「コロナ時代のBCP」第13回。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により、サプライチェーンの脆弱性が明らかとなり、見直しを図る企業も少なくありません。今回は、グローバル競争に勝ち抜くためのサプライチェーン高度化について解説します。
本連載は、日経産業新聞(2021年4月~5月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。
コロナ禍の混乱で製品の品切れや納期遅延などが生じた。グローバルに張り巡らせた調達網から原料の供給を受け、低コストで生産し、国際物流網で供給するモデルが持つ脆弱さの側面を浮かび上がらせることになった。この結果、多くの企業が調達先の変更、生産・在庫拠点の分散といったサプライチェーンの見直しを迫られている。
実際、2020年10月に日本の上場企業の最高財務責任者(CFO)を対象にKPMGが実施した「CFOサーベイ」でも、この問題について懸念する声が多かった。コロナ禍を受けたサプライチェーンの見直し状況について尋ねたところ、約60%もの企業が「見直しを実施」「あるいは慎重に検討している」などと回答していた。
この連載でもこうした問題に対応するBCP(事業継続計画)策定上の基本ポイントを説明したが、今回はリスク対策を超えたサプライチェーンの高度化について解説したい。高度化すれば、危機に強くなるだけでなく、平時を含めてグローバル競争時代を勝ち抜くサプライチェーンを構築できる。
それは人工知能(AI)をはじめとするデジタル技術を活用することだ。デジタルシミュレーションなどを駆使してあらゆる状況に応じて、迅速にかつしなやかに対応できるサプライチェーンに進化させるのである。具体的には、サプライチェーンの「構造自体」「需給意思決定」「業務実行」の3つの層をより変化対応力の高いものに刷新する。
「構造自体」ではたとえば、従来のように固定的なもの、数年おきに見直すものではなく、生産・調達・輸送能力、納期、コストなどを踏まえたデジタルシミュレーションに応じて変更していけるようにしておくことが挙げられる。
これにより調達が滞ることが分かった、あるいは工場停止になった、物流能力が低下した場合などに、それぞれ他の生産拠点や物流拠点などを含めてどのような対応がとり得るのか、どのオプションを選択することが有利であるかを判断できるようになる。
「需給意思決定」では、需要予測精度を上げつつ、販売状況や在庫・生産状況などを可視化し、素早く状況変化を把握するとともに、その影響を踏まえた対応ができるようにすることである。特定の国・地域やチャネル、店舗などで想定以上の需要があって欠品の兆候がある、逆に他では在庫があるといったことをきめ細かく捉えて、総合的なKPI(重要経営指標)に基づいて迅速に判断・実施できるようにするのである。
「業務実行」は意思決定した内容を速やかに業務に落とし込み、確実に実行に移すこと、そしてそのフォローができることである。
ピンチはチャンスともいえる。ニューノーマル(新常態)への移行を進めるにあたって、単なる危機対応を超えて、「コロナ禍をきっかけに新しいサプライチェーンへと進化させることができた」と前向きに振り返れるような取組みになることを期待したい。
サプライチェーンをデジタルで高度化するための3つの層
構造 | デジタルシミュレーションによる状況変化に応じた変更オプションを評価・実行できる構造にする |
需給意思決定 | 需要予測精度を上げ、販売や生産などの変化にきめ細かく迅速に対応できるようにする |
業務実行 | 意思決定内容を速やかに伝達し、実行するとともに、実行状況をモニタリングできるようにする |
執筆者
KPMGコンサルティング パートナー 坂田 英寛
日経産業新聞 2021年5月10日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。