大学入試が始まるタイミングで思うこと - 高等教育と社会・企業との接続について

大学入試改革に伴い2021年度の大学入試より「大学入学共通テスト」が実施されました。それに伴うバタバタや、コロナ禍等により大変な入試だったと思いますが、高等教育に関する私見を少し述べたいと思います。

大学入試改革に伴い2021年度の大学入試より「大学入学共通テスト」が実施され、それに伴うバタバタや、コロナ禍等により大変な入試だったと思いますが、高等教育に関する私見を述べます。

1.大学入試がはじまります

2022年度の大学入学共通テストが1月15日、16日に始まります。昨年度は大学入試改革に伴うバタバタや、コロナ禍等、受験生の方々にとっては大変な入試だったと思いますが、今回は受験生の方々がご自身の力を出し切れるよう、平穏無事に行われることを祈念しています。

さて、大学入試が始まるこのタイミングで、高等教育に関する私見を少し述べたいと思います。

2.大学入試改革断念

2013年の教育再生実行会議「高等学校教育と大学教育との接続・大学入学者選抜の在り方について(第四次提言)」での、「知識偏重の1点刻み」の入試からの脱却を求め、新たな共通テストを整備すべきとの提言を受け、高大接続改革、いわゆる大学入試改革の検討がスタートしました。受験生の「学力の3要素」である、(1)知識・技能、(2)思考力・判断力・表現力、(3)主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度について、多面的・総合的に評価する入試に転換することを目的に、2021年度の大学入試より「大学入学共通テスト」を実施することとされていました。

「大学入学共通テスト」の目玉として当時報道などでも取り上げられていた、(1)択一式問題から記述式問題への転換、(2)外部検定試験を活用した英語の「読む」、「聞く」、「話す」、「書く」の四技能の評価という2つの施策については、公正性や正確性、また情報漏洩の可能性等様々な理由で、導入を断念されました。当時、このことには、受験生やそのご家族、高校・大学等を混乱に巻き込んだとして厳しい批判があったことを思い出します。ただ、私個人としては、理念や方向性については間違ったものではないと思います。知識偏重からの脱却を高大接続の場である入試で求めるには、やはり択一式では限界があり、記述式への転換は必要だと考えます。要は理念先行で、オペレーション上の課題を十分に検討できなかったことが問題であり、課題に対する対応について今後継続検討したうえで、最適な実施方法を模索してもらえればと思っています。

これら目玉施策の断念と並行して、個人的にはそれ以上に残念なことが起こっていました。

文部科学省では、前述(3)「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」を大学入試で評価する方法を研究する事業を2016年に実施しました。その結果として、2017年10月からJAPAN e-Portfolioのポータルサイトが開設されました。同ポータルサイトは、学生が高校生活において実施してきた活動を登録・管理するもので、そこに管理された情報を見ることで、学生の主体性(主体的な活動)を把握することができるというツールとなっていました。当ツールは生徒の個人情報を扱い、大学入試にも使われるため、強固なセキュリティと安定的な運用が必須条件となります。このため、運営団体である一般社団法人教育情報管理機構は審査を受けて文部科学省から運営許可を得たうえで、ポータルサイトの運営を引き継ぎました。ところが2020年8月7日、同機構が要件を満たしていないとして運営許可が取り消され、2020年9月11日にポータルサイトの運営が停止されてしまいました。これにより「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」を大学入試で評価する手段が、現時点ではなくなってしまったわけです。

3.知識・技能以外の能力

ところで、学生の主体的な活動等、知識・技能以外の能力の必要性は、産業界からの働きかけにより検討が進んできた経緯があります。2004年に厚生労働省が大規模な企業調査で採用時に重視する能力を調べ、事務・営業系採用に限定してではありますが、「就職基礎能力」として定義しました。これはコミュニケーション能力、職業人意識、基礎学力、ビジネスマナー、資格取得の5つにまとめられています。2007年には経済産業省が職場や地域社会の中で多様な人々とともに仕事を行っていく上で必要な基礎的能力としての「社会人基礎力」を提案し、「前に踏み出す力」(主体性、働きかけ力、実行力)、「考え抜く力」(課題発見力、計画力、想像力)、「チームで働く力」(発信力、傾聴力、柔軟性、情況把握力、規律性、ストレスコントロール力)の12個の能力を定義しました。その後を追うように、2008年に文部科学省の中央教育審議会にて「学士力」という新たな能力観が示され、学士課程の各専攻分野において共通して達成すべき学習成果と位置づけられました。その内容は、知識・理解にとどまるものでなく、コミュニケーション・スキルや論理的思考力などの「汎用的技能」、チームワークや市民としての社会的責任などの「態度・志向性」に及ぶ、幅広いものでした。これ以降、各大学とも、「就職基礎能力」、「社会人基礎力」、「学士力」を学生に身につけさせるために、カリキュラムの見直しや新たな学習方法(例えばアクティブラーニングなど)の取入れ、課外活動の充実などの取組みを積極的に行っていくことになったわけです。

大学・大学生と接点のある3つの省庁から立て続けに提示された能力は、知識、技能自体ではなく、それらを活用する力(ここでは、「実践的応用力」と呼称・定義します)と言えます。これらの力は、座学のみで身につくものでもなく、学生自身の活動・行動により身につくもの(コンピテンシー)であり、そういった意味から、前述のJapan e-Portfolioの試みは非常に有意義なものであり、これが高大接続の場である大学入試で適用されることで、高等教育だけでなく、初等・中等教育への波及も期待できるものでした。ですので、私個人としては、大学入試改革の2つの目玉政策のとん挫よりも、Japan e-Portfolioの運用停止の方が残念だと思っているのです。

4.大社接続は必要ないのか?(大学と社会(企業等)の接続)

本レポートの全文はPDFをご覧ください。

執筆者

KPMGジャパン ガバメント・パブリックセクター
パートナー 関 穣

関 穣

代表取締役

KPMGコンサルティング

メールアドレス

お問合せ

KPMGジャパン ガバメント・パブリックセクター連載コラム