医療機器企業の薬事申請業務機能における事業変革
医療機器企業における薬事申請業務の機能は、複雑化する医療業界の課題や機会に対応する上で不可欠です。KPMGは大手医療機器企業13社を対象に薬事申請業務チームの成熟度や準備状況を調査しました。本稿では、薬事申請業務の事業活動の合理化によって付加価値を引き出すための主要な洞察と機会について考察します。
本稿では、薬事申請業務の事業活動の合理化によって付加価値を引き出すための主要な洞察と機会について考察します。
ハイライト
医療機器企業は、グローバル化や患者の安全に対する懸念などの要因により、ますます複雑化し進化する世界的な規制環境に直面しています。医療機器企業は、革新的な製品を通じて顧客により良いサービスを提供する、かつてない機会を生かした上で、常に規制要件と製品の実用化の均衡を図ろうとしています。効率的で戦略的な申請業務の機能は、当業界の課題や機会に対応する上で不可欠です。今日では企業が申請業務の機能を有することは一般的であるものの、多くの企業にとって、申請業務グループ内に事業変革をもたらすにはまだまだやるべきことが多くあることが本調査で明らかになりました。薬事申請業務グループの役割と責任、ガバナンス、定量的指標、ならびに、デジタル・テクノロジーの適用に関しては、目標とのギャップが存在しています。
ポイント
- 申請業務グループにはサービスのポートフォリオを拡大し、組織の価値および効率の向上に資する、より「直接的な」活動を組み込む大きな機会がある。
- 企業とベンダー双方にとって、医療機器企業の申請業務に関する技術ソリューションを成熟させ、その技術を活用して当業界の変革を促進させる大きな機会がある。
- 定量的指標をさらに活用し、薬事申請業務組織(より具体的には申請業務機能)の価値と重要性を明確に示す機会がある。
組織設計
調査対象企業のうち85%が申請業務グループを設置しており、当該グループのうち69%はFTE(フルタイム当量)が25以下となっています。申請業務グループが提供するサービスにおいて、業界全体で「成熟した」機能はあまり多く存在しません。本調査で取り上げた12のサービスのうち、半数以上の企業が「成熟した機能」と回答したのは「薬事申請業務システムの保有/監視」、「RAシステムのデータ管理」、「機器固有識別子(UDI)データ管理/提出」の3サービスでした。一方で、書類提出や書類アーカイブなどのより直接的な業務カテゴリーは成熟度が低い状況にあります。したがって、申請業務グループにはサービスのポートフォリオを拡大し、組織の価値および効率の向上に資する、より「直接的な」活動を組み込む大きな機会があることがうかがえます。(図1)
テクノロジー
調査対象企業の過半数は「規制情報管理(RIM: Regulatory Information System)システム」(77%)および「書類管理システム」(85%)のインスタンスを利用していると回答しました。しかし、これらのシステムの範囲および用途は事業単位および事業地域ごとに異なる可能性があり、業界全体で一貫性を欠いています。
医療機器業界におけるRIMソリューション・ベンダーおよび規制書類管理ベンダーは非常に細分化されています。明確なマーケットリーダが存在せず、調査対象企業ではさまざまなシステムやツールが利用されています。また、技術的なアプローチは発展段階にあり、調査対象企業の過半数が今後1年以内にRIM機能(62%)または書類管理機能(54%)に変更を加える計画があることを示唆しています。
また、データ・ガバナンス・アプローチは依然として成熟の過程にあると見受けられます。過半数の企業が回答した活動は「定期研修」(69%)のみであり、次いで多かった回答は「プロセス監査」(46%)、「データ監査」(38%)および「システム間の標準データモデル」(31%)でした。多くの組織は、当該機能から生じる価値を獲得するために定量的指標を利用するという点では課題に直面しています(例えば、市場へのより迅速な製品の投入、または、より大規模な組織での生産性の向上など)。定量的指標をさらに活用し、薬事申請業務組織(より具体的には申請業務機能)の価値と重要性を明確に示す機会があります。
結論
企業は規制の複雑化に伴い、薬事申請業務がもたらす価値を、より大規模な組織で最大限に生かすための業務戦略を再考しています。このことは、戦略的なシステム関連の活動の提供に寄与する申請業務グループのさらなる発展に注力することに繋がっています。またこれは、定量的指標にさらに重点を置き、薬事申請業務が生み出す利益と成果を明確に示すことを意味しています。本調査結果から、薬事申請業務をさらに効率化させ、当該機能をサポートする申請業務グループの成熟度を引き続き高める多くの機会があることが明らかになりました。これらの改善は、医療機器の市場投入に関して高まる規制要求を満たすために必要な大量のデータと文書を管理する上で必要不可欠です。業務基盤の最適化が極めて重要となり、この最適化に注力していない企業は、組織が成功する上で核となる日々の規制活動への対応が困難になる可能性があります。