「eスポーツ市場拡大の利点」第3回。海外ではeスポーツの認知が進み、市場拡大も見込まれています。今回は、海外のeスポーツ市場が発展するうえで不可欠だった要素に加え、日本の市場が抱える課題を解説します。
本連載は、日刊工業新聞(2021年4月~7月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。

前回は、日本のeスポーツ市場の概観について説明した。本稿では、日本のeスポーツ市場が抱える課題やその解決の方向性についてより詳しく述べていきたい。課題を紐解くにはさまざまな方法がある。eスポーツは韓国、中国、米国など明確な先行市場が存在しているため、今回はそれら海外市場が発展するうえで不可欠だった要素を踏まえて課題を掘り下げていく。

市場形成に不可欠な要素の1点目は「大人気タイトルの存在」だ。どの市場でもブームの火付け役となったeスポーツタイトルが存在している。この点に関し、日本ではハード・ソフト両面において、「ゲーム産業のガラパゴス化」の懸念が一部ある。
従来、eスポーツはパソコン(PC)専用タイトルでのプレーが主流だが、日本では据え置きゲーム機プレーヤーがゲーム人口の大半を占めており、グローバル市場と隔たりがある。
また、海外ではゲーム会社の収益モデルが「パッケージ販売による短期回収型」から「アイテム課金などによる長期回収型」にシフトするなかで、息の長いタイトルを目指し競技シーンを意識したゲーム設計がなされることが多いが、国内ではその限りではない。今後は人気eスポーツタイトルのクロスプラットフォーム化(マルチデバイスでのリリース)や、国内ゲーム会社の収益モデルの転換などがeスポーツ市場発展のドライバーとなるだろう。

2点目は「大口スポンサーの参入」だ。eスポーツ市場の売上の約7割はスポンサーからの広告収入だが、海外と比較し、日本ではその金額のケタが1つ小さい。
特に業界の核となるeスポーツチームにおいて、チーム単独での財政状況は赤字が多いと聞く。
商習慣が未発達な国内市場では、チームと大口スポンサーとのマッチングが業界課題の1つであり、今後はeスポーツに紐づく広告価値算定の仕組み作りなどがなされると面白いだろう。

最後に、市場形成に欠かせない3つ目の要素として「メディア露出による裾野の拡大」について言及したい。eスポーツ市場はそれを支えるファンの数を増やすことで大きくなる。
そのファンを増やすためには世界を舞台に高額賞金を獲得するようなスターチームや選手を作り上げ、それをテレビや雑誌などのマスメディアで大きく発信していくことが重要だ。
2018年が日本eスポーツ元年と呼ばれ、現在ではさまざまなメディアでeスポーツという言葉を目にする機会が多くなったが、「ゲームで競技を行い、それを見る文化」が定着するまではもう少し時間を要するだろう。

eスポーツ市場形成に不可欠な要素

市場発展要因 日本市場の課題
大人気タイトルの存在
大口スポンサー参入
メディア露出による裾野拡大
ゲーム産業のガラパゴス化
eスポーツチームの厳しい財政状況
eスポーツ視聴文化の定着

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日刊工業新聞 2021年5月14日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日刊工業新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

eスポーツ市場拡大の利点

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