ポストCOVID-19の世界と変革する宿泊業界

COVID-19禍の長期化に伴う消費者の行動変容により、転換期にある日本の宿泊業界について、事業会社・投融資家を対象にアンケート調査を行いました。今後の展望と専門家の見解を掲載します。

コロナ禍の長期化、宿泊事業と消費者の行動変容、転換期にある日本のホテル・旅館業界について、事業会社、投資家、金融機関にアンケート調査を実施。専門家がポストコロナ時代の展望を...

需要回復の見通し

<宿泊>COVID-19禍長期化への懸念と高価格帯宿泊需要への期待

本アンケートによれば、COVID-19禍前の2019年水準の需要と比較して、宿泊需要が8割以上回復する時期は、国内ビジネスと国内レジャーは2023年、訪日外国人は2024年以降が想定されています。ただし、国内ビジネスの回復の程度について、回答者の過半数はCOVID-19禍前の100%水準に回復せず、オンライン会議等の定着により構造的な国内出張需要の減少を見込んでいます。一方、国内レジャーと訪日外国人の宿泊需要は、特に高価格帯の宿泊施設に対する回復期待が強くなっています。

<宴会>宴会売上はCOVID-19禍前の水準に回復しない見通し

同様に2019年水準の需要と比較して宴会需要が8割以上回復する時期は、2023年が期待されています。ただし、飲食を伴う宴会の売上機会の減少とオンライン会議等の普及に伴い、一般宴会の売上回復の水準はCOVID-19禍前の90%以下の水準に留まる見通しです。また、婚礼宴会は、人口減少に伴う婚礼件数減少傾向に加えて、COVID-19禍を機とした参加人数の減少トレンドが進行する可能性があり、婚礼宴会売上の回復に自信を持てない環境となっています。

ポストCOVID-19と業務デジタル化

需要回復期は戦略的投資によるビジネス変革のチャンスであるため、宿泊業界のプレーヤーはさまざまな収益改善の取組みを推進することが見込まれます。
これまで宿泊施設の収益最大化のためには施設ハード面の投資が優先的に議論されてきましたが、COVID-19禍を機に業務デジタル化の投資が注目されています。ただし、業務デジタル化投資にあたり、新しい業務プロセスが有効に機能する組織への変更、ホテルのブランドプロミスを含めたマーケティング戦略の再構築、従業員への説明を含めた十分なインプリメンテーションの検討など総合的なアプローチが必要と考えられます。

施策実行の問題意識

COVID-19禍の長期化に伴い、現状の問題意識に対する最多の回答は、「新たなマーケティング戦略の構築」となっています。人々の働き方や顧客ニーズの変化に呼応したマーケティングが必要となる一方、専門領域のリソース不足が施策の実行を妨げており、専門性の高い人材の配置やそれらの人材が活躍する環境の整備が必要となります。セールス&マーケティング分野における業務のデジタル化、ユーザーフレンドリーなアプリの開発・運用など、自社リソースで不足なプロセスについては、外部リソースを活用して推進していく必要があります。さらに、需要回復時期に向けた労働力不足が懸念される状況下、従業員にとって働きやすい人事制度設計が重要となります。

運営改善の重要ポイント

宿泊業の事業会社が成長戦略の一環として運営改善を行う際に、本部機能の選択と集中を行う組織改革が必要と考えられます。特に高度化すべき本部機能の3分野は、(1)データアナリティクスに基づく経営、(2)業務デジタル化によるコントローラー機能強化、(3)専門性の高いマーケティングチームによる運営が挙げられます。マーケティングの高度化には、顧客エクスペリエンスの再定義や新しいターゲット顧客とのコミュニケーションが主要なテーマになると言えるでしょう。

新規開発・投融資の在り方

宿泊業の事業会社および投融資家共に、リゾート立地、価格帯のカテゴリではラグジュアリーが選好されており、COVID-19禍の長期化は、プレーヤーの認識を大きく変えたと言えます。また、本アンケートによれば、新規開発におけるサステナビリティ意識の高まりが顕著であり、これは今後の主要顧客となるミレニアル世代が一般的に環境やサステナビリティへの関心が高いことが一因と思われます。COVID-19禍を機にサービスの在り方やターゲット顧客を見直す必要があるため、施設商品の在り方には変化が生じる可能性があります。

オーナーとオペレーターの関係変化

ホテル運営スキームとして、オペレーターならびに投融資家はリース方式よりも運営受託方式(MC)を選好する割合が高くなっています。元来キャッシュフロー変動リスクが高いMCを採用するメリットとして、オペレーター変更の柔軟性の確保や収益アップサイドの追及などが挙げられます。また、COVID-19禍を機にオーナーとオペレーターが事業継続を共通利益として協議を行う中では、適時適切に経営判断を可能とするガバナンス体制の構築も求められます。

執筆者

株式会社 KPMG FAS
執行役員 パートナー 栗原 隆
シニアマネジャー クレパル 章子
マネジャー 谷本 千春

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