Fraud Survey-日本企業の不正に関する実態調査」(2022年9月、KPMG FAS)によると、直近3年間で不正が発生したと回答した上場企業の割合は24%と、前回調査(2018年)よりも8ポイント低下しましたが、これは不正の発生が減少したのではなく、コロナ禍において監視機能が低下したことによるものと考えられます。多くの日本企業において国内マーケットが頭打ちの状況において、海外の事業展開を強化する動きが活発化しており、グループガバナンスの強化と子会社不正リスクの早期発見はますます重要な課題となっています。

こうした背景を受け、これからの経理部門はガバナンスにどう貢献していけるか。国内外に数多くの子会社を持つ日本ハム株式会社経理財務部の関陽平氏と林恵里佳氏に、KPMGの「子会社分析ツール」を活用したグループガバナンス強化の取組みについてお話を伺いました。

インタビュアー = 株式会社KPMG FAS 執行役員パートナー 佐野 智康

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経理財務部としてガバナンスに貢献するために、子会社分析ツールを導入

貴社は、KPMGが提供する「子会社分析ツール」を2021年に導入されました。導入前、グループガバナンスについてどのような課題感をお持ちだったのでしょうか。

関氏:日本ハムは世界15カ国に展開しており、連結子会社が64社 、そのうち海外の子会社は23社です(2024年3月31日時点)。2020年頃は、新型コロナウイルス感染症の世界的流行の影響で、社会的に海外子会社の会計不正対策が大きな課題となっていました。日本ハムにおいてもグループガバナンスを強化することとなり、経理財務部としてもガバナンスに貢献できる取り組みを検討しようという機運が高まり、3年前に子会社分析プロジェクトを立ち上げました。

当時はどのような対策を講じていたのでしょうか。

関氏:経理財務部が取り組んでいたのは、「増減分析」と「経理モニタリング」です。「増減分析」は、連結パッケージの当四半期と前年同四半期の増減を分析し、異常がないかを確認するものですが、分析の深度の観点で課題感がありました。「経理モニタリング」は、チェックリストを用いて子会社の経理体制・ガバナンスを確認するものですが、リソースの都合上、多くて年間3社程度の実施にとどまっており、適時性の観点で課題感がありました。そこで、四半期連結パッケージを使って適時かつより深い分析を行うことで、不正発見につながる取組みができないかと考えました。

決算データから子会社の会計不正リスクを早期発見する-01

関 陽平 氏
日本ハム株式会社 経理財務部 マネージャー

ツール導入の決め手は、「コスト面」「サポート体制」「見える化」の3点

プロジェクトを立ち上げた後に、具体的な取り組みとしてどのような選択肢が候補に挙がりましたか。また、数ある選択肢の中で、KPMGの子会社分析ツールをご選択いただいた理由を教えてください。

関氏:前述した課題を解決するために、連結パッケージを効率的に分析できるツールを導入したいと考えました。そこで、該当するツールを提供している財務系アドバイザリー会社の数社からサービス説明を受け、比較検討しました。KPMGツール導入の決め手になったのは「1.コスト面」「2.サポート体制」「3.見える化」の3点です。

まず、「1.コスト面」については、できるだけ投資額を少なく抑えたいと考えました。初めて使うツールだったので、費用対効果の試算が難しいと考えたためです。

次いで、「2.サポート体制」については、KPMGが提供している「無償デモ」の仕組みを用いて、KPMGが日本ハムの実際のデータをツールで分析し、結果をプレゼンいただきました。この「無償デモ」は、ツールの効果を検証するうえで大きな効果がありました。また、まるで日本ハムだけを担当しているのではないかと思うくらいレスポンスも早く、きめ細かい対応をしていただきました。こうした対応には非常に安心感がありましたし、運用していくイメージがかなり具体的に湧きました。これが決め手だったように思います。なお、導入後は、ツールの機能アップデートが非常に速く助かっています。

最後の「3.見える化」については、KPMGの子会社分析ツールの大きな特徴の1つだと思います。子会社のリスク評価結果や増減分析などが自動でグラフ化されますので、ビジュアルで異常性を判断することができます。

「1.コスト面」について詳しくお聞かせください。子会社分析ツールは、年間利用料が定額で、かつ安価な導入コストでご利用いただける点に特徴があります。貴社は当ツールの料金体系についてどのようにご評価されたのでしょうか。

関氏:各社のサービスを比較する中で、(1)外部専門家が分析結果をレポーティングするサービス、(2)分析ツールの提供を受けて自社のリソースで分析するサービス、の2つの選択肢を比較検討しました。前者は、外部専門家の工数が必要となるためコストも大きくなります。後者は、KPMGの子会社分析ツールには専門家による分析の着眼点が実装されていますので、自社のリソースで異常性を判断することができ、かつコストを抑えることが可能だと考えました。 

林氏:料金体系が子会社数に関わらず定額というのも評価ポイントでした。日本ハムの連結子会社は約64社ですから、会社数×単価で計算するとかなり大きな金額になります。子会社分析ツールは会社数によらず固定料金ですから、導入・運用コストを抑えることができました。

また、既存の連結会計システムのデータをそのまま使える点も評価のポイントでした。データの投入が非常にシンプルかつスムーズです。分析の専門部隊を設けているわけではなく、分析にかける人も時間も限られているため、工数を抑えられる点にメリットがあると感じました。

決算データから子会社の会計不正リスクを早期発見する-02

林 恵里佳 氏
日本ハム株式会社 経理財務部 リーダー

「2.サポート体制」でコメントいただいた「無償デモ」は、KPMGがクライアントの実データを分析し、結果デモならびにレポート提供を行うことで、ツールの性能をご評価いただく仕組みです。貴社の検討において、「無償デモ」はどのような役割を果たしましたか。

関氏:経理財務担当役員の納得感を得ることができました。投資に係る話ですので、「効果が期待できるのであればやってみよう」という一押しになったように思います。無償デモの結果があったからこそ、経理財務部の担当役員や部長だけでなく、事業部や監査部にも子会社分析ツールの有用性を説明することできました。監査部や事業本部との協力体制を築くきっかけにもなり、今でも分析内容を各部署と共有しています。

KPMGのサポートでスムーズに導入し、子会社ガバナンスの強化を実現

ツールの導入や、導入後の運用についてご苦労された点をお聞かせください。

関:KPMGのサポートのおかげで、ツールの利用開始まではそれほど苦労しませんでした。各画面をどのように活用するかの検討、指標の意味の理解、異常値の解釈等については、当然ながら時間がかかりましたが、KPMGのサポートのおかげで思ったよりも大変ではなかったように思います。困ったことがあり問い合わせしても、すぐに返事が貰えるので助かっています。

ありがとうございます。子会社分析ツールを導入いただいた後に、貴社の業務への落とし込みをご支援させていただいたのをよく覚えています。続けて、現在のツールの活用状況についてお聞かせください。

林氏:四半期に一度、各子会社の連結パッケージを分析しています。分析ツールで検知された異常アラートを各子会社の担当者と共有し、各社にヒアリングするという形で運用しています。

子会社分析ツールには複数の分析機能があります。主にどの機能をご利用されているのでしょうか。

林氏:私が最も使用しているのは不正リスク分析機能です。ツールが計算した子会社のリスクスコアが自動表示されるので、高リスク子会社から重点的に確認することができます。また、異常値にはアラートが表示されるので、重要性の濃淡をつけることができます。各社の担当者にはその濃淡に基づきに確認してもらうようにしています。これにより、かなり効率よくチェックできています。

ツール導入時に設定された目標の達成度合いはいかがでしょうか。

関氏:当初の第一目標は海外子会社の不正の発見でしたが、幸いなことに、運用開始してから不正の発見事例はありません。

林氏:不正予防の観点では、子会社に対する毎四半期のヒアリングで、「きちんと見ている」というメッセージを伝えることができます。それが各社への牽制となり、ガバナンス面で効果があると感じています。また、分析結果が話すきっかけとなり、純粋に各社とのコミュニケーションの回数が増えました。これもうれしい効果です。

関氏:何事もまず森を見てから木を見るべきと言われていますが、日本ハムでは子会社分析ツールは森を見るためのツールと位置付けています。これまでに見えていなかった森の部分が、このツールによって見える化できていると感じています。子会社分析ツールを利用することで、勘定科目の誤りが判明することがしばしばあります。経理財務部は適正な財務諸表の作成・報告が求められる立場ですので、誤謬発見の観点でも有用性を実感しています。

決算データから子会社の会計不正リスクを早期発見する-03

株式会社 KPMG FAS
執行役員パートナー
佐野 智康

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今後は経理モニタリングにもツール活用の場を広げていきたい

今後、子会社分析ツールを活用してどのような課題解決に取り組まれることをお考えでしょうか。

林氏:冒頭で述べた「経理モニタリング」への活用です。日本ハムの経理モニタリングは、チェックリストを使用して各子会社の経理体制や経理ガバナンスを確認する取り組みですが、今後は子会社分析ツールの分析結果をうまく織り込んでいきたいと考えています。どこにリスクがあるのかを事前に分析したうえでモニタリングに臨むことで、効果や効率が向上すると考えています。

最後に、KPMGへの期待についてお聞かせください。

関氏:子会社分析ツールの活用度をさらに高め、習熟度を上げたいと考えています。経理モニタリングで活用していく場合、現在ツールを使っていないメンバーに向けた研修等が必要となりますので、サポートをお願いしたいと考えています。

林氏:AIを使った分析等に期待しています。経理財務部では、四半期決算時にどうしても人手が必要になります。加えてIFRS対応の観点から、経理処理や開示項目が増えていく傾向にあり、マンパワーに課題を抱えています。AIを活用することで自動化を図ることで、省力化につながると考えています。

経理財務業務の効率化・高度化は、KPMGが手掛ける領域の一つですので、引続きご支援していきたいと考えています。本日は貴重なお話をお聞かせいただきありがとうございました。

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