Brexitの解決策とは

The Brexit Column - M&Aで使われるツールが英国とEUの離脱交渉の膠着状態を打開するカギとなる可能性があります。Mark EssexとJan Crosbyは、「The Midnight Compromise(真夜中の譲歩)」と呼ぶ新たなアイディアを提示しています。

M&Aで使われるツールが英国とEUの離脱交渉の膠着状態を打開するカギとなる可能性があります。

英国の政治家は2年間、一般的な政治手法を取ってBrexitに向けた解決策を模索してきました。ただし、甘言を弄する、抜け目のない駆け引きを行う、強い圧力をかける、時代遅れの瀬戸際政策を展開する、といった政治手法では今までのところ成果が出ていません。もし他の道筋、つまり政治以外で使われるような代替モデルがあるのならば、今こそそのモデルを提示すべき時です。私たちはそれがビジネスの世界にあると考えています。合併・買収(M&A)の取引の世界で日々使われる手法です。

最初に、なぜ膠着状態に陥っているのか、その理由を今一度確認する必要があります。英議会下院がEU離脱協定を否決したのはわずか2週間前のことですが、一方で下院は、アイルランドとの国境で厳格な国境管理を行わないことを意味するバックストップと呼ばれる条項に修正を加えることさえできれば、これを承認するということを私たちは理解しています。

バックストップの問題はどこにあるのでしょうか。現状のバックストップ案では、移行期間終了までに通商協定が締結されなければ、英国は無期限でEU関税同盟に残留することとなり、物理的な国境は不要になります。英国のEU離脱支持者は、EU関税同盟に残ることで英国独自の貿易政策の確立が不可能になることを問題視しています。

信頼格差

バックストップを巡っては信頼が根本的な問題となっていますが、これは特に英国側が問題としていることです。欧州懐疑派の英国議員は、EUがアイルランドのバックストップ措置を利用することによって、英国を恒久的にEU関税同盟に留める、あるいはそれを政治的影響力を与えるための手段として使うのではないかと疑念を抱いています。

膠着状態打開のために私たちに必要なのは、英国が将来一方的にバックストップを解除できるメカニズムであり、同時に、EU側として妥協できないようなバックストップの措置は決して緩和されることはない、とEUを納得させることです。このような私の考えは、M&Aや、前提条件と呼ばれるような法律の考え方から発想を得たものです。

KPMGでディールアドバイザリーのマネージングディレクターを務め、数々のディールを手掛けるJan Crosbyは次のように説明しています。「M&Aに関わる弁護士は、特定の条件が満たされた後に契約の相手方は契約上の義務の履行を求められるとする、前提条件を用います。一般に銀行の場合、買収側企業がまずは双方が合意した複数の条件を満たしているという条件のもとで、買収資金を当該企業に貸し出すことが可能です。」

前提条件

Brexitでは、EU(つまり前述の例では銀行の立場)は、英国(前述の例では資金の借り手側)が事前に合意された特定の条件を満たした場合のみ、無期限のバックストップを取り下げると約束するでしょう。バックストップが今後不要となるにあたって、どのような前提条件が考えられるでしょうか。

  1. 英国が、アイルランドとの国境問題の代替案を作成する。テクノロジーやリモート処理等を用いることで、EU側の国境周辺国が第三国との間で不正取引の蔓延を防ぐ対応と同程度の措置が取られ、摩擦があまり生じない国境を実現する。
  2. 当該協定の実施や人材配置に関して、アイルランドやEUで生じる合理的な資金や継続的な費用を英国が負担する。
  3. 英国の衛生植物検疫に関する規制は、生きた動物および動物由来製品が国境を越えて移動できるように、継続的にEUと足並みを揃えた内容とする。

上記3つの案は私個人の意見であり、網羅的なリストにすることを目的に提示したものではありません。双方の交渉役にはさらに多くのアイディアがあると私は考えています。

1つ目として挙げた国境に関する内容が極めて重要です。EUがすでに許容範囲としているフランス・スイス間やセルビア・ルーマニア間などの国境と「少なくとも同程度の不正取引蔓延回避」を基準として求めることで、EU離脱支持者に対し、EUが英国・アイルランド間の国境にあり得ないような基準を設定する可能性は低いとしつつ、不正取引からEUを守れるだけの国境問題解決策を約束するとして、安心感を与えるはずです。

このプランの順序立てられたプロセスとは

英国とEUは、離脱協定、政治宣言および付随的内容に同時に合意するとみられます。しかし政治宣言については、最終合意に至っても標準時間3月29日午前11時(ベルギー時間では12時)過ぎまで効力を持つことはなく、これが、英国が第三国としてEUと国際条約を結ぶことができる最大限に早いタイミングとなるでしょう。

憲法に関わる弁護士が判断することですが、このような内容(「真夜中の譲歩」と呼ぶことにします)は、書簡または主要協定の補足協定という形になると考えられます。英国側の条件合致の有無をWTO、国際裁判所または特別委員会といった組織が判断し、その判断には双方とも同意する必要があるでしょう。ただし私は、欧州司法裁判所による判断の場合には、英国側に有利に働くことはないとみています。

「真夜中の譲歩」があれば、現状を乗り越え、今から6週間後に移行期間に入ることになるでしょう。アイルランド国境問題の解決策とは、ある種のテクノロジーによる解決策を意味します。難題であることに変わりはありません。移行期間の21ヵ月あるいは45ヵ月以内でも解決されるとは限りません。移行期間終了までに解決されなければ、英国がバックストップを受け入れることになりますが、英国が自らの意思でバックストップを停止できる形は、そのためにEUの承認を得なければならない形よりも、合意されやすいものと考えます。

ディールメイキングにおいては、前提条件を付すことで、資金調達に必要な複雑なプロセスをM&A取引の交渉以外の場で行うことが可能になります。Brexitという世界で最も大きな(会社)分割において、それこそが交渉の行き詰まりを進展に、不透明感を明るい見通しに、不信感を確信に代えるカギだと考えます。EU懐疑派が期待する英国による将来的な国際貿易のコントロール、EUが期待する関税同盟と単一市場の完全性の保持、そして企業が期待する合意なしの離脱回避に向けての確信に変わるのです。

本稿は2019年2月15日に掲載された英語版(原文)のコンテンツを和訳したものです。日本語版と英語版との内容に相違がある場合は英語版が優先されます。

The Brexit Column: Is this the solution to Brexit?

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