新型コロナウイルス感染症の影響によって求められる変革と見直し

「小売りの明日」第29回 - 新型コロナウイルス感染症の影響により様々な変革や見直しが進む中、小売企業の今後の戦略を考える際に何が必要となるかを整理する。

新型コロナウイルス感染症の影響により様々な変革や見直しが進む中、小売企業の今後の戦略を考える際に何が必要となるかを整理する。

新型コロナウイルスの感染拡大の影響は甚大で、様々な変革や見直しを余儀なくされている。その変化の範囲は企業経営のすべてにわたる。小売企業の今後の戦略を考えるうえで再検討が必要とされることを整理したい。
経営陣はビジネスモデルの再考、注力するカテゴリーの再編はもちろん、新たなカテゴリーに挑戦したり、既存店の縮小範囲の決断や広告メッセージを再考したりする必要もある。電子商取引(EC)や宅配、店舗引き取りの強化、業務・決裁のリモート化推進、さらに社員の健康や安全の確保に至るまで課題は山積みだ。

今回の新型コロナウイルスの影響で売上が伸びた領域と、大きく減退した領域に分かれている。まず、嗜好品・高級品に類するもの、インバウンドに支えられていたものは激減した。一方、緊急用の商品、健康関連、日用品という生活のインフラともいえるものについては伸長している。アパレルについてはカジュアルウェア、スーツ、フォーマルを中心に大変厳しい状況にあるが、ホームウェア、ベビー・キッズ領域においては伸びをみせている。食品は賞味期限の長い加工食品や手間を軽減する総菜、出前館、ウーバーイーツ、LINEデリマなどをはじめとした宅配マーケットは顕著に拡大している。家具・家電においては在宅の仕事を支える椅子やPC、家で楽しむための玩具や調理器具のニーズが高まっている。これら市場の変化はポジティブにとらえれば、食品や外食カテゴリーの企業再編を促進するきっかけにもなり得る。

重要なのは、いわゆる「ポストコロナ」だろう。今回の事態に限った短期的な視点ではなく、長期の視点で同様のことが発生した時、企業の存続のために、小売業は顧客が離れない必需品のカテゴリーや業態を強化する必要が生じている。今後守りに入る企業と攻めに転じる企業の二極化が進むだろう。
また、良くも悪くも、今まで選択を躊躇(ちゅうちょ)していたことを決断する契機も訪れている。会議、契約業務、採用面接、内部監査に至るまで業務のデジタル化も早急な変革の必要性が生じた。長年売り手市場だった採用も一気に買い手市場へと転換したことで、今後の人事戦略の再構築も必須となる。

攻めと守り、どちらが正解かが論点ではなく、決断に際して経営のスタンスやビジョンと真剣に向き合うことが重要である。決断には市場環境のプラス要因とリスクをはじめとしたマイナス要因の総点検が必須だ。
顧客と働き方の変化がここまで大きいことは未曽有の事態であり、その対応は自社の力だけでは足りないことも多く、業界全体、日本全体が連携しながら乗り越えていかなくてはならない。

 

日経MJ 2020年4月27日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

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