マネロン・テロ資金供与対策に関するFATF第4次対日相互審査結果が公表。日本は「重点フォローアップ国」に
2021年8月、FATF第4次対日相互審査の結果が公表されました。相応の厳しい結果が示され、政府としても行動計画を同日に公表する等、金融機関等事業者による、態勢整備・高度化の要請の一層の高まりが想定されます。
2021年8月、FATF第4次対日相互審査の結果が公表されました。
日本は「重点フォローアップ国」に
FATFは、2019年に実施した第4次対日相互審査の結果を、2021年8月公表しました※1。当該審査は、政府間会合であるFATFの加盟国間において、各国のAML・CFTの状況を相互に評価し、当該国および国際的な取組向上を図るものです。低い評価は、当該国および当該国の金融機関等事業者の対応レベルをあらわすものとして、国際関係や金融機関取引等にネガティブな影響を及ぼしうるものです。
「通常フォローアップ国」「重点フォローアップ国」「グレーリスト国」といった結果区分のうち、今回の日本の評価は、「重点フォローアップ国」とされています。これは、先進国においても、低いほうに位置付けられ、相応に厳しい評価となったことがうかがわれます。
(図表1:各国のFATF Mutual Evaluation Reportsよりあずさ監査法人にて作成)
【図表1】各国の第4次相互審査結果と日本の位置づけ
(縦軸:EA不合格数)
(横軸:TC不合格数)
当局による検査・監督の強化を通じた、金融機関等の対応レベルの引き上げの流れへ
審査基準は、法制面等の評価である「テクニカルコンプライアンスアセスメント(TC)」と、金融機関等の民間対応を含む運用面の評価である「エフェクティブアセスメント(EA)」から構成されています。この点、日本は、TCにおいて相応の評価がなされた一方、EAでの評価が低いものとなっているところに特徴がみられます(図表1)。これは、いわゆる金融庁ガイドラインによるルール等の整備が進む一方で、当該ルールの実効性を確保するための、検査・監督の強化や、金融機関等によるルール等に基づく対応が道半ばであることによるものと思われます。
TCおよびEAの項目別の評価結果は、下表のとおりです。
(図表2、3:FATF「FATF Mutual Evaluation Report of Japan」よりあずさ監査法人にて作成)
【図表2】TC結果一覧
【図表3】EA結果一覧
政府による「行動計画」の公表と、金融機関等における優先取組課題
今回の結果公表にあたっては、同日に、本件に関する「行動計画」が政府から公表されました※2。前回第3次においてはみられなかったことであり、この点においても、本件の重要性や切迫度がうかがわれます。
行動計画において、金融機関等への影響が特に想定される主な事項は以下のとおりです。
(図表4:「行動計画」およびFATF「FATF Mutual Evaluation Report of Japan」よりあずさ監査法人にて作成。参考として、審査結果上の関連する主な「優先して取り組むべき事項」「勧告事項」(事業者に関するもの)をあわせて整理しています)
【図表4】主な政府行動計画等
主な行動計画 | 考察 | (参考)関連する主な「優先して取り組むべき事項(〇)」「勧告事項(●)」 |
国のリスク評価書の刷新、金融機関等のリスク理解向上とリスク評価の実施 | 危険度調査書が充実されることとあわせ、これを踏まえつつ各金融機関等も、個社の業容やリスクにつき、より深度のある評価を行うことが必要になると考えられます | 〇リスク評価方法の改善およびML/FTリスクのより包括的な理解の促進 ●金融機関のコンプライアンス文化向上に向けた、啓発、研修等の当局による支援 ●すべての金融機関に対して、自らの業務、商品、サービス、および顧客に応じた適切なリスク評価の策定を求めるべき |
マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策政策会議の設置 | 所管省庁を横断する枠組が新たにできることにより、金融庁所管以外の業態(非金融機関を含む)における対応要請の高まりが想定されます | 〇リスクベースAML/CFT監督の強化(抑止力のある行政処分と是正措置が適用されることを含む) |
マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策の監督強化 | 審査結果においても、検査・監督強化の必要性が強く示されています。一部報道にみられるとおり、検査の拡大が既にはじまっています | 〇リスクベースAML/CFT監督の強化(抑止力のある行政処分と是正措置が適用されることを含む) ●金融庁GLの高度化(3メガベンチマークとの平仄) ●金融機関の法律上・規制上・監督上の義務履行に向けた適切なスケジュールの設定 |
金融機関等による継続的顧客管理の完全実施 | 顧客情報の定期的な更新等の取組みは始まったばかりであり、膨大な顧客数や対顧影響等、課題の多い領域ではあります。しかしながら、充実した顧客情報に基づく、より精度の高い取引のモニタリングや疑わしい取引の届出につながる部分であり、優先的な対応が求められます | 〇事業者のAML/CFT義務の理解・導入(リスク評価、ODD、取引モニタリング、資産凍結、UBO確認等) ●顧客情報の検証方法の改善および継続的顧客管理措置の完全な履行 ●適切な取引モニタリングシステムの強調とODDとの関連性の明確化 ●金融機関におけるCDDデータと取引モニタリングを統合した(適切な検知シナリオに基づく取引モニタリング・パラメータを有する)、適切かつ包括的な、情報システムの導入 |
実質的支配者情報の透明性向上 | 相対的な法人のリスクの高さから、上記の中での、実質的支配者情報は特に重要とされています。「信頼に足る証跡」により確認することが求められる中、この点は法的制度の裏付けも不可欠ではあるものの、高リスク先からできることを検討していく必要があります | 〇事業者のAML/CFT義務の理解・導入(リスク評価、ODD、取引モニタリング、資産凍結、UBO確認等) |
テロ資金等提供罪の捜査・訴追の強化等 | 日本におけるテロ資金供与リスクは高くはない、との評価はなされる一方で、当該リスクに対する取組みが弱いと指摘されています。高リスク国との接点のある顧客等、自社における当該リスクの特定(およびこれをもとにした、捜査・訴追につながる疑わしい取引の届出)をこれまで以上に行うことが期待されています | 〇事業者のAML/CFT義務の理解・導入(リスク評価、ODD、取引モニタリング、資産凍結、UBO確認等) |
遅滞なき資産凍結、特定事業者による資産凍結措置の執行の強化 | 上記に関連し、資産凍結等経済制裁者リストとの迅速な照合も課題とされました。更新リストの公表から時間をかけずに、既存顧客や取引の照合を終える仕組みの構築が求められています | 〇対象者を指定した金融制裁の遅滞ない実施のために必要な更なる改善 |
これらの事項には期限も示されており、遅いものでも2024年春となっています。当該時期は、ガイドライン対応の要請文に示されている期限2024年3月末とも整合しており、金融機関等にとっては、今後、当該期限を1つの目途として、計画を立て、取組みの強化を図っていくことが必要となります。
- 2021/8/30 金融庁「Japan's measures to combat money laundering and terrorist financing」
- 2021/8/30 金融庁「FATF(金融活動作業部会)による第4次対日相互審査報告書の公表について」
- 2021/8/30 財務省「FAT「マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策に関する行動計画」
執筆者
AML・CFTアドバイザリー部
ディレクター 竹田 淳一
あずさ監査法人では、本件AML・CFT等関連のアドバイザリー・コンサルティングサービスを広くご提供しております。本記事の内容や、提供サービスにつき、ご関心等がございましたら、お問い合わせいただければと思います。また、審査結果の追加の考察等を含め、今後も記事をあげさせていただく予定ですので、ご覧いただけますと幸いです。