「コロナ時代のBCP」第15回。気候変動が社会やビジネスへ与える影響は年々拡大しており、自然災害に備えたBCP(事業継続計画)の重要性は企業にとって世界的な経営課題になっています。今回は、気候変動への対策として有効な気象予測データの活用について解説します。
本連載は、日経産業新聞(2021年4月~5月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。

気候変動が社会やビジネスに与える影響が顕著になっている。岡山、広島、愛媛の3県に大きな被害をもたらした2018年7月の西日本豪雨、関東甲信越や東北を襲った2019年10月の東日本台風(台風19号)、2021年1月の大雪と、近年立て続けに国民社会を脅かす大規模気象災害が発生している。そうした自然災害に備えたBCPの重要性が高まっている。
日本だけではない。KPMGが毎年世界の経営者を対象に実施している「グローバルCEO調査 」の2020年1~2月の調査でも、経営への脅威として「環境/気候変動」を挙げる人が最も多かった。企業にとって世界的な経営課題になっているといえる。

では、企業はどのように対策をすればよいのか。それには、気象予測データの活用が有効だ。最近では、台風の進路予測は1週間以上先まで確認でき、数日前には台風接近時の通行止めなど被害発生リスクを予測することも可能になっている。

そうした予測データは気象庁などのほか、民間の気象情報会社が、より精度が高く予測期間が長いものを提供している。気象予測データを用いることで、定量的なビジネスへの影響を推計することが容易になり、さまざまな対策から最適な手段を選ぶことが可能になる。
オペレーションの観点では、気象予測データの活用を前提とした緊急時行動計画の策定と意思決定プロセスの整備が重要となる。たとえば、気象災害によってサプライチェーン(供給網)が断絶され資材調達が滞るリスクがある場合を考えてみる。予測を得た時点からサプライヤー(供給元)と連絡を取りながら、納品計画の見直しや輸送手段の変更、輸送停止などの判断を前倒しする仕組みがあれば、最善を尽くした上で気象災害と向き合うことができる。

気象予測はその現象の発生時刻に近いほど詳細かつ精度が高くなる。このため、時間がかかる被害軽減・回避行動から順次実行に移す行動計画を用意するとともに、1週間前から数時間前までの各段階での事業継続リスクの高まりを判断する基準の整備が求められる。基準とは、たとえば河川沿いに工場を持つ企業であれば、増水に合わせた重要設備の保護などである。

長期的な気候変動に対してもデータから得られる事実を基にビジネスをかじ取りすることが重要だ。たとえば、温暖化で春先の融雪が早期化するとともに融雪水が減り、ダムなどの利水容量の確保が難しくなる恐れがある。また、勢力が強い台風の発生数が増加することも予測されている。

各国の研究機関などによる気候変動の予測データを基に自社のビジネス環境やインフラなどへ及ぼす影響を整理し、見通すことが、持続可能な経営に向けた第一歩となる。ただ、長期的な気候変動への対応は将来的な先行投資の色が強く、その効果が見えにくい。世界の企業経営者が経営への脅威として掲げる気候変動への取組みを続けていくには、経営者自らが常に最新の予測を把握し、対応を先導する覚悟が必要だ。

台風の気象予測データ活用例
  1. 台風の進路予測データ
  2. ビジネスへの影響を推計
  3. BCP発動
  4. 被害軽減・回避行動

執筆者

KPMGコンサルティング シニアマネジャー 田畑 直樹

日経産業新聞 2021年5月12日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

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