未来の決済言語の到来 - バンキング体験の再構築

金融メッセージングは、ISO 20022と呼ばれる1つの世界共通標準に向かっています。あなたの銀行は準備はできていますか。

金融メッセージングは、ISO 20022と呼ばれる1つの世界共通標準に向かっています。あなたの銀行は準備はできていますか。

グローバルな決済インフラは、単一のメッセージング標準に向かおうとしています。銀行にとっては、大変な取組みとなりそうですが、準備はできていますか。


この数十年、ハイバリュー決済およびクロスボーダー決済を支えるフォーマットはバラバラでした。標準やフォーマットが異なるために相互運用性に欠け、決済処理に相当な遅れと非効率性が見られました。現在、金融メッセージングは、ISO 20022と呼ばれる1つの世界共通標準に向かっています。いくつものハイバリュー決済の市場インフラがすでにISO 20022への移行を済ませ、さらに多くが2023年までに移行を計画している中、世界中でこの標準の採用が加速しています。

銀行にとって新標準の導入は、期日の迫りつつあるグローバルな必須課題です。アジアでは中国本土とインドがすでにISO 20022に移行済みであり、これに近々中華人民共和国香港特別行政区(SAR)が加わります。主な中央清算機関とSWIFTは2021年に移行を始める計画であり、米国、カナダ、英国、ユーロ圏は今後4年間にわたるISO 20022への移行計画のもとに動き始めています。これらは世界のハイバリュー決済の87%以上を占めています。

よりよい言語

ISO 20022は新たなビジネス言語です。共通のビジネス・ターミノロジーを欠くことは、あらゆるタイプの決済にわたり大きな問題となってきました。ISO 20022は、グローバルに認められる標準によりこの問題を解決しようとしています。これまで優勢であった旧来の独自清算標準と比較して、大幅な向上が期待されます。使用するフォーマットは、成熟したテクノロジーとも新興テクノロジーとも互換性のある主流のXMLですが、このフォーマットは将来の事業変革に適用可能な拡張性も持っています。

おそらくさらに重要なのは、銀行および決済への参加者は、この新標準により決済に関連する背景データをより多く含めることができるようになるということです。決済当事者の豊かな構造化データ、広範な送金情報が提供され、特殊文字およびより長い文字列が取扱可能となります。

影響の拡大

導入の利点は明らかかもしれませんが、コンプライアンスへの道のりはそうとはいえません。ISO 20022は、決済バリューチェーンを支える広範なエコシステムに相当な変更をもたらします。大半の銀行は、ISO 20022のコンプライアンスを業界における期限前に達成しようとすれば、組織全体にわたり相当な変更を行う必要があることを発見するでしょう。

たとえば、ISO 20022が自行の顧客とチャネルにどのように影響するかを検討してみましょう。クライアント・システム、オンライン決済スクリーン、報告ツール、ユーザーガイドに変更が必要かもしれません。自行の決済指示フォームや開示条件は新しくする必要があるでしょう。ファイルの直接送信フォーマットの仕様もまた、変更が必要な可能性が高いと考えられます。

新たなデータモデルとXML処理を支援するために、金融犯罪対策部門はリスク管理アプリケーションをどのように新しくするかを考える必要があります。決済処理部門は、この種の構造化データが自行のストレート・スルー・プロセッシング(STP)率に及ぼす影響を評価する必要があります。追加の欄の長さと当事者情報に対応するために、取引明細書および通知書の構成とフォーマットを新しくする必要があります。その他も含め、組織全体にわたり影響のありうる項目を以下の表にまとめました。

組織全体にわたる影響

顧客とチャネル
  • 法人顧客の支払人および受取人の元データの質
  • 決済の入力画面と開示条件
  • 有価証券/貿易関連の支払人/ベンダー
内部管理機能
  • 制裁措置、AML、不正モデルの変更
  • 支払人に関する法的に正式な名称および住所等のKYC元データの質
  • 取引主体識別子(LEI)の照会データ検索機能
決済処理
  • ハイバリュー・システムおよび清算ゲートウェイの変更
  • オペレーション部門における手作業の介入の削減
  • 繰り返し使用するテンプレートおよびマッピングの変更
会計、報告、例外管理
  • データ欠落等の管理
  • 豊かなISOデータのアナリティクスによるインサイト
  • 審査、顧客サービスチームのISO研修
インテグレーション/インフラ
  • MLおよびISO 20022データに関するミドルウェアサポート
  • 大容量XMLメッセージに関するストレージおよび帯域幅
  • XML処理のできないシステム

単なる新標準ではない

ISO 20022への移行は純粋にコンプライアンスの問題と考えられがちですが、実のところ、新標準はほとんどの銀行および金融機関にとって、広範囲に及ぶ高度に戦略的な意味合いを持っています。実際、ISO 20022の採用は、金融機関が数年来追求してきた価値付加のチャンスの一部を解き放つかもしれないのです。

たとえば、新標準が新商品の開発やイノベーションを通じて収益増のチャンスをもたらす可能性、労働力の削減やメンテナンス費用の削減を通じて効率性を向上させる可能性について、容易に想像することができます。オペレーションの生産性向上やいっそうの自動化のチャンスを創出する可能性があります。顧客体験全体への影響(決済の拒否が削減され、チャネル体験が改善される)は明らかでしょう。

ISO 20022への移行を自行のより広範な変革および現代化の推進に利用できるということに、今や多くの銀行が気づき始めているとしても、驚くことではありません。そのため一部の銀行は、ISO 20022に対して格段に戦略的なアプローチを取ろうとしています。

計画の策定

この市場の競争の激しさを踏まえると、決済をより広範な事業、インフラ、成長戦略に統合する方法を再考するために、すべての銀行がISO 20022への移行を活用するべきだというのが私たちの見解です。しかし、同じ銀行や金融機関といっても組織としてさまざまな違いがあり、自行の内部環境や戦略的優先事項に基づいて異なるアプローチを必要とします。

狭義の法令遵守のみが長期的成長戦略の実行に必要なすべてであると考える銀行もあれば、新標準を変革のイネーブラーと確信する銀行もあるでしょう。ISO 20022は業界において必須要件であり、銀行は従わざるをえませんが 、金融機関がその恩恵を受け、新標準により可能となる価値付加のチャンスを解き放つために、自行の戦略的事業変革の触媒としてこれを利用することができると私たちは考えます。

したがって、最初に行うべきことは、自行の具体的環境および目標に関する基本的理解の形成に着手するために、ただちに対処すべきコンプライアンス上のニーズと、決済における長期的な戦略的優先事項の両方(コンプライアンスの期限、費用および利用可能な資源といった各種事項や、その他の「進行中の」取り組みなど)を熟考することです。そして、当然次のステップは、ISO 20022が自行の「現在の状況」と「将来像」の計画にどのように影響するかを評価することです。

コンプライアンスと戦略的変革へのアプローチ

コンプライアンスと戦略的変革へのアプローチ

全員が一丸となって

KPMG米国のプロフェッショナルたちは最近、トップ5に位置するグローバル銀行と協働して同行のISO 20022への移行計画の策定を支援しました。この協働において、同行の主なステークホルダーとともに組織全体にわたるISO 20022の影響を評価しました。そのうえで、多世代にわたるロードマップと計画を策定し、それらに基づき業界の必須条件へのコンプライアンスとともに同行の戦略的な組織変革の達成を目指しました。

私たちは、これ -- および類似のISO 20022プロジェクト -- を通じて、戦略的価値を解き放つには部門の枠を超えた広範な意識向上とステークホルダーの参加が重要であることを学びました。多くのステークホルダーを引き込むことができれば、いっそう多くの価値へのチャンスを見つけることができます。ISO 20022をもっぱらコンプライアンスの問題と見る銀行や金融機関は、新標準がもたらす恩恵のすべてを獲得できないかもしれません。

準備しましょう

結局のところ、ISO 20022は急速に金融メッセージングのグローバル言語となりつつあります。これはハイバリュー決済処理のグローバルな標準化が期待される、業界にとって必須の取組みです。

ここで重要な問題となるのは、銀行および金融機関がこの移行を価値付加のチャンスとみなすか、あるいは単に数多あるコンプライアンス案件の1つとみなすかということです。私たちは、戦略的な移行を選択する組織が最も成功するであろうと考えています。

英語コンテンツ(原文)

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