(1)国内にPEを有する外国法人の課税関係
- PE帰属所得を国内源泉所得として位置付ける。(たとえば、PEの第三国における投資所得は、現地国における課税の有無にかかわらず、日本で課税されることとなる。)
- PE帰属所得以外の国内源泉所得は、PE帰属所得とは分離して課税することとし、原則として、国内にPEを有しない外国法人が得る国内源泉所得と同様の課税関係とする。
(2)国内にPEを有しない外国法人の課税関係
- 原則として改正なし。
3. PE帰属所得
(1)基本的考え方
- PE帰属所得は、PEが本店等から分離・独立した別個の者であるとした場合に、そのPEによって遂行された機能、使用された資産及び引き受けられたリスクに基づき、独立企業同士であればそのPEが取得したとみられる所得とする。
(2)単純購入非課税の規定
- PEが本店等のために行う単なる購入活動からは所得が生じないものとする単純購入非課税の取扱いは、独立企業原則との整合性の観点から廃止する。(旧7条は単純購入非課税を定めているため、条約の直接適用が可能であるとしても、法令の適用の明確化等の観点から、国内法で調整措置を講ずる。)
(3)内部取引
- PE帰属所得の計算上、PEと本店等との間で資産の移転、役務の提供その他の行為があった場合において、独立企業同士で同様の事実があったとしたならば対価のやり取りが行われるであろうと認められる事実があるときは、その事実に即して、PEと本店等との間で、あたかも独立企業同士で行われた取引と同様の取引が行われたものとみなす。
- PE帰属所得の計算上、本支店間の内部保証取引及び内部再保険取引は認識しない。
- 新7条締結国及び条約非締結国との関係では、無形資産の内部使用料及び一般事業会社の内部利子(以下「内部使用料等」)を含めたすべての内部取引について益金算入・損金算入とし、旧7条締結国との関係では、内部取引のうち内部使用料等に限って益金不算入・損金不算入とする。
- 内部取引損益の認識は、外部取引損益の実現時ではなく、内部取引が行われたときとする。
- 以下の点に関し、移転価格税制と同様の取扱いとする。
- 内部取引価格と独立企業間価格が異なる場合において、PE帰属所得が過少となっているときは、取引価格を独立企業間価格に引き直して、PE帰属所得を増額調整する。
- 租税条約に基づく対応的調整によりPE帰属所得の減額を行うことは可能と考えられる。
- 更正期限を延長する特例、同業者に対する質問検査権及び推定課税についても、移転価格税制と同様とする。
- 内部取引に関する法人税・租税特別措置法上の取扱いは、以下のようにする。
- 本支店間の内部貸付は、貸倒引当金の対象外とする。
- 独立の当事者同士であれば寄附金と認識されるような事象が本店とPEとの間に存在する場合には、これを本店とPEとの間の寄附金と認識し、国外関連者に対する寄附金と同様に、全額損金不算入とする。
- 外国子会社配当益金不算入制度・連結納税制度の適用はなし。
- 過少資本税制の適用はないが、過大支払利子税制の適用はあり。
- 内部取引は税務目的で擬制された取引であることから、企業に対して実際の対価のやりとりを求めない。
- 内部取引の独立企業間価格算定については、事前確認の対象とする。
- 内部取引に対する源泉徴収による課税は行わない。
(4)費用配賦(本店配賦経費)
- 費用配賦については、従来の費用配賦と同様、単なる費用配賦として認められる額は本店等が外部に支払った実額を合理的な基準で支店に割り振った額までの損金算入を認める。ただし、費用配賦の算定に関する文書化がなされていない場合には、算定の根拠資料の提出がなされるまで、損金算入を認めない。
4. PEへの帰属資本・支払利子控除制限
- PEが本店等から分離・独立した企業であるとした場合に必要とされる程度の資本をPEに配賦する。
- PEに配賦すべき資本の算定方法は、以下の2つを基本とする。(優先順位はつけないが、継続適用を求める。)
(i)資本配賦アプローチ(本店等の資本の額を一定の基準でPEに配賦する方法)
(ii)過少資本アプローチ(PE所在地国において同様の活動を行う独立企業が有するものと同等の資本をPEに帰属させる方法)
- 無償資本の配賦のアプローチについても事前確認の対象とする。
- PEで計上された負債利子総額のうち、PEに配賦された資本からPEで計上された資本を控除した部分に対応する支払利子について、PE帰属所得の計算上、損金算入を制限する。
- PE帰属資本はPEにおける支払利子の損金算入限度額の計算においてのみ用いることとし、PEの税務上の資本金等の額の計算には影響させない。
5. 外国税額控除
- 外国法人のPE帰属所得について日本で課税を行う場合には、外国法人のPEが本店所在地国以外の第三国で稼得した所得について二重課税を受けるため、PEに対して外国税額控除を供与するための制度を新たに設ける。
- 課税対象となる国内源泉所得を決定するソースルールとは別に、外国税額控除の限度額算定の基礎となる国外所得の範囲を定義する。
- PE帰属所得のうち、PE帰属所得以外の所得に対するソースルールで判定した場合に国外で生じたものと認められる所得を、外国税額控除の限度額算定の基礎となる国外所得とする。
6. 文書化
- E帰属所得に係る文書化には、以下の2つのステップがある。
第1ステップ: 内部取引及びPEに帰属する外部取引の認識のための文書化
第2ステップ: 内部取引の独立企業間価格算定のための文書化
- 第1ステップの文書化において必要な書類としては、たとえば、以下のものが考えらえる。
- 契約書、領収証、送り状等の証憑類に相当する内部取引に関する書類
- 内部取引の内容を記載した書類
- PE及び本店が果たす機能及びその機能に関連するリスクの内容を記載した書類
- 外部取引において通常存在するであろう契約書等の証憑類に相当するものについては、青色申告法人の帳簿保存義務の対象とする。
7. 課税標準・欠損金
- 国内にPEを有する外国法人の課税標準を、「PE帰属所得」及び「PE非帰属国内源泉所得」の2区分とし、これらの所得を通算しないこととする。欠損金も同様に2区分とする。
8. PEの閉鎖・譲渡・設立
- PE閉鎖時のPE帰属資産については、その含み損益をPE帰属所得に加減算して課税を行う。
- PE全体が外部に譲渡される場合には、PEが自らの資産をすべて売却したものとみなしてPE帰属所得として課税する。
- PEの設立にあたって本店等からPEに資産を移転する場合には、PEでは時価で資産を取得したものと整理し、PEに含み損益を持ち込まないことする。
9. その他
- 外国法人のPE帰属所得及び税額計算に関して、同族会社の行為計算否認に類似した租税回避防止規定を設ける。
- 内部取引は法人税・所得税におけるPE帰属所得の算定の目的上認識するものであるため、消費税の課税対象とはならない。
- 法人住民税及び事業税の取扱いについても、原則として、帰属主義に変更する法人税の取扱いに準じる方向で見直す。
B. 内国法人課税
1. 外国税額控除
- 現行法令上、国外所得は「国内源泉所得以外の所得」と規定されているだけであるが、内国法人の外国税額控除の対象となる国外源泉所得の範囲を明確にするため、国外所得を項目ごとに定義する方式に改める。
- 国外PE帰属所得は、国外所得とされる項目のひとつとする。
2. 国外PE帰属所得
- 国外PE帰属所得の算定は、外国法人のPE帰属所得の算定と同様に、本支店間に独立企業原則を導入して算定することが原則であるが、以下の点に配慮することとする。
- 国外PE帰属所得の算定において、無償資本の配賦計算をオプションとする(計算明細を添付する等の要件を満たす場合に限って、過大な利子を損金不算入とすることを認める。)。ただし、銀行業及び証券業を営む法人については、別途規定が設けられる。
- 内部取引に関して作成を求める文書のうち、外部取引において通常存在するであろう契約書等の証憑類に相当するものについては、青色申告法人の帳簿保存義務の対象としない。