「コロナ時代のBCP」第2回。新型コロナウイルス感染症(COVID-19) のような世界的に影響のある危機に備えるためのBCP見直しについて、4つのポイントに分けて解説します。本連載は、日経産業新聞(2021年4月~5月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。
新型コロナウイルスのような世界的に影響のある危機について日本企業はどこまで準備ができていただろうか。これまで各企業はこのような危機に備えてBCP(事業継続計画)の整備を進めていたが、新型コロナ禍では実行性に欠けたという声が少なくない。今回の危機を踏まえBCPを見直す4つのポイントを紹介する。
まず1点目は「複合災害を見据えたリソースベースアプローチへの変革」である。リソースベースアプローチとは、具体的な災害や事故(原因)を想定してその対策を個別に考えるのではなく、原因の種類によらず万が一の際に経営リソース(資源)にどのような影響を与えるか「結果」に対して策を講じる考え方を指す。複合災害の組み合わせは無数にあり、個別ケースは想定しきれないためだ。
例えば、このコロナ禍で大地震が発生した場合を想定した準備を早急に進めることが求められる。そのためには、「災害や事故などの具体的なシナリオを想定し対応する」のではなく、「従業員の不足」「施設の損壊」「業務機能の停止」などの結果事象に対する対策を講じることが重要となる。
2点目は「BCPのグローバル化」である。今回のように日本国内だけでなく、グローバルで同時発生する災害を想定した場合、海外拠点を含めたBCPのグローバル化は必須である。
サプライチェーン(供給網)や業務がグローバル化している中で、各海外拠点のリスクを評価し、各拠点でのBCP策定を進めることが重要となる。その際、日本で策定した地震ベースのBCPをそのまま展開するのではなく、全ての災害・事故を前提としたグローバルBCPポリシーを本社として展開することが求められる。
3点目は「BCPのデジタルトランスフォーメーション(DX)」である。リモートワークが拡大する中で、対面での情報共有が難しくなるため、有事の際の報告内容や情報をツールで一元管理し、必要な情報を各国・各拠点から効率的かつタイムリーに収集することが必要である。また、人が出社できなくても問題がないようにペーパーレス化、定型作業を自動化するRPA や人工知能(AI)を活用した業務の効率化を進めることも肝要である。
4点目は「サプライチェーンリスク管理の強化」である。新型コロナの影響で、消費者の近いところで製造・供給する「マイクロサプライチェーン化」や保護貿易が進むことが想定される。既存のサプライチェーンを可視化し、内在するリスクを取引業者も含めて検討した上で対応すべきである。
アフターコロナの世界では、持続的な価値の提供能力が問われるため、業績が好調な企業は「成長への投資時期」、不調な企業は「事業変革への種まき時期」とし、今回の危機を改革の好機と捉えることが重要である。危機は「常に起こり得るものだ」という考えを組織の末端にまで浸透させ、平時の業務運営からレジリエンス(回復力)を意識した組織へと変革していくことが重要である。
BCP策定のポイント |
---|
1. 複合災害を見据えたあらゆる不測の事態への対応 |
2. 世界で発生する災害などに備えるグローバル化 |
3. 情報収集を中心とするデジタルトランスフォーメーション(DX) |
4. サプライチェーンのリスク管理の強化 |
執筆者
KPMGコンサルティング ディレクター 土谷 豪
日経産業新聞 2021年4月19日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。