株式会社の役員の任期
平成18年5月の会社法施行に伴い、株式を公開していない、いわゆる譲渡制限株式会社の取締役及び監査役の任期は、定款変更によって最長10年まで延長することができるようになりました。
平成18年5月の会社法施行に伴い、株式を公開していない、いわゆる譲渡制限株式会社の取締役及び監査役の任期は、定款変更によって最長10年まで延長することができるようになりました。
これまでは取締役の任期は2年、監査役の任期は3年(平成13年12月改正により4年に延長)と旧商法で定められていました。もともと役員の任期の定めのなかった有限会社法の規定の一部を会社法に取り入れた上で廃止し、既存有限会社を株式会社体系に組み込む上で浮き彫りになってきた、役員改選にかかるコストの負担や、特に同族企業に多く見られる同一役員の重任など、今日の企業の実態に即した会社法の施行が以前から求められていました。そのため、いくつかの点について既存の商法規定から見直しが行われました。
1.取締役の任期
株式会社の多くを占める譲渡制限株式会社に限って、取締役の任期について定款の規定を変更する手続きを経て、最短1年から最長10年に至るまで、会社の実情にあわせて柔軟に定めることが可能になりました。
2.監査役の任期
監査役については、監査の独立性を確保するため、その地位を堅固なものにする必要があることから、会社法で最短4年と定め、これには定款規定による短縮等の例外を設けないこととしています(会社法第336条第1項)。旧商法に従って定款の規定上3年のままになっている会社も、法定任期のため定款変更の決議を経ることなく4年であるとみなされます。増員のため選任された監査役の任期も、原則どおり選任後4年内の最終の決算の承認株主総会の終結時までであり、下記3の取締役の場合と異なり、定款によって他の監査役と同じ任期への調整を図ることはできないとされています。
また譲渡制限株式会社で監査役を設置する会社であれば取締役同様、定款規定の変更によって最長10年とすることが可能です。
なお、会社が解散した場合の監査役については通常の任期は適用されず、清算結了までその任期は継続し、監査役としての職務を行う必要があります。
3.取締役の補欠・増員について
役員改選は通常定時株主総会をもって行なわれますが、なかには任期途中での辞任や解任により、前任者の欠員を補ったり、あるいは業務拡大等の理由により役員を増員することがあり、その場合は臨時株主総会によって決議・選任されます。臨時株主総会の決議によって補欠、または増員として新たに選任された取締役の任期は、原則として選任後2年内の最終の決算の承認株主総会の終結時までとなりますが、任期計算の煩雑さを避けるため、多くの会社では定款に「前任者又は他の在任取締役の任期の残存期間と同一とする」旨の規定を置き、任期調整を図っています。
4.監査役の補欠について
複数の監査役を置く会社の監査役の一部補欠については上記3.の取締役の場合と同様のことがいえます。
注意を要するのは、多くの会社にみられる単独監査役の補欠の場合です。これまでの商法に基づく実務上の取り扱いでは、定款に後任監査役の任期を前任者の任期の残存期間とする旨の規定を定めていてもそれまでに2名以上の監査役が就任していない限り、前任者が辞任または解任により退任したときの後任者は(商法上の)補欠監査役とみなされなかったため、自らの就任後4年内の最終の決算の承認株主総会の終結時が後任者の退任時として取り扱われていました。多くの会社においては自社に置いている監査役が一人であるにもかかわらず複数株主を置く会社と同様の定款規定を定めていた可能性があり、実際には上記のとおりの取り扱いが行われていたため、その定款規定は意味をなしていなかったと言えます。
そこで会社法に基づく取り扱いでは、補欠監査役の任期について定款で「前任者の残存期間と同一とする」と定めている場合には、監査役の人数に関わらず、前任者の任期の残存期間と同一とする取り扱いに変更されることになりました。すなわち後任者の任期についてはこれまでの商法による取り扱いのように取締役と監査役の役職の違いで取り扱いを異にすることがなくなりました。
この取り扱いは会社法施行後の平成18年5月以降選任された監査役で、その会社の定款に上記の定めがある場合に適用になります。
5.役員の全員辞任・就任について
上記は一部役員が補欠・増員により就任する場合でしたが、現取締役が全員辞任した場合は対応が異なります。臨時株主総会の決議によって選任された新取締役全員の任期は原則どおり選任後2年内の最終の決算期に関する定時株主総会の終結時となりますが、選任のタイミングによって役員の任期が丸2年弱、極端な例では1年強となるケースがありますので注意が必要です。この任期が短くなる例として、次のようなケースが考えられます。
1)決算期直前の臨時株主総会によって選任された場合
(例)12月末決算期の会社で決算期直前に役員の改選が行なわれた場合
2)任期途中で会社の事業年度が変更された場合
(例)10月決算の会社が決算月を12月に移行した場合
事業年度が1年以上となることはないため、2期目の事業年度が2ヶ月で終わることになり、役員の任期も1年2ヶ月程度で任期満了となります。
登記簿には決算期や任期の記載はないため、全役員の改選が行なわれた場合に後日登記簿だけで判断すると本来の役員改選期を失念することがありますので注意が必要です。登記を失念していた場合に法務局の職権によって行われるみなし解散の時期は、これまでの5年から会社法施行に伴い12年に延長されました(会社法第472条第1項)。通常の適切に管理運営されている株式会社であれば、失念したとしてもしばらくの期間内に登記すればみなし解散となる危険性はより少なくなったといえます。ただし定款に定める正規の改選時期に役員変更が行なわれなかった場合に、後で登記申請した後に「選任懈怠」として法務局から連絡を受けた地方裁判所より過料が請求される制度は現在も残っていますので、不必要なコスト負担を避けるためにも毎年定時総会の準備の頃には役員変更の時期の確認を欠かさない配慮が必要でしょう。