気候変動課題と人的要素 - ネットゼロの実現を支える人的要素の事態と課題 -

気候変動課題に対応し、ネットゼロの成功に関わる人的要素について幅広く考えるため、Eversheds Sutherland法律事務所とKPMGの共同の調査レポートである「CLIMATE CHANGE AND THE PEOPLE FACTOR」が発行されました、その一部を抜粋して日本語でご紹介します。

Eversheds Sutherland法律事務所とKPMGの共同の調査レポート、「CLIMATE CHANGE AND THE PEOPLE FACTOR」の抜粋の日本語訳。

1.経営陣は気候問題をどの程度理解できていますか?

取締役会にとって、気候変動リスクは今や監督責任の範疇となっています。ステークホルダーに対する義務を果たすために、取締役はこのリスクを検討する必要があります。

調査結果によると、少なくとも現時点では、すべての企業が気候変動リスクに取り組んでいるわけではありません。気候リスクの監督を担う取締役が、必ずしも経営者に方向性を示せるだけの経歴や知見を備えているとは限りません。まず考えられることは専門家を選任することですが、豊富な経験を持つ候補者は残念ながら少なく、その中から適任者を見つけるには時間がかかることを理解しておかなくてはなりません。

また、気候リスクと戦略は取締役会において定期的な報告がなされるようにすべきです。取締役会全体が、気候の影響を受ける可能性のある領域を深く理解するようになれば、企業全体のリスクと機会をより適切に評価できるようになると考えられます。

さらに、これはリーダーと従業員の間の壁を取り払うチャンスでもあります。気候変動は新しい課題であり、これまでの経歴や経験に関わらず、多様な観点から議論することが重要な意味を持ちます。あらゆる職位や世代の従業員を招集する社内検討会(“climate councils”)が増えています。こうした議論を通じて、気候課題に対する一人ひとりの取組みが促されるとともに、組織横断的な議論が進めば大きなイノベーションにつながる可能性があります。

2.従業員への影響を検討していますか?

貴社の従業員は、貴社における脱炭素化に向けた取組みの過程でどのような影響を受けると思いますか?

貴社の従業員は、貴社における脱炭素化に向けた取組みの過程でどのような影響を受けると思いますか?

出典:2021 Eversheds Sutherland and KPMG Climate Change and The People Factor

グローバルベースで低炭素経済への移行が実現されようとしています。この一生に一度の劇的な変化は、一部の従業員やそのコミュニティには望まれないかもしれません。

炭素税の引き上げなどを契機とするエネルギー価格高騰などもあり、グリーン革命に対する反発がすでに生じているのです。脱炭素化のコストが最近注目のトピックとなっているのも当然かもしれません。

低炭素社会の実現に向けた移行(クライメート・トランジション)を進めるにあたり、新たな低炭素社会の不可欠な構成員として適合するようにすべての人を再教育することは容易ではありません。変化にさらされている業界で働く従業員の多くは、気候変動という現実を受け入れつつも、ネットゼロの世界へ移行していく将来に不安を感じています。

調査結果から、世界中の企業がスキルアップと再教育に真剣に取り組む計画であることが明らかになりました。しかし、そこには限界があります。企業は、活躍の場をなくした従業員や不満を抱えたコミュニティとの亀裂が生じないように配慮しなければなりません。その一方で、ネットゼロの未来への移行を支えるリソースや専門的知識の不足に直面するかもしれません。

人材の問題は企業だけで解決しうるものではないため、政府や教育機関が一部の労働者に対する再教育の実施を検討すべきなのかもしれません。企業、教育機関および政府が協力すれば、目標に向けて大きく前進できる可能性があります。

社会が一丸となって目標達成に取り組むことが、ネットゼロ実現への道だといえます。

3.個人の力を結集する体制は整っていますか?

目指すべきゴールは明確ですが、環境に優しい経済に移行するためにビジネスがやるべきことは、世界中のあらゆるところで数多く残っています。ビジネスリーダーは、不確実な状況が続く環境下で意思決定を躊躇なく行う必要があります。より良い意思決定を導く実用的なツールはありますが、規範や先入観を変えていくには時間がかかり、カルチャーの転換が必要になります。

最も成功するのは、イノベーションを組み入れた企業でしょう。イノベーションの促進を最大化するためには、従業員の多様な知識を活用するとともに、他の企業と連携して情報、技術および専門的知識を共有することも必要です。変化のどの側面に懸念があるのか、また、組織が影響を受ける気候関連リスクをどのように軽減できるのかについて、従業員はアイデアを共有したいと考えているでしょう。組織は「群衆の英知」を取り入れ、組織全体での対話を促すツールを用いて全従業員から意見を収集することに力を入れるべきです。

積極的に関与している従業員は、当事者意識の低い従業員よりも変化を促す可能性が高いでしょう。もちろん、組織の脱炭素化に関する意思決定にすべての従業員を関与させるべきだということではありません。しかし、従業員の参画を促す努力により、必要な変化の実現を確実に後押しし、ビジネスモデルの大幅な変更に対する抵抗感を軽減できるでしょう。

従業員とのコミュニケーションや対話の果たす役割の大きさは軽視できるものではありません。従業員のスキルアップや再教育を促し、環境に対する取組みへの参画を促すことは、従業員が変化とその影響を理解し、その結果として自らへの期待を認識するために、今後、益々重要になると思われます。

執筆者

KPMG サステナブルバリュー・ジャパン
有限責任 あずさ監査法人
パートナー 勢志 恭一

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