「コロナ時代のBCP」第14回。災害対応ではインフラ運営企業と行政機関が協働する事例が増えてきています。自然災害だけでなくサイバー攻撃対策など、新たな局面を迎えているインフラ企業のBCPについて、これまでの防災の歩みとともに解説します。本連載は、日経産業新聞(2021年4月~5月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。

電力やガス、水道、交通、通信などの公益サービスは民間企業も担っている。災害対応では電力を中心に民間企業もライフラインの早期回復が求められ、行政機関と協働することも珍しくない。そうしたインフラ運営企業のBCP(事業継続計画)は、国を挙げての防災・減災対策の一部になっているといえる。各地で相次ぐ地震や水害など大規模な自然災害を受け、企業と行政がより連携を緊密にする動きが活発になっている。

1959年の伊勢湾台風を教訓に1961年に国や自治体などが取るべき対策をまとめた「災害対策基本法」が制定されたように、公共インフラの防災の歴史は長い。「BCP」は21世紀に入ってから枠組みが整えられた仕組みであるが、日本のインフラ企業はBCPの概念ができる前から災害復旧能力を備えてきた。たとえば、日本の年間での停電時間の短さである。激甚災害でも電力会社の復旧力は高く、被災地の電力会社へ他社が速やかに応援する体制、自衛隊と連動する手際などにも現れている。

ところが、これまで考えられなかった自然災害による被害が相次ぎ、防災対応のさらなる強化が求められている。たとえば、2018年の北海道地震が電力供給に大きな被害を与えたことなどを受け、経済産業省が2018年秋からワーキンググループで電力インフラの回復力強化に向けた検討を続けている。さらに2019年の台風15号では千葉県を中心に停電被害が広がったことから、対策の見直しを迫られた。

一企業では担いきれない大規模災害などに備えた電力会社と行政機関の協力体制の緊密化も進んでいる。たとえば、電力会社や自治体、道路管理者などが復旧作業や倒木対応などでの責任主体を明確にし、組織間連携を強化する協定締結などの動きが出ている。さらに、電力会社が地元自治体と地域活性化などを目的として締結する「包括的地域連携」では災害対策なども盛り込まれている。

2020年6月には、自然災害や国際情勢の変化への対応と再生エネルギーの導入加速を目指した「エネルギー供給強靭(きょうじん)化法」が成立した。その中に、停電などに強い特定地域内で電力をまかなうマイクログリッド(小規模電力網)システムを、ルール面で実現しやすくする「配電事業ライセンス」などの新制度を打ち出している。現在、その社会実装を目指して制度の詳細設計が進められており、実現すれば、さらなるレジリエンス(回復力)向上につながると考えられている。

自然災害だけではない。過去には海外でインフラを狙ったサイバー攻撃、最近は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の防疫対策など新たな課題も加わった。感染症が猛威を振るった際に中央給電指令所や発電所などの運営要員の感染防止をどうするか、新型コロナと他の自然災害による複合災害にどう備えるか、インフラ企業としてサイバー攻撃対策を万全にしながらDX(デジタルトランスフォーメーション)をどう進めるかなど、電力会社をはじめとするインフラ企業のBCPは新たな局面を迎えている。

日本の防災の歩み

防災1.0 1959年伊勢湾台風~ 災害対策基本法の制定、中央防災会議の設置
防災2.0 1995年阪神大震災~ 官邸の緊急参集チームの設置、耐震改修促進
防災3.0 2021年東日本大震災~ 大規模地震対策の見直し、「減災」の考え方
防災4.0 2016年~ 激しさを増す新たな災害リスクに向き合う

日経産業新聞 2021年5月11日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

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