LBMA(ロンドン地金市場協会)第三者監査ガイダンスの公表について
2013年1月18日、ロンドン地金市場協会(LBMA)は、精錬会社が実施する金のサプライチェーンに関するデューデリジェンス対する第三者監査の具体的な要求事項を定めた「LBMA第三者監査ガイダンス」を公表しました。
2013年1月18日、ロンドン地金市場協会(LBMA)は、精錬会社が実施する金のサプライチェーンに関するデューデリジェンス対する第三者監査の具体的な要求事項を定めた「LBM ...
※1 ロンドン地金市場協会(LBMA):London Bullion Market Association
ロンドン地金市場協会(LBMA)とは
LBMAは、世界最古の金の取引市場であるロンドン金市場をルーツとする、国際的な業界団体です。LBMAは、「ロンドン金市場」「ロンドン銀市場」で流通する金・銀の規格を制定・管理するとともに、精錬会社や造幣局の登録・認定を行っています。
厳格な審査に合格して登録・認定された精錬会社は「Good Delivery(GD)リスト」に加えられ、「GDバー(Good Delivery Bar)」と呼ばれる同市場での受渡適合品を製造することができます。このGDバーの刻印のある金・銀地金は、高い品質を証明するものとして市場での信頼性を付加されることになります。GDバーを製造するGDリスト登録精錬会社(GD精錬会社)には、定期的な品質検査を受けることが義務付けられています。GD精錬会社が生産する金製品は、世界の年間金生産量の85~90%を占めるとされており、LBMAは国際的な金市場において最も重要な権威を持つ機関であると言えます。
LBMAレスポンシブル・ゴールド・ガイダンス
金をはじめとする鉱物資源の採掘に関しては、特に発展途上国や紛争地帯において、人権問題や労働問題、環境破壊、政治腐敗などに繋がるケースが多いことがNGO等によって指摘されていました。特に、アフリカのコンゴ民主共和国(DRC)において組織的な虐殺行為や紛争の長期化を引き起こしている武装勢力の資金源に、同国および周辺国で違法に採掘された鉱物の密輸が関与しているとして、こうした「紛争鉱物」を排除する動きが欧米を中心に活発化してきました。OECDでは、2000年よりDRCにおける鉱物資源の不法採掘問題についての専門家委員会が設置され、取り組みが進められていましたが、2010年12月、OECDから錫、タンタル、タングステンに関する「紛争地域からの鉱物のサプライチェーンにかかるDue Diligenceガイダンス※2」が公表されています。
一方、2010年7月、米国において金融規制改革法(Dodd-Frank Wall Street Reform and Consumer Protection Act of 2010:別名ドッド・フランク法)がオバマ大統領の署名により成立しました※3。この法律の第1502条(紛争鉱物規則)は、米国の証券取引所に上場する企業に対し、DRCおよびその周辺国で産出された紛争鉱物(金、錫、タンタル、タングステン)を製品に使用しているかどうかについて、情報開示を義務付けるものです。これを受け、米国証券取引委員会(US Securities and Exchange Commission、以下"SEC")も2012年8月、紛争鉱物に関する開示の最終規則を公表しています。
こうした動きに対応し、LBMAは、2011年12月、広範囲な人権侵害の防止、紛争助長の回避、マネーロンダリング防止のため、全てのGD精錬会社に適用される基準として、LBMA Responsible Gold Guidance(LBMA RGG)を公表しています。
LBMA RGGは、2012年3月に公表されたOECDによるDue Diligenceガイダンスの「金に関する補足文書」と連携して策定されており、主にGD精錬会社が人権侵害や紛争助長につながる紛争鉱物を調達しないために実施すべきデューデリジェンス(DD)について規定しています。また、精錬会社がGDリストへの登録を維持する要件として、LBMA RGGの要求事項にしたがってデューデリジェンスを実施し、遵守状況について、毎年独立第三者による監査を受け、年次報告を行うことを定めています。
※2 「紛争地域からの鉱物のサプライチェーンにかかるOECD Due Diligenceガイダンス(OECD Due Diligence Guidance for Responsible Supply Chains of Minerals from Conflict-Affected and High-Risk Areas)」
※3 弊社ニューズレター「米国証券取引委員会(SEC)、金融規制改革法に基づく新たな開示規則案を公表(1)~コンゴ民主共和国の紛争鉱物~」をご参照ください。
LBMA監査ガイダンス
今回公表されたLBMA監査ガイダンスは、LBMA RGGに基づいてGD精錬会社が実施する金のサプライチェーンDDに対する監査の具体的な要求事項を定めています。ガイダンスは、以下のような内容になっています。
LBMAレスポンシブル・ゴールド・プログラム第三者監査ガイダンスの構成内容
- はじめに
1.1 背景
1.2 LBMA RGGステップ4の実施
1.3 監査のタイミング
1.4 責任ある金の調達に向けた各種取り組みとの調和
1.5 監査人の資格
1.6 工数に関するガイダンス - サプライチェーン・デューデリジェンスの第三者監査
2.1 ISO19011に基づく第三者監査アプローチ
2.2 ISAE3000に基づく第三者監査アプローチ - 報告
3.1 精錬会社によるパブリックレポート
3.2 ISO19011に基づく監査の成果物
3.3 ISAE3000に基づく監査の成果物 - 第三者監査のフォローアップ
4.1 是正措置計画
4.2 不適合の意味
4.3 再評価 - 苦情対応メカニズム
付録1 不適合の定義
付録2 精錬会社のパブリックレポート例
付録3 ISAE3000に基づく保証業務における三者関係
付録4 ISAE3000監査の保証手続例
付録5 ISAE3000監査のために精錬会社が作成する年次報告書の例
付録6 ISAE3000監査による合理的独立保証報告書の例
付録7 ISAE3000監査による限定的独立保証報告書の例
出典:LBMA Responsible Gold Programme LBMA Third Party Audit Guidance Version 2 よりKPMGあずさサステナビリティ作成
LBMAが推奨する監査機関
LBMAは、GD精錬会社の監査が、国際的に認められたマネジメントシステム監査のための規格であるISO19011:2011※4もしくは国際監査・保証基準審議会(IAASB)による保証業務基準であるISAE3000※5のいずれかに準拠して行われることを求めています。ISO19011に基づく監査業務(ISO19011監査)を行う監査人(ISO認証機関等が想定されている)は、監査ガイダンス中のターコイズ色の表示のある箇所および2章2.1項のISO19011に基づく第三者監査アプローチを、ISAE3000に基づく監査(ISAE3000監査)を行う監査人(監査法人等が想定されている)は、監査ガイダンス中の紫色の表示のある箇所および2章2.2項のISAEに基づく第三者監査アプローチを適用することとなります。ここで、ISAE3000監査を実施する場合は、監査ガイダンス以外に別途ISAE3000の要求事項を適用することが求められます。一方、ISO19011監査の場合は、監査ガイダンスに示される要求事項のみを適用することとなっています。
LBMAは、監査機関の条件として、組織としての独立性、組織としての機能の適切性、監査人としての独立性および技能・能力を求めています。また、LBMAが推奨する監査機関のリストをLBMAのウェブサイトにて公表すると述べています。
※4 ISO19011:2011は、2011年11月15日に発行されたマネジメントシステム監査のための指針であり、あらゆるマネジメントシステムを対象とする監査(主に内部監査・第二者監査)のための手引を定めた国際規格です。
※5 ISAE3000(International Standard on Assurance Engagements 3000: Assurance Engagements other than Audits or Reviews of Historical Financial Information)は、国際会計士連盟(IFAC)の国際監査・保証基準審議会(IAASB)が作成した国際保証業務基準であり、2005年1月1日に発効しています。ISAE3000は過去財務情報に対する監査やレビュー以外の保証業務に適用されます。
ISAE3000に基づく監査と ISO19001に基づく監査:共通事項と相違点
ISAE3000に基づく監査とISO19001に基づく監査の共通事項と主な違いはそれぞれ表1および表2のようにまとめられます。
表1 ISO19001に基づく監査とISAE3000に基づく監査の共通事項
表2 ISAE3000監査とISO19001監査の主な違い
監査を受ける対象と時期
LBMA監査ガイダンスでは、GD精錬会社において、金の精錬に係る業務、プロセス、システムに積極的に関与している全ての全額出資事業所を監査の対象としています。一方、取引先の業務や、自社業務であっても金の精錬に関係のないものは対象に含まれません。
ここで、金を含む原材料のうち、その性状や加工の必要性などから、サプライチェーンにおける紛争やそのほかの人権侵害に加担するリスクが低いものについてはLBMA RGGの対象外とされています。具体的には、硫化銅や酸化鉱など他の金属の採掘や加工の過程で得られる金、溶鉱炉や送気管のダスト、使用済みのるつぼ、床掃除などで生じる価値の低い工業副産物として得られる金、他の金属の精製によって得られる(金を含む)電解スライムは、対象外とされています。
監査の時期については、LBMA RGGの運用が2012年1月1日以降に開始していることを前提として、2012年1月1日以降に始まるGD精錬会社の最初の会計年度終了日から3ヶ月以内に、最初の監査を受けなければならないとされています。
監査を実施すべき頻度については、以下のようにまとめることができます。
表3 ISAE3000監査とISO19001監査の実施頻度とスコープ
ISAE3000 | ISO19011 | |
---|---|---|
初年度および以降3カ年ごと | 合理的保証業務 *精錬会社は毎年合理的保証を選択することもできる。 |
フル監査 *中リスクまたは高リスクの不適合が発見された場合にはより高い頻度で監査を行う。 |
12か月ごと | 限定的保証業務 *合理的保証を実施する年度の間の2年間について実施する。 |
年次レビュー 精錬会社が同じ年にフル監査を受けた場合を除き、1年に1度実施する。 |
第三者監査実施後90日以内 | 合理的保証レベルのフォローアップ監査 *高リスクの不適合が発見された場合、精錬会社のコンプライアンス・レポート公表後90日以内に是正措置計画に対する合理的保証を行う。 |
フォローアップ評価 フル監査や年次レビューにおいて高リスクの不適合が発見された場合に実施する。 |
監査の手順と報告書
【ISO19011監査】
ISO19011監査は、監査計画、現地往査、報告およびフォローアップの手順に従って実施されます(図1)。監査人は、監査の報告として、LBMA Refiner Assessment Report(監査結果を詳細に報告する報告書)、LBMA Summary Report(監査業務のサマリー)を精錬会社へ提出します。監査の結果、不適合があった場合には、精錬会社はRefiner’s Corrective Action plan(是正措置計画)を作成します。監査人は、LBMA Summary Reportの写しをLBMAへ送付します。また、精錬会社はLBMA RGGのステップ5に基づいてLBMA Summary Reportを一般に公開します。
初年度の評価と、「適合」または「低リスクの不適合」と評価された精錬会社に対する3年ごとの再評価、「中リスクの不適合」または「高リスクの不適合」と評価された精錬会社に対する1年ごとの再評価の際に「フル監査」が適用されます。初年度の評価で「高リスクの不適合」という結果であった場合は、現地往査から90日以内にフォローアップ評価を行う必要がありますが、このフォローアップ評価を行わなかった場合、あるいは「高リスクの不適合」とされた事項に対する是正措置がなされていない場合、LBMAはその精錬会社をGDリストから外すことがあるとしています。また、監査への非協力や、監査結果への不正な介入、紛争、組織的・広域的な人権侵害、マネーロンダリングへの関与など、LBMAの信頼性や品位を貶める行動など認められた場合、「容認できない不適合」と判断され、LBMAによる個別のレビューの結果として、精錬会社をGDリストから外すこともあるとされています。
【ISAE3000監査】
ISAE3000監査は、基本的に以下の3つの手順に従って実施されます。すなわち、監査計画とリスク評価、保証手続の実施、結論の表明と報告です。監査の報告として監査人が精錬会社に提出するのは、精錬会社が作成したコンプライアンス・レポート(Refiner’s Compliance eport)に添付される独立保証報告書(Independent Assurance Report)と、監査の実施内容および発見事項、監査の結論を含むマネジメントレポートの2点です。不適合があった場合の是正措置計画の作成は精錬会社の責任となります。監査人はこれをレビューし、是正措置の実現可能性や効果、時間的な適切性、前期の是正措置計画に基づく施策などについてコンプライアンス・レポートとの齟齬がないかどうかを確認し、必要な助言をすることとされています。
ISAE3000監査を受け、「容認できない不適合」が発見された場合、LBMAによる個別のレビューの後に当該精錬会社をGDリストから外すこともあるとされています。精錬会社が発行するコンプライアンス・レポートと保証報告書は、LBMAによって一般に開示されます。
EICC/GeSI、RJCとの相互認証
紛争鉱物に係るサプライチェーンDDについて、独立第三者による監査を求める取り組みは、他の業界団体によっても構築されてきました。
米国の電子産業市民連合(EICC)と欧州の情報通信関連の業界団体であるGlobal e-Sustainability Initiative(GeSI)が共同で策定したConflict-Free Smelter(CFS)プログラムは、その一つです。EICC/GeSIのCFSプログラムは、精練所における調達活動を評価し、紛争鉱物を調達していないかどうかの検証を行い、精練所のコンフリクト・フリーを証明する取り組みです。これにより、サプライチェーンのより下流側の企業がそれぞれ独自に精練所の調査を行う必要がなくなるという仕組みです。
また、国際的なNGOである「責任あるジュエリー協議会(Responsible Jewellery Council: RJC)」は、宝飾品業界における責任ある調達を確保するため、ダイヤモンド、金、プラチナを用いた宝飾品のサプライチェーンに対する監査・認定を行っています。このような認証製品が非認証製品と混合しないように、製造・加工・流通における管理の状況を審査・認定する制度がCoC(Chain-of-Custody)認証です。いずれの取り組みにおいても、OECDのDue Diligenceガイダンスへの適合性を確認する内容が含まれます。
LBMAは、こうした他業界の取り組みへの対応を行う精練所の負担軽減と業界全体としての取り組みの効率化のため、EICC/GeSIのCFSプログラムとRJCのCoC認証プログラムとの相互認証を表明しています(表4)。
表4 LBMA、EICC/GeSI、RJCのサプライチェーン監査プログラムと相互認証
LBMA レスポンシブル・ゴールドプログラム |
RJC CoC認証プログラム |
EICC/GeSI CFSプログラム |
|
---|---|---|---|
共通事項 | 第三者監査、OECD DDガイダンスおよびSEC開示規則との整合性 | ||
主要な受益者 | ロンドン金地金市場 | 鉱山から小売店までの宝飾品のサプライチェーン | (サプライチェーン下流の)製造業者 |
監査の成果 | 継続的なGood Delivery認定 | CoC認証 | 確認された製錬所/精練所のリスト |
相互認証の範囲 | RJC CoC認証プログラムまたはEICC/GeSI CFSプログラムの監査を受けていることをもってLBMAレスポンシブル・ゴールドプログラムの要求事項を満たす |
LBMAレスポンシブル・ゴールドプログラムまたはEICC/GeSI CFSプログラムの監査を受けていることで、RJC CoC認証プログラムのうちconflict-sensitive sourcingの要求事項を満たす |
RJC CoC認証プログラムまたはLBMAレスポンシブル・ゴールドプログラムの監査を受けていることをもってEICC/GeSI CFSプログラムの要求事項を満たす |
免責事項 | EICC/GeSI CFSプログラムの要求事項を満たすことは、LBMAおよびRJCの紛争鉱物関連監査の要求事項を満たすことのみに相当する。LBMAのGood Delivery認定およびRJCのCoC認証を得るためには、他の要求事項を満たす必要がある。 |
出典:LBMA ウェブサイトIndustry Organizations Announce Cross-Recognition of Gold Refiner AuditsよりKPMG作成