「コロナ時代のBCP」第16回。社会的な関心の高まりが加速しているサステナビリティは、BCPと大きく関係があり、サステナビリティに取り組むことで長期的な対応力強化にもつながるといえます。今回は、将来の不確実性を織り込み、事業継続に向けた備えを継続的に更新するための「未来志向のBCP」について解説します。
本連載は、日経産業新聞(2021年4月~5月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。
BCP(事業継続計画)は文字通り、災害などの不測の事態に備えてビジネスを続けるための対策だ。しかし、世界全体が立ちゆかなくなったらどうすればよいのであろうか。BCPを突き詰めると世の中のサステナビリティの問題にも行き着く。
国連の持続可能な開発目標(SDGs)やカーボンニュートラル(炭素中立)など連日ニュースで取り上げられるサステナビリティに関する話題はBCPと実は大きく関係している事柄といえる。企業がサステナビリティを踏まえた未来志向のBCP強化につなげるための論点を整理したい。
サステナビリティに取り組む意義は、気候変動や生物多様性の喪失、社会の分断、感染症の流行など前例のない破壊的な現象への対応力強化だ。企業にはこうした不確実性に対するレジリエンス(回復力)と、危機の根本的課題解決に向けた長期戦略の実行力が問われるようになった。
サステナビリティのBCPに対する影響、それは過去に経験した危機への対応にとどまらず、未経験のリスクを含めた未来を予測したリスクマネジメントへ進化することだ。すなわち、将来の不確実性を織り込み、事業継続に向けた備えを継続的に更新することである。この未来志向への進化を加速する上で重要となるのが、次の3つのポイントだ。
1つ目はリスクセンシング、すなわち将来を見据えて重要なリスクを再定義したうえでそれを継続的に捕捉していくことである。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響を受け、複合的な危機に対するBCPの必要性が顕在化した。さらにサステナビリティの観点では自然環境に関するリスクに加え、人権侵害といった社会的なリスクも戦略的にセンシングすべき対象となる。
2つ目はBCPで考慮すべきバリューチェーンの拡大だ。サステナビリティの課題に対し、自社だけでなくサプライヤーの調達基準違反や最終購入者の不正利用といった、バリューチェーン全体のリスクを考慮する必要がある。
3つ目はビジョンを起点としたBCPエコシステムの形成だ。これは、自社にとどまらず産業・地域社会のレジリエンス向上にむけたビジョンを打ち出し、そのビジョンに共感するパートナーとのエコシステムを広げる取組みである。
たとえば国内では、企業・市民団体の支援物資・サービスを必要な被災者に提供するマッチングプラットフォーム「SEMA(緊急災害対応アライアンス)」を大手IT企業が中心となり運営している。この手法はBCP以外にも応用でき、個社の取組みが困難な社会課題の解決につながる有効なアプローチとなりえる。
サステナビリティへの取組みの強化は破壊的な現象による脅威の裏返しであり、その対応力としてのBCPの重要性は増すばかりだ。この不可逆的、世界的な動きを自社の強みにするために、未来志向のBCPへの構築へ取り組んでいただきたい。
メガトレンド | 影響 |
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生物多様性 | 今後数十年で100万種が絶滅の可能性 |
食料危機 | 2030年に食料不安に陥る人口が8.4憶人まで増加 |
人権・貧困 | 強制労働の搾取による企業の不法利益(年間1,500憶ドル) |
感染症 | 20年間で新型コロナを含む6種の感染症が世界的に流行 |
執筆者
KPMGコンサルティング マネジャー 三宅 恵満生
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日経産業新聞 2021年5月13掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。