グローバルのM&A動向についてみてみると、2024年のグローバルM&A件数は50,223件となり、前年度の水準(58,254件)を下回った。この背景としては、欧米中銀は利下げに転じたものの、今夏まで続いた金融引き締め策の影響、加えて2024年は台湾、韓国、インド、ロシア、フランス、英国、米国など主要な国・地域で国政選挙が相次いだため、地政学的な不透明感もM&Aを抑制するに至った要因と考えられる。
図1:四半期毎グローバルM&A件数推移
出所:LSEG Workspaceのデータを基にKPMG作成
注:買収ターゲットの所在地(日本、中国、北米、欧州、その他)に基づき、M&A件数を集計(政府系機関除く12セクター)
2024年において日本企業が関与したM&A件数は3,802件となり、2023年の4,552件と比較し大幅に下回る結果となった。また、属性別にみても、国内案件は2023年3,706件→2024年3,104件、クロスボーダー案件は2023年846件→2024年698件といずれも減少した(図2)。ただし、案件サイズ別にみた場合、小規模案件のM&A件数が大きく減少した一方、比較的規模の大きい案件のM&A件数は堅調に推移している。
図2:日本企業が関与したM&A件数推移
出所:LSEG Workspaceを基にKPMG FAS作成
備考:日本企業による海外企業買収をクロスボーダー案件、国内企業を買収ターゲット(外資同士の国内案件除く)としたディールを国内案件として集計
図3:日本企業が関与したM&A件数推移
出所:LSEG Workspaceを基にKPMG FAS作成
備考:日本企業による海外企業買収、国内企業を買収ターゲットとした案件(外資同士の国内案件除く)を金額価格帯別に集計
2024年の日本企業によるM&A動向の特長
2024年の日本企業によるM&Aランキングは、Top10のうち国内案件が2件、クロスボーダー案件が8件とその太宗をクロスボーダー案件が占める結果となった。日本企業が買い手となるクロスボーダー案件は日本生命保険によるレゾリューションライフの買収、ルネサスエレクトロニクスによるアルティウムの買収、積水ハウスによるMDCの買収、日本生命保険・AIGによるコアブリッジへの出資(マイノリティ投資)があるが、いずれの案件も米国の企業を対象とした案件が占める結果となっており、円安の影響はあれど、引き続き米国の市場は日本企業にとって魅力的な市場と考えられる。
一方、2023年に公表された日本製鉄によるUSスチールの買収は、大統領による禁止命令が発令されるなど、案件の成否は引き続き予断を許さない状況が続いており、米国のような先進国においても、地政学的なリスクが顕在化する可能性があるということが改めて認識させられる結果となった。
表1:日本企業によるM&Aランキング
出所:LSEG Workspaceを基にKPMG FAS作成
備考:2024/1/1~12/31に公表された日本企業が売り手、もしくは買い手となった案件の内、取引金額上位10件をリスト化(自社株買い、REIT関連除く)
また、2024年の日本におけるM&Aでの特筆すべきトレンドとして、「同意なき買収提案」が挙げられる。2023年から2024年にかけての第一生命によるベネフィット・ワンへの対抗TOB(エムスリーへの対抗提案・成立)を皮切りとして、ブラザー工業のローランドDGへの対抗TOB(タイヨウ・パシフィック・パートナーズへの対抗提案・不成立)、AZ-COM丸和によるC&Fロジの買収(不成立)、ベインキャピタルによる富士ソフトへのTOB(KKRへの対抗提案・進行中)、ニデックによる牧野フライスへの買収提案(進行中)、加えて今最も注目を集めているのが、アリマンタシォン・クシュタールによるセブン&アイ・ホールディングスへの買収提案(進行中)であろう。個々の案件によってその成否は異なるが、いずれにせよ、昨年に経産省が「企業買収における行動指針」を公表して以降、「同意なき買収提案」が日本においても一般化されつつあると考えられる。
2025年の日本におけるM&A展望
2025年の日本におけるM&Aの展望として、クロスボーダー案件については、前述の主要国の国政選挙等が終わったことを受け、地政学的な不透明感が和らぐことが予想されること、また国内市場が成熟し成長が鈍化する中では、企業が更なる価値向上を図るには海外市場に目を向けざるを得ないことが想定され、引き続き堅調に推移することが予想される。
また、日本企業の売却案件についても、2024年中に、東証が上場企業に定める「企業行動規範」においてMBOに関する企業行動規範を見直す方針である旨の報道がなされる等、自国の金融資本市場の競争力向上に向け、グローバルな投資家にとって投資しやすい環境整備を進めている。それらの状況を踏まえると、2025年においてはより一層、アクティビストを含め海外投資家による日本企業に対する投資選好の高まりも予想されるとともに、TOB・MBOについても堅調に推移することが見込まれる。
以上を踏まえると、2025年も昨年同様、日本企業におけるM&Aは、クロスボーダー案件、国内案件共に、引き続き活況となるものと考えられる。
※本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをお断りいたします。
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