国別報告書(Country by Country Report “CbCR”)
OECD移転価格ガイドライン2017年版の第5章で、移転価格文書化に関する新ルールが策定され、マスターファイル、ローカルファイル、国別報告書(CbCR)の三層構造でのアプローチが提唱された。各国当局間の透明性を高めることを目的として、共通様式で各国が導入することが求められている。
OECD移転価格ガイドラインの第5章では、移転価格税制の文書化に関する新ルールが策定され、の三層構造でのアプローチが提唱された。
OECD移転価格ガイドラインで示されたCbCRの概要は以下のとおりである。当該ガイドラインの公表により、日本においても平成28年度税制改正において国別報告書の作成、ならびに国別報告書の作成義務者の報告が義務付けられることになった。なお、日本における国別報告書の規定の詳細は、日本版移転価格文書化(Japanese Transfer Pricing Documentation)を参照のこと。
- 提出義務者
年間連結グループ売上高が750百万ユーロ以上(日本の税法上は売上高が1,000億円以上)の多国籍企業の最終親会社または代理親会社に適用される。売上高基準以外に例外はなく、特に特別な産業、投資ファンド、会社形態でない事業体、非公開の事業体であっても例外は認められるべきではないとされている。 - 提出期限
最終親会計年度終了の日の翌日から1年以内にe-Taxにより提出することが求められる。 - 記載内容
大規模な多国籍企業は、事業活動を行っている各税務管轄地における総収入額、税引前利益、法人税額(納付税額ベース)および法人税額(当期発生分)、各税務管轄地における従業員数、資本金、利益剰余金および有形資産の額を報告することが求められる。その他、各税務管轄地において事業活動を行っている多国籍企業グループの事業体を明記し、各事業体が行っている事業活動を別表にて記載することが求められる。 - 各国当局間の共有イメージ
国別報告書は、最終親会社所在地国において、最終親会社または代理親会社から提出される。それ以外の国の税務当局は、税務行政執行共助条約、多国間租税条約または租税情報交換条約を含む政府間の自動的情報交換を通じて共有される(条約方式)ことが原則である。ただし、自動的情報交換方式の前提となる3つの条件を満たせない場合には、補完的に、当該国が自国の子会社に国別報告書の提出を求めること(子会社方式)が認容されている。
自動交換を行うための権限ある当局多国間合意(Multilateral Competent Authority Agreement ”MCAA”)に署名・調印している国は増加(2022年1月時点では92ヵ国)傾向にあり、対象国間がMCAAに署名・調印している場合は、国別報告書の情報交換が有効化される。また、国別報告事項の提出状況に係る事前通知(Notification)が課せられる国があり、対応期限が各国さまざまである。
条約方式(原則)
子会社方式(例外)
CbCR開示(公開CbCR、EU Public CbCR)
CbCR開示制度とは、EU域内で活動するEUに最終親会社を置く多国籍企業ならびにEU域外に最終親会社を置く多国籍企業に対して、EU域内での活動に係る税務情報等を記したCbCRを、所定機関(商業登記所)へ報告・開示するよう義務付ける制度である。
当該制度に関するEU指令が、2021年11月11日に欧州議会で承認された後、2021年12月1日付のOfficial Journal of the European Union(欧州連合官報)で公表され、2021年12月21日に正式発効した。EU加盟各国は、2023年6月までに各国国内法における法制化を行うことが求められ、2024年6月以降に各国で施行されることとなっている。ただし、各国は法制化・施行の前倒しが可能であるため、各国での制度の施行時期については要確認である。企業にとっては、拠点所在国における国内法の施行後に開始する事業年度(通常は2024年6月以降に開始する事業年度)が、初回の公開対象報告対象年度となる。
EU域内に最終親会社が所在する多国籍企業およびEU域内単独企業については、国ごとに所定の項目を公開CbCRに記載しなければならない。EU域外に最終親会社がある多国籍企業のうち、EU非協力国リスト掲載国に拠点(子会社および支店)を有する企業は、EU非協力国リスト掲載国に所在する拠点については国ごとに所定の項目を公開CbCRに記載しなければならず、それ以外の国に所在する拠点については一定の規模を持つ拠点に関して公開CbCRに記載しなければならない(国ごとの情報ではなく、項目ごとの総計額を記載すればよい)とされている。
EU非協力国リストは、税務面で非協力的な国・地域リスト(List of Non-cooperative Jurisdictions for Tax Purposes)のAnnex IおよびAnnex IIにおいて指定され、年2回(2月、10月)に見直しが行われる。
次の事項が、公開CbCRにおける開示対象とされており、原則としてOECDが定めるCbCRの内容と同様である。
- 最終親会社または単体企業の名称、関係する年度、使用通貨
- 事業内容
- 従業員数
- 正味売上高
- 税引前利益
- 当該国における当期利益について当該国で納付すべき法人税額
- 当該年度に実際に納付した税額
- 利益剰余金
(留意点1) EU加盟国は自国でこれらに追加して情報を求めることができる。
(留意点2) セーフガード条項:開示により事業の商業的地位に重大な不利益をもたらす場合、その情報を一時的に省略できるセーフガード条項が採用された。ただし省略された情報は5年以内の公開が求められる。また、EU非協力リスト掲載国に係る情報については、省略は不可とされた。