IFACとAICPA&CIMAサステナビリティ情報の報告と保証状況について調査を公表

国際会計士連盟(IFAC)と国際公認職業会計士協会(AICPA&CIMA)がサステナビリティ情報の報告とその保証状況について調査を公表しました。

国際会計士連盟(IFAC)と国際公認職業会計士協会(AICPA&CIMA)がサステナビリティ情報の報告とその保証状況について調査を公表。

2021年6月、IFACとAICPA&CIMAは企業がサステナビリティ情報に関する報告および保証を得ている範囲、使用されている保証基準および保証を提供している組織の状況をよりよく理解するために、グローバルベンチマーク調査を実施し、結果を公表しました。調査対象は、22ヵ国1,400社の企業で、2021年3月の時価総額の上位企業から抽出し実施しています。調査対象の国・地域(香港は中国本土とは別途調査)は以下の通りです。下表で、アスタリスクのついたGDPの大きな6ヵ国からは時価総額上位100社が対象とされ、残りの16ヵ国からは上位5社となっています。

Americas EMEA Asia-Pacific(ASPAC)
アルゼンチン フランス オーストラリア
ブラジル ドイツ 中国本土
カナダ イタリア 香港
メキシコ ロシア インド
アメリカ サウジアラビア インドネシア
  南アフリカ 日本
  スペイン シンガポール
  トルコ 韓国
  英国  

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1.主な調査結果

全体として、サステナビリティ情報の報告が進んでいますが、保証を受けている割合は高くはなく、国・地域間で大きな差が生じていることが示されています。

(1)サステナビリティ情報の報告

調査対象になった1,400社のうち、1,269社(91%)がなんらかのESG情報を報告していました(うち、57%はサステナビリティレポート、18%はアニュアルレポート、16%が統合報告書にてそれぞれ報告)。

(2)保証を受けている割合

サステナビリティ情報を報告している1,269社のうち645社(51%)が保証を受けていました。

(3)保証業務の実施主体

保証を受けている報告書は全部で704あり(合計が上記645社を上回っているのは1企業で2社以上から保証を受けている場合があるため)、うち410が監査法人、35が監査法人系のサステナビリティサービス専門会社、259が「他の組織」によるものでした。

(4)保証基準に関する傾向

監査法人による保証は88%が国際保証業務基準(ISAE)3000(改訂)「過去財務情報の監査又はレビュー以外の保証業務」(ISAE3000)に基づいている一方、他の組織の多くが代替的な基準に基づき保証を行っていたことが示されています。またISAE3000に言及している他の組織による保証が付された87の報告書のうち、基準に「準拠している “in accordance with”」報告書は47%であり、残りの報告書は「基づいている“Based on”」や「適用している“applied”」等の言及にとどまっていることが指摘されています。

(5)保証水準について

保証が付された報告書の83%が限定的な保証でした。

2.報告に関する調査結果

ほとんどの調査対象国においてサステナビリティ報告書、アニュアルレポート、統合報告書のいずれか、またはその組み合わせでサステナビリティ情報の報告を行っており、その割合は90%を超えていました。これは世界的なサステナビリティ関連事項への関心の高まりを受け、その報告を自主的に、もしくは地域や国の規制の強化に合わせた報告内容の充実が進んでいることを示しています。

レポートの作成において参照している基準やフレームワークについては、サステナビリティ情報を報告している1,269の報告書のうち、69%の企業がGlobal Reporting Initiative (GRI)を参照していました。一方でSASBと TCFDの提言についてはそれぞれ全体として15%と 24%の参照に留まっておりますが、SASBについてはカナダと米国でそれぞれ62%と48%の参照率であり、これはSASBが米国企業の報告実態をベースに開発された基準であることが影響しているといえます。またTCFD提言に関しては、日本、欧州、英国、カナダ、オーストラリアにおける参照率が比較的に高く、これはTCFDへの賛同企業の数の多さおよび欧州、 英国、オーストラリアにおけるTCFDの提言に基づく温暖化リスクにかかわる内容の報告の義務化の動きも影響していると推察されます。


SASB…Sustainability Accounting Standards Board(サステナビリティ会計基準審議会)
TCFD…Task Force on Climate-related Financial Disclosures(気候関連財務情報開示タスクフォース)
 

3.保証に関する調査結果

下表は調査対象となった主要な国および地域別に、保証を受けている報告書の比率(保証比率)および保証業務の種類の比率をまとめたものです。全体的には限定的保証が多い中で、日本と中南米以外の地域では合理的な保証の実務も見られています。

  保証比率 限定的保証 合理的保証 ハイブリッド保証 非開示
日本 47% 90% 0% 6% 4%
英国 55% 97% 3% 0% 0%
EU*1
76% 95% 4% 0% 1%
EMEA*2 35% 87% 11% 2% 0%
米国 71% 77% 12% 7% 4%
カナダ 45% 92% 8% 0% 0%
中南米*3 46% 92% 0% 2% 6%
中国 28% 73% 9% 18% 0%
ASPAC*4 41% 63% 11% 26% 0%

(IFACのレポートをもとにKPMGが加工)

*1 EU:フランス、ドイツ、イタリア、スペイン
*2 EMEA:ロシア、南アフリカ、サウジアラビア、トルコ
*3 中南米:アルゼンチン、ブラジル、メキシコ
*4 ASPAC:オーストラリア、インド、インドネシア、香港、韓国、シンガポール

上表の調査結果のほか、保証の範囲や参照する基準に関して、実施する法人によって異なる傾向がみられました。たとえば、監査法人と監査法人系のサステナビリティサービス専門会社によって実施された保証の、それぞれ95%以上と100%が限定的な保証でした。一方で、合理的な保証およびハイブリッド保証を実施している多くの組織は、監査法人系以外によるものでした。また依拠する保証基準については、前述のISAE3000を参照する保証報告書が全体の88%となっており、日本、南アフリカ、英国では、ISAE3000のほかにISAE3410「温室効果ガス報告に対する保証業務」をも参照して保証を実施する傾向がみられました。一方でISO14064-3「温室効果ガスの排出量の算定と検証の枠組み」に沿って保証意見を出す事例も、カナダ、米国、日本などにおいて、一定数見られました。

4.おわりに

サステナビリティ関連情報の企業による報告への求めが投資家等から高まっている背景の中で、調査の対象となった国の企業のほとんどがサステナビリティ情報を報告しており、報告書に含まれる定量的なESG情報への信頼性を確保する目的で、保証を付すことが実践されつつある傾向にあることが、今回の調査で判明しました。一方、保証の範囲や、参照する保証基準が異なっているために保証の水準は国や地域によって違いが生じていることが示されています。COP26にて発表されたIFRS財団による国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)の設置とそれに伴うグローバルに統一されたサステナビリティ関連基準の今後の策定や、欧州委員会より公表された非財務情報の報告に関する改訂案(CSRD:Corporate Sustainability Reporting Directive)の公表など、サステナビリティ関連情報の充実のみならず、それを比較可能かつ保証可能な状態で報告することへのステークホルダーの要求に応える動きが出てきています。そのため、企業はグローバルベースで信頼性のあるサステナビリティ関連情報の収集と報告を可能とする体制を構築すると同時に、保証業務を提供する組織も、サステナビリティ関連情報の報告内容の信頼性の確保に向けて、保証実務や保証基準について、積極的に検討および協議することが期待されます。

執筆者

KPMG サステナブルバリュー・ジャパン