「コロナ時代のBCP」第18回。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響を受け、未曽有の危機は今後も繰り返されることが想定されます。企業のレジリエンス向上のためには中長期を見据えてBCPを検討することが重要です。今回は、BCPの歴史を振り返るとともにこれからの時代に求められるBCPについて解説します。
本連載は、日経産業新聞(2021年4月~5月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。

コロナ禍を受けて各企業でBCPの見直しが進んでいるが、未曽有の危機は今後も繰り返されることが想定される。将来を見据えて先回りすることが重要だ。それにはどうすればよいか。BCPの歴史を振り返りながら、未来に向けた取組みを探ってみたい。

日本のBCPのこれまでの歩みは大きく3つの段階に分けられる。広く認知され出したきっかけは、2001年の米同時多発テロ事件である。ニューヨークのワールドトレードセンターで被災した米証券会社がBCPを迅速に発動、対応した事例が世界に広まり、認知度を高めた。日本では2005年に内閣府が「事業継続計画ガイドライン第一版」を発行した。この時期がBCPの第1段階である。

次に大きく見直されるきっかけとなったのは、2011年3月11日の東日本大震災である。想定外に備えて、地震や水害など原因事象別ではなく、人員や工場など経営リソース(資源)別の対策を講じる「リソースべースアプローチ」の考え方が注目されるようになった。2012年には事業継続マネジメントシステムに関する国際規格「ISO22301」が発行された。この時期がBCPの第2段階だ。

直近は新型コロナウイルスへの対応でリモートワーク化が進み、定型業務を自動化するRPAや人工知能を使った業務の効率化、危機管理を担うITツールの導入を検討する企業が急増した。被害情報をITツールで効率的に収集し、分かりやすく可視化したうえで、迅速に経営の意思決定をすることも求められている。
また、コロナ禍や大地震、台風などが同時に起きることを想定した複合災害への備えなど、改めてオールハザード(全リスク対応型)BCPへの転換も進みつつある。こうした現状での取組みがBCPの第3段階といえる。

では、BCPの第4段階はどのようなものになるのだろうか。この連載でも触れたが、第4段階は「ESG(環境・社会・企業統治)時代のBCP」だろう。国連加盟国が2030年に達成するために掲げた「持続可能な開発目標(SDGs)」につながるBCPの構築もその1つだ。
「宇宙船地球号」。全世界の人々は小さな船に乗った乗客と同じという意味で、1960年代の米国で誕生した概念だ。世界的な人口爆発や経済発展、それに伴う公害などにより、地球の資源が有限であることを人々が強く認識するようになったころである。環境破壊を抑えながら発展するには個別の利害を超えて協力していくべきだとの考えをこの言葉に込めた。

それから半世紀以上が過ぎ、事態はさらに深刻かつ複雑になっている。投資家や市民など監視の目も厳しくなっており、単なる目先の利益やリスクを考えるだけでは企業はすまなくなっている。そうしたことを踏まえ将来を見据えてBCPを考え直すことが、未曽有の危機への企業の対応力(レジリエンス)を高めることにもなる。
そのためには、従業員一人ひとりの意識もさることながら、経営トップの意思と覚悟が重要だ。第4段階のBCP、未来志向での事業継続計画を策定することを強く推奨したい。

執筆者

KPMGコンサルティング ディレクター 土谷 豪

日経産業新聞 2021年5月17日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

コロナ時代のBCP

お問合せ