責任投資の拡大
環境・社会・ガバナンス投資は2004年に、行動を呼び掛ける1通の手紙から始まりました。現在はどのような状況にあるのでしょうか。
環境・社会・ガバナンス投資は2004年に、行動を呼び掛ける1通の手紙から始まりました。現在はどのような状況にあるのでしょうか。
その後ESGは進化し、資産運用マネジャーや機関投資家が意思決定を行う際の脇役から主役へと移行しました。ESGへの配慮を憲章や実務に取り入れ、取得する資産の評価を行う際のデューデリジェンスプロセスに適用する事業体がますます増加しています。
ESG投資は2017年には23兆米ドルと2015年に比べ25%増加し、専門家が運用する世界の総資産の約4分の1を占めています。
この成長は、1つにはより幅広く拡大している社会的責任投資の動向によって加速されています。この動きもまたESGに関する企業の行動に影響を及ぼしています。KPMGインターナショナルによる最近の調査では、調査対象の経営幹部および取締役会メンバーの3分の1以上(36%)が、投資家からの圧力によって自社のESGへの取組みを強化したと述べています※1。
ESGおよび社会投資の拡大を理解する
世界経済は不安定な地政学的現実の中で、債務の増大と持続不可能な資産価格に直面しています。ナショナリズムとポピュリズムが自国一国主義を生み、それが軍事的、経済的、商業的な緊張の高まりにつながっています。同時に、気候変動緩和の失敗や、サイバーセキュリティ犯罪の増加が、世界の安定に対する脅威を増しています。
こうした環境において、ESGの基準が組織の弾性、適応力、長期的な持続可能性、成長する能力を効果的に評価するのに最も適していることは明らかです。それは将来を考慮した、定性的で、包括的な投資アプローチを必要としており、仮定のシナリオを検証し、将来の実績を予測する際の過去の実績およびヒストリカルデータへの依存度が低いものです。
ESGの実践
ESGガイドラインの作成は、金融サービス業界や世界中の資産運用マネジャーにとって重要性を増しています。このことは特に政府系投資ファンドや年金基金などの機関投資家に当てはまります。これらの機関は、社会的に責任ある投資ではないとみなされた場合のレピュテーショナルリスクについて、強く意識しています。結果的に、彼らは取得する資産が人権、労働権、汚職防止法や環境法を順守していること、さらにそれらを超えて、責任投資に関する独自の内部基準を順守していることを厳しく求めています。
ESGは世界的な潮流ですが、一部の地域では他の地域よりもさらに先を行っています。たとえば欧州、オーストラリア、ニュージーランド、カナダはESGへの配慮を優先するという意味で先進的ですが、その内容は法域により、あるいは事業体により異なっています。
2017年12月、6つの政府系ファンドが共同で「One Planet Sovereign Wealth Fund」のワーキンググループを設立しました。その目的は、気候変動に対処し、持続可能な成長と市場の利益を促進するためのESGの枠組みを構築することです。枠組みは次の3つの原則に基づいています。気候変動に関する認識を共有し投資の意思決定に反映させること、企業が気候変動の影響に対処するよう奨励するための価値創造を促進すること、気候変動のリスクおよび機会を投資マネジメントに組み込むことです※2。
企業の環境および汚染に関する方針、汚職を防止するために導入しているガバナンス構造、取締役会の多様性、積極的な税務上のポジションを取っているか否かについて検討することを求めるESG憲章および枠組みを作成する投資マネジャーがますます増加しています。
正しい行動が利益をもたらす
ESG情報、企業の目的、価値、戦略と企業の業績とを関連付けて考える機関投資家や個人投資家が増加しています。適切なESG方針の導入は、単に正しいことを行い、法規制を順守しているというだけでなく、経済的にも有益であることが調査により立証されています。持続可能な取組みを行う企業は、業務にESGの観点を取り入れていない企業の業績を上回っています。
個人投資家1,000名に対する最近の調査では、75%が持続可能な投資および戦略の一部にその原則を取り入れることに興味があると回答しています。また、71%が環境および社会的な目標に重点的に取り組む企業の方がより大きな利益を生むと考えています※3。
KPMGのAudit Committee Instituteによる41ヵ国の企業の取締役会およびビジネスリーダー900名に対する調査によると、回答者の47%がESGに取り組む企業の方が業績が良いと考えています※4。
※3 Millennials Drive Growth in Sustainable Investing
規制上の要件の先を行く
企業や投資家の側にとっては、ESGへの配慮の拡大は、同様にESG要件が強化され、会計基準で財務諸表の開示に透明性を求めるなど、厳しさを増す規制環境と並行して起こっています。
先進的な企業は、規制上の要件は出発点に過ぎないことを理解しています。長期にわたって大きな収益を上げるためには、積極的に行動し、規制の順守を超える強固なESGの枠組みを作り上げる必要があります。ファンドが力を合わせてOne Planet Sovereign Wealth Fundのような組織を設立し、規制要件をはるかに超えた独自のESG方針を作成した理由はそこにあります。
変化と不確実性のみが続く現在の環境において、ますます多くの投資家が長期的な視点を持ち、責任ある行動をとる企業に資金を投入することを選択しています。ESG投資はすでに世界の市場を作り変えています。この潮流によって、ESG分析が投資プロセスにおいて主要な役割を果たす状況が続くと考えられます。
ESGの成功を推進する
ESG対応の実施や改善を検討している機関投資家や企業の皆様に対し、当社は以下を推奨します。
- 自社とステークホルダーの価値を反映した正式なESG憲章を作成する。ESGは幅広い概念を含みますが、ステークホルダーにとって有用でなくてはなりません。
- ESGを事業上の優先事項とする。これはトップから始まり、方針や原則の作成よりも重要です。首脳陣はESGの社会的、経済的な主張を行い、組織全体の賛同を得て、実施する人材を配置する必要があります。ESG基準は意味が進化し、拡大していることを理解してください。たとえば一部の組織にとってESGは幅広い多様性と女性の雇用の平等を含みます。新たな動向を常に把握し、順応してください。ESGの問題に注意を払い、取締役会や株主に伝える必要があります。
- 新規投資の評価にESG基準を積極的に取り入れ、既存の投資の検証や調整にESG原則を当てはめる。困難な過渡期を乗り越える覚悟が必要です。この時期を通じ、なぜ変化が起こっているのかを明らかにしましょう。
- 取締役会を巻き込む。株主がESGの管理に与える重要性が増大しており、取締役会はESGのリスクおよび機会の特定と管理、どのESG項目が戦略上の重要性を持つかの決定、長期的な業績の向上のためにESGを戦略およびカルチャーに根付かせることなどにおいて、主要な役割を果たすことができます※5。