ブロックチェーンの活用で偽造医薬品流通防止へ

「ブロックチェーン活用術」第10回 - 医薬品の流通段階での安全性・信頼性を担保する、ブロックチェーンの活用について解説する。

医薬品の流通段階での安全性・信頼性を担保する、ブロックチェーンの活用について解説する。

ブロックチェーンで偽造医薬品流通を防止

ブロックチェーンは医薬品の流通段階での安全性・信頼性を担保するのにも活用できる。
2017年、C型肝炎治療薬「ハーボニー配合錠」の偽造品が薬局チェーンに流通する事件が起きた。世界的にも偽造医薬品は増加傾向にあり、流通量は年750億ドルに達しているといわれている。途上国では医薬品流通量の10~30%が偽物と報告されている。
また、医薬品は輸送や保管時の温度などの変化で劣化など品質が損なわれることから、流通過程における品質の確保も課題となる。流通経路において、偽造医薬品が混入するリスクもある。
ブロックチェーンはこうした医薬品流通が直面する2つの課題を解決するのに役立つ。1つは、メーカーから薬局に届くまでのトレーサビリティ(生産流通履歴の追跡)による信頼性の向上。もう1つは、再流通の経路での偽造品の混入防止である。

ブロックチェーンによる流通経路の安全性確保

最初の課題は、複数の企業間で情報共有するコンソーシアム型のブロックチェーンが使える。具体的には、医薬品の輸送・保管時の品質管理について定めた国際的な適正流通基準(GDP)の対象範囲である、製造工場から倉庫・卸売り・薬局に至るまでのサプライチェーン(供給網)の履歴追跡に応用する。そうすることで、改ざん防止と温度などの品質と信頼性を担保できる。その結果、医薬品の安全な流通が確保できるようになると期待される。
もう1つの課題は、薬局で売れ残った医薬品を卸売りに販売し、卸売りが別の薬局に転売する再流通の過程で起こる偽装品の混入リスクである。誰が、どこでいつ、どこから入手したのかを明確にしなければ、再流通の際に、偽装品が混入する恐れが残る。
この薬の流通履歴もブロックチェーンを使って、どの調剤薬局でいつだれが買ったものかの履歴を担保し、偽造医薬品をサプライチェーンに混入させないトレーサビリティの仕組みとしての活用が期待される。
そのほか、臨床試験データの信頼性確保のためのデータ改ざん防止での活用や電子カルテ、お薬手帳などの情報を別の病院・薬局でも使えるプラットフォームとしてブロクッチェーンの活用が期待される。ただし、カルテやお薬手帳などの情報は個人情報が含まれているため、一度記録した情報は削除できないブロックチェーンの仕組みに注意する必要がある。

医薬品トレーサビリティへの活用

医薬品トレーサビリティへの活用

執筆者

KPMGコンサルティング
マネジャー 田中 義人

日経産業新聞 2018年11月15日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

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