「コロナ時代のBCP」第19回。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)やデジタル化の急速な進展など、あらゆる状況にしなやかに対応するレジリエンス経営が求められています。今回は、不確実性がある時代におけるレジリエンス経営の実現に必要な5つの要素について解説します。
本連載は、日経産業新聞(2021年4月~5月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。
コロナ禍をはじめとするさまざまな危機に加え、未来に向けたSDGs(持続可能な開発目標)などにも対応するBCP(事業継続計画)を実現するにはどうしたらよいか。それはリスクだけでなく、あらゆる状況にしなやかに対応するレジリエンス(回復力)の要素を経営に実装していくことである。
レジリエンスを改めて定義すると「危機や環境変化に打ち勝ち、それを糧にさらなる成長を遂げる組織の力」である。危機が日常化し、デジタル化の急速な進展など不確実性にあふれた昨今の事業環境下では、経営全体としてレジリエンス力を高めていくことが不可欠となる。
レジリエンス経営の実現には特に次の5つの要素が求められる。
1つ目は「パーパス(目的)・ビジョンの確立と浸透」である。
不確実な情勢下で柔軟性のある対応をするには、企業としての共通の価値観や行動規範、特に自社が社会のなかで存在する目的を定め、組織全体に浸透させることが欠かせない。これらは流動化が進む昨今の組織求心力の維持のためだけではなく、有事においても個々の現場組織が機動的かつ自律的な判断を下すためのカギになる。
2つ目は「業務上の判断基準と業務可視化・標準化」である。
組織の構成員に課される成果目標は、組織をけん引する力になる。これは有事ではなおさら重要であり、最低限の優先度の考え方は有事での判断をシンプルにかつ迅速にする効果がある。また、社内各部の業務内容の可視化と標準化を進めることで、非常時の状況把握や人的リソース(資源)の確保を容易にすることもできる。
ただし、成果目標の設定を誤るとかえってリスクを高め、構成員のモラルを低下させる恐れもあるので、気をつけたい。
3つ目は「ステークホルダー(利害関係者)に対する感度」である。
組織論理中心の内向きの硬直的な認識と思考を排し、変化を続ける外部環境、特に自社に関係しているステークホルダーからの要請や期待値に対して積極的に耳を傾け、学ぶ姿勢を持つ必要がある。
その1つの方法として、ステークホルダーダイアログ(対話)という形で要望・要請を制度として取り入れるケースもある。それに限らず、日常的な意思決定の場や経営判断においてステークホルダー視点の基準や手続きを盛り込んでいくことも想定される。
4つ目は「 “業務” に対する自律性」である。
過度に集権的な組織体制はその硬直さがゆえに、不確実な情勢への対応力に乏しいとされる。権限委譲の促進や少人数のチーム制の活用によって、自律的な外部環境への適応や有事への迅速な対応力を高める。一方で、現場データモニタリングと異常値の検出といった適度なチェック体制とバランスさせることも重要である。
5つ目は「適度な組織の揺らぎ」である。
組織もしくはプロジェクトなどの単位で、あえて多様なバックグラウンドを持つ人材を投入することで組織の硬直化を防ぎ、組織は変わるという意識を従業員に根付かせる。これによって変化に対するポジティブな風土を生む効果が期待できる。戦略的な人材ローテーションや、ダイバーシティ(多様性)の推進といった施策もその典型例とも言える。
「レジリエンス経営」実現に必要な5つの要素 |
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執筆者
KPMGコンサルティング パートナー 足立 桂輔
日経産業新聞 2021年5月18日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。