ポイント

  • 全米小売業協会が主催する世界最大の小売イベント「NRF 2023」では、人(People)、地球(Planet)、利益(Profit)を指す「3P」が広く取り上げられた。
  • 小売業界は、企業の「パーパス(Purpose)」を通して「3P」の均衡点を探すことで、収益を維持し、持続可能な成長に向けた機会を見つけることができる。

はじめに

2022年に顕著となった経済的・地政学的問題の影響は、2023年に入っても広がりを見せています。世界的なインフレの蔓延は、家計の購買力を低下させて企業の利益率に圧力をかけ、中央銀行の金融引き締め政策により、資本コストは上昇しています。小売業界が成長軌道を維持するには、業界で作用している大きな力と、それらの力の間にある緊張を認識しなければなりません。これらの緊張および調和には、厳しい経済環境の下で利益率を維持して成長すること、消費者から従業員まで人の重要性が高まっていること、そして市況悪化の場合でもサステナビリティは無視できないという、新たな現実が含まれています。

人(People)、地球(Planet)、利益 (Profit)

伝統的な「4P」である、製品(Product)、価格(Price)、流通(Place)、プロモーション(Promotion)は、マーケティングミックスの基本的構成要素と考えられてきましたが、今日の小売業界を形作る影響要因のすべてを、人(People)、地球(Planet)、利益(Profit)という3つのフレームワークに当てはめることができます。この「3P」には、従業員、消費者、その他のステークホルダー(株主を含む)、サステナビリティ、社会、規制、利益保護、成長、新しいビジネスモデルとイノベーションという9つのテーマがあり、お互いに押したり引いたりしながら、小売業界に影響を及ぼします。

小売業界のテンションフレームワーク

小売業界には、9つのトピック全体で個々のテーマに対処し、他者に悪影響を及ぼすことなく相互関係を理解して、バランスを取ることが求められます。成功する経営者は、多次元的なアプローチを取ることで自らを差別化し、相互に調和するポイントを探すことで緊張の影響を相殺しています。

小売業界の繊細なバランス:NRF Retail's Big Show 2023-1

小売企業は均衡点、突き詰めれば企業のパーパスを見つけ出すために、さまざまな方向にフレームワークを拡張し、独自の判断で「3P」のバランスを取ることになります。

2023年の小売業界にとっての3つの主要な緊張

利益(Profit)と地球(Planet)のバランス

利益率の維持とサステナビリティの実現
小売業界は、世界で最も強い勢力の1つであり続けており、環境と社会全体に有意義な進歩をもたらすグローバルな影響力を持っています。同時に、主要市場の多くで小売の収益性が低下し、現在はモノや労働力、資本、業務、消費者獲得に関連したコストとその他の事業経費の高騰により、利益率への圧力がさらに高まっています。しかし、消費者とコミュニティに対して社会的義務を感じる小売業界は、これらのコストを単純に消費者に転嫁できません。こうした状況から、サステナビリティ重視の姿勢に疑問が生じています。より持続可能な慣行が全体的な価値創出モデルに組み込まれない限り、移行へのコストがかかるからです。そのため小売業界は、バリューチェーン全体ですべてのステークホルダーに対する約束を果たすことができるような新しいビジネスモデルと戦略を採用する必要があります。

人(People)と地球(Planet)のバランス

従業員と社会
小売業界は、さまざまな国において民間セクター最大の雇用主です。多くの地方コミュニティにとって不可欠な要素であり、そこで暮らす人々のニーズを満たす柔軟な働き方を提供しています。そして、小売業の多くは地域のニーズに応じて慈善活動に力を入れ、コミュニティの中心メンバーになっています。しかし同時に、従業員は、小売業で十分に活用されていない資産の1つでもあり、小売業は従業員、消費者、コミュニティが交じりあう活動の機会を逃す可能性があります。実際には、確固たる企業のパーパスが消費者を突き動かし、人材を惹きつけて確保し、特に景気低迷期に事業を維持する助けになるのです。

人(People)と利益(Profit)のバランス

従業員、利益保護、ビジネスモデルとイノベーション
従業員は小売業界にとって極めて重要な資産ですが、1番のコストセンターとしてみなされることが多くあります。労働力不足が深刻化するなか、人材を惹きつけて確保し、やる気を起こさせることは、多くの国で重要な課題となっています。緊張と調和を作り出す3つのテーマの究極の形を検討するのであれば、テクノロジーへの投資を最優先にして効率性と生産性を高め、労働力縮小による最終損益への圧力を緩和すべきです。同様に重要なことは、テクノロジーが従業員を単純作業から解放し、消費者の店舗体験を向上させ、ロイヤルティを生み出すために必要な時間と情報を提供できることです。

まとめ

人(People)、地球(Planet)、利益(Profit)間の調和を受け入れながら、緊張関係を特定する能力は、将来のビジネスの成功を導き出します。緊張と調和の折り合いをつける取組みは、組織の「パーパス(Purpose)」へと形を変えます。同様に、企業のパーパス(Purpose)は、企業が3つのP(People、Planet、Profit)の間の緊張を融和させる上で有用です。パーパス(Purpose)により、小売業は独自の文化や市場、産業に関連した選択を行うことができるようになります。手元にある新しい3Pフレームワークとパーパス(Purpose)をもとにして、小売業界のリーダーは収益性を維持し、長期的な成功につながる戦略や活動、テクノロジー、人材についての意思決定を行うことができるのです。

英語コンテンツ(原文)

Retail’s delicate balance

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