2020年5月まで1年を切りましたが*、医療機器業界は、今なおMDRへの順守対応に取り組んでいます。2020年5月までに移行措置を講じずに完全に順守できるとした企業は全体でわずか27%でした。企業が、MDRの要件に対するギャップ評価を実施する時間は限られています。MDRの将来の状態に向けてシームレスな移行をするために、企業は2020年5月までの間に、「MDD適合認証の更新(該当する場合)」「技術ファイルおよび臨床・医療上の安全に関する文書の修正およびアップデート管理」「認証機関に対する戦略の作成」「機器のクラス分類」「品質管理システムの変更」に取り組まなければなりません。

* 本冊子は、2019年9月にKPMGインターナショナルが発行したものを翻訳したものです。

ポイント

  • 2020年5月までにMDRの完全順守を予定しているのは、売上高10億ドル以上の企業に属する回答者のうち28%のみである。
  • 回答者の57%は、非常に有用な移行措置(EU MDR第120条)を活用できるようにするため、MDD認証を更新中である。
  • MDR順守を実現するにあたっての2つの大きな障壁は、「欧州委員会による利用可能でタイムリーな指針の欠如」および「内部リソースの欠如」である。

 

欧州医療機器データベース(European Database on Mdeical Device: EUDAMED)

調査回答者の約48%が、EUDAMEDに対する戦略をまだ策定していません。EUDAMEDは、EU MDRで規定される最も大きな変更の1つであるため、十分な要件の理解と、導入に向けた戦略の策定が必要となります。計画を策定している企業のうち、25%がマニュアルでのデータの収集とEUDAMEDへの提出を予定し、17%が既存のITインフラを活用してマスターデータ要件を管理し、7%が新しいITインフラの構築が必要と回答しています。まだ戦略を策定していない企業は、要件を理解し、順守に向けたロードマップの作成に着手することが重要です。

また、EUDAMEDが開始されてから発生する可能性がある故障や問題の全てを予測することは困難であり、長期的なサステナビリティについて、データが継続的に管理および維持されるように、堅牢な変更管理プロセスが導入されていることが重要です。企業はまた、現行の要件を順守し、将来的な変更に適応するために、現在のITおよびリソースの閾値を理解し、効率化されたビジネスプロセスと統合されたソリューションを導入する必要があります。

認証機関の獲得

調査回答者の85%が、認証機関を決定および確保して いるものの、特定の認証機関が今後もニーズを充足することを確認するためのデューデリジェンスを実施したかどうかは不明のままです。さらに、調査回答者の15%は、認証機関が決まっておらず、MDR要件を満たせないという最大のリスクを抱えています。認証機関を決定するにあったって、企業は、自社が順守する必要のある指令について認証機関が認定を受けているか、認証機関の経験、携先市場および評判などについて考慮する必要があります。

現在、MDDにおいて認証機関が58社登録されていますが、最終的な期限までわずか数ヵ月という時点で、MDRの下で認定を受けているのは5社未満となっています。したがって、業界からの現在の需要を十分にサポートできないため、企業は、使用する認証機関と明確にコミュニケーションと時間をとることが必要です。

MDRに対する準備とサステナビリティ

調査回答者の約66%が、MDR適用後のサステナビリティに対する戦略を策定していません。医療機器企業は、長期的なサステナビリティの枠組みに関する計画の策定に着手することが重要です。企業が取り組むべきこととして、まずは臨床評価レポートの作成が挙げられます。全調査回答者のうち40%以上が、MEDDEV 2.7.1 改訂第4号「臨床評価レポート」の作成が、順守にとって最も大きな障壁の1つであったと述べています。ヨーロッパで販売されるいかなる医療機器も、CEマークを取得するために、技術ファイルの一環として最新のCERを備える必要があります。次に、PMS用件の順守が挙げられます。調査では、EU MDR順守における最も大きな障壁の1つが、新たに必要となるすべてのPMSレポートに対する指針文書または基準の欠如であることが分かっています。回答者の43%が、自社のPMS手順の更新またはレポートのテンプレートの作成にまだ着手していません。さらに、企業は、規制順守担当者の選定にも取り組む必要があります。調査回答者の26%が、規制順守担当者を決定していません。各企業は、EU MDRに記載されている要件を実施して期限に間に合わせるために、規制順守担当者に加えて、その職務についても明確に決める必要があります。

リソースの管理

企業がMDRを長期にわたって持続的に順守するためには適切なリソース戦略の構築が欠かせません。企業は、複雑な変更に対処するための包括的な変更管理プログラムや即座に対応できる態勢を整えることを可能とする詳細な研修プログラムを開発する必要があります。230人中105人の回答者が、研修および変更管理プログラムは必要なソリューションであると考えています。十分な計画と予算管理を行わなければ、EU MDRを持続的に順守するための取組みにより、リソース不足、従業員の抵抗、不十分な研修、組織内の意思疎通の不全といった望ましくない影響が出る可能性があることに留意しなければなりません。また、必要なリソースを満たすためには、リーダーシップと財政支援が欠かせません。そのため、役割および責任を明確に特定し、影響がある各部門(規制関連業務、品質保証、研究開発、情報技術、およびサプライチェーン)に割り振らなければなりません。さらに、リソースの調整および活用においては、組織は共有フォーラムやRAPS Convergenceなどのカンファレンスや研修に参加して、同業者や専門家とコミュニケーションを取り、経験を共有することも不可欠です。

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