IHQ、ITCの税務インセンティブの廃止

タイニューズレター - タイ歳入局は、既にIHQやITCの承認を得ている場合の税務インセンティブについて、急遽廃止に踏み切りました。

タイ歳入局は、既にIHQやITCの承認を得ている場合の税務インセンティブについて、急遽廃止に踏み切りました。

2019年3月26日、タイ内閣は、財務省が提案したRegional Operating Headquarters(“ROH”, IHQの旧制度), International Headquarters(“IHQ”), International Trading Centers(“ITC”)の税務インセンティブを以下のとおり廃止する勅令を承認しました。

  • 法人税に関する税務インセンティブ:2019年6月1日以降廃止
  • 個人所得税に関する税務インセンティブ:2020年1月1日以降廃止

タイ内閣は、以前からOECDやEUに租税回避に使用される可能性を指摘されていたIHQ・ITCの税務インセンティブを廃止するのは、OECDの有害税制対策フォーラムで合意されたタイムラインを確実に準拠し、OECDやEUによってタイがブラックリストに掲げられることを避けるためと説明しています。
今回タイ内閣が承認したROH, IHQ, ITCの税務インセンティブを廃止する勅令は、今後国民立法議会の承認を得て法施行される予定ですが、このまま法施行された場合には、ROH, IHQ, ITCの税務インセンティブが利用できるのは、以下の期間に限られることになります。

種類 内容 有効期間
ROH
  • 関係会社から受領するサービスフィー・ロイヤリティ・利息・配当の所得に対する法人税の免除及び軽減
2019年5月末まで
  • 上記の法人税の免税所得から国外の法人株主に支払われる配当の源泉税の免除(2019年5月末までの法人税の免税所得から支払う配当で、2020年12月末までに支払われる場合には、源泉税の免除の対象)
  • ROHの業務に従事する外国人社員の個人所得税の軽減
2019年12月末まで
IHQ
  • 関係会社から受領するサービスフィー・ロイヤリティ・利息・配当の所得に対する法人税の免除及び軽減
  • 国外の関係会社の株式の売却益に対する法人税の免除
2019年5月末まで
  • 上記の法人税の免税所得から国外の法人株主に支払われる配当の源泉税の免除(2019年5月末までの法人税の免税所得から支払う配当で、2020年12月末までに支払われる場合には、源泉税の免除の対象)
  • トレジャリーセンター・ライセンスのもとで、国外の関係会社に対して支払う利息の源泉税の免除
  • IHQの業務に従事する外国人社員の個人所得税の軽減
2019年12月末まで
ITC
  • 三国間貿易取引にかかる所得の法人税の免除
2019年5月末まで
  • 上記の法人税の免税所得から国外の法人株主に支払われる配当の源泉税の免除(2019年5月末までの法人税の免税所得から支払う配当で、2020年12月末までに支払われる場合には、源泉税の免除の対象)
  • ITCの業務に従事する外国人社員の個人所得税の軽減
2019年12月末まで

1. IBCの税務インセンティブの内容

今後、統括会社としての税務インセンティブを享受するためには、新しく導入されたInternational Business Centers(“IBC”)の税務インセンティブの承認を得る必要があります。IBCの税務インセンティブの承認申請は、オンラインで行うことになっており、タイ歳入局は2019年4月中にオンラインでの申請の受付を開始するとアナウンスしていますが、4月4日時点ではまだ利用可能となっていません。
IBCの税務インセンティブの内容と適用要件は、以下の通りとなります。従来のIHQと比較して、統括会社としての実態・規模がより求められる要件が加えられています。

税目 内容
法人税 1.国内及び国外の関係会社※1から受領するサービスフィーの所得に対する法人税の軽減(以下の区分に応じた軽減税率)
その会計期間にタイ国内の受領者に支払ったIBCの事業運営費が60百万バーツ以上※2 8%
その会計期間にタイ国内の受領者に支払ったIBCの事業運営費が300百万バーツ以上 5%
その会計期間にタイ国内の受領者に支払ったIBCの事業運営費が600百万バーツ以上 3%
2.国内及び国外の関係会社から受領する配当に対する法人税の免除(0%)
源泉税
  • 上記1.の法人税の軽減税率が適用されたサービスフィーの所得から国外の法人株主に支払われる配当の源泉税の免除(0%)
  • トレジャリーセンター・ライセンスのもとで、関係会社間のキャッシュプーリング取引により支払う利息の源泉税の免除(0%)
特定事業税 トレジャリーセンター・ライセンスのもとで、国内及び国外の関係会社から受領する利息にかかる特定事業税の免除(0%)
個人所得税 ITCの業務に従事する外国人社員の個人所得税の軽減(0%)

 

※1 関係会社には、IHQの定義と同様に25%以上の直接又は間接の資本関係がある会社が含まれる。

※2 既にROH又はIHQの税務インセンティブの承認を得ている会社が、IBCの税務インセンティブに切り替えを行った場合には、その会計期間にタイ国内の受領者に支払ったIBCの事業運営費が15百万バーツ以上であれば、60百万バーツ未満であっても、8%の法人税の軽減税率の適用が受けられる。

※3 上記の法人税と特定事業税の税務インセンティブの適用期間は、15会計期間とされる。

2. IBCの税務インセンティブの適用要件

番号 要件
1.
  • タイの法律によって設立され、関係会社に以下のサービスを提供する会社であること
    • 一般管理、事業計画立案、ビジネスコーディネーション
    • 原材料・部品の調達サポート
    • 製品の研究開発
    • 技術サポート
    • マーケティング及び販売促進
    • 人事管理、トレーニング
    • 財務アドバイザリー
    • 経済・投資分析、調査
    • 与信管理
    • トレジャリーセンター業務(タイ中央銀行のライセンスが必要)
    • その他歳入局長官が定めるサービス
2.
  • その会計期間の末日における払込資本金が10百万バーツ以上であること
3.
  • IBCの業務にフルタイムで従事する知識・技術を有する従業員が10名以上であること
    (トレジャリーセンター業務のみを行う場合は5名以上であること)
4.
  • その会計期間にタイ国内の受領者に支払ったIBCの事業運営費が60百万バーツ以上であること
    (既にROH又はIHQの税務インセンティブの承認を得ている会社が、IBCの税務インセンティブに切り替えを行った場合には、その会計期間にタイ国内の受領者に支払ったIBCの事業運営費が15百万バーツ以上であること)
5.
  • その他歳入局長が定める手続きや条件に従うこと

 

※4 タイ歳入局にIBCの税務インセンティブの承認を受けた後、1会計期間だけ上記の要件を充足できなかった場合には、その会計期間について税務インセンティブは利用不可(過年度及び翌年度の税務インセンティブの利用に影響なし)

※5 タイ歳入局にIBCの税務インセンティブの承認を受けた後、連続で2会計期間以上、上記の要件を充足できなかった場合には、その税務インセンティブの承認を受けた最初の会計期間まで遡って税務インセンティブが取り消される可能性がある(過年度及び翌年度の税務インセンティブの利用に影響あり)。この場合、過年度の税務インセンティブが取り消されることによって、税金の追徴やペナルティ・延滞税が発生する可能性がある

KPMGのコメント

ROH, IHQ, ITCの税務インセンティブを急遽廃止する勅令が閣議で承認されたことになりますが、既にROH又はIHQの税務インセンティブの承認を得ている会社は、IBCの税務インセンティブに切り替え申請を行うことによって、IBCの事業運営費の金額基準の特別措置を受けられることになります。一方、既存のITCの税務インセンティブについては、完全廃止といった形になります。
IBCの税務インセンティブを規定した勅令No.674では、(国内・国外を問わず)関係会社にサービスを提供することが要件とされていますが、過去のROHやIHQの趣旨を鑑みると、国内の関係会社のみにサービス提供を行っている場合に、この要件を充足できるのかといった疑問が残ります。他にもいくつか解釈が難しいところがあり、実際の運用がどうなるかを今後見極める必要があります。
なお、今回のROH, IHQ, ITCの税務インセンティブの廃止は、既存のBOIの投資奨励書に影響を及ぼすものではないことを申し添えします。

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