日本基準オンライン基礎講座 税効果会計

「税効果会計」の会計処理について音声解説付きスライドにより分かりやすく解説します。

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チャプター別動画

解説文付きスライド

※2023年3月31日時点で公表されている基準等に基づき解説しています。

税効果会計の必要性

企業会計上、損益計算書では、収益から費用を差し引いて、税引前利益が計上されます。

税効果会計1

このケースでは、収益6,000から、費用4,000を差し引いた2,000が、税引前利益となります。
仮に実効税率を30パーセントと仮定すると、税引前利益に実効税率30%を乗じた600が、税金費用である法人税等として計上されます。
このケースでは、法人税等を控除する前の利益と法人税等は、実効税率どおりの関係になっており、両者は対応しています。
しかし、このケースのように、法人税等の税引前利益に対する割合が実効税率と等しくなることはまれです。
なぜならば、企業会計と、税務では、その目的が異なるからです。

企業会計では、適正な期間損益計算を目的とするのに対し、税務では、公平に課税することを目的とするため、企業会計では認められた費用が、税務では認められない場合等があります。
企業会計上の税引前利益に、税務上認められなかった損益等を加減算して、税務上の利益である課税所得を算定します。
その課税所得に税率を乗じたものが、法人税等として算定されます。
なお、税務上の収益を益金、費用を損金と言います。

企業会計上の税引前利益2,000には、棚卸資産評価損100が反映されているとします。
この棚卸資産評価損が、税務上の損金として認められないものである場合には、税務上の課税所得は、棚卸資産評価損100を、企業会計上の税引前利益2,000に加算した、2,100となります。
つまり、課税所得2,100に、税率30パーセントを乗じた630が、法人税等として計算されます。

しかしながら、このままでは、先ほどのケースとは異なり、税引前利益2,000と税金費用630が対応していません。
そのため、税引前利益と、それに応じて計上される税金費用を対応させる手続きが必要となります。これが税効果会計です。

税効果会計2

このケースでは、税務上、損金算入が認められなかった棚卸資産評価損100に、税率30パーセントを乗じた30について、 借方繰延税金資産30、貸方法人税等調整額30という仕訳を行い、企業会計と税務のズレを解消します。
この結果、法人税等マイナス630に、法人税等調整額30を加えた合計額600は、税引前利益2,000に税率30パーセントを乗じたものと等しくなります。

このように、法人税等の額を適切に期間配分することにより、法人税等を控除する前の当期純利益と、法人税等を、合理的に対応させる会計処理を、税効果会計といいます。

税効果会計の仕組み

税金費用には、納付税金、つまり当期の法人税等として納付すべき額と、税効果会計の適用による法人税等調整額という、2つの税金概念があります。
納付する税金は、企業会計上の利益を基礎として課税所得を計算し、これに一定の税率を乗じて計算されます。
他方、税効果会計の適用による法人税等の調整は、企業会計上の資産・負債と、税務上の資産・負債との差額である「一時差異」に、税率を乗じて行われます。
一時差異とは、企業会計上、計上されている資産および負債の金額と、課税所得計算上の資産および負債の金額との差額をいいます。

一時差異等・一時差異等に該当しない差異

一時差異とは、企業会計上の資産および負債の金額と、課税所得計算上の資産および負債の金額との差額をいい、将来減算一時差異と将来加算一時差異に分類されます。
 

税効果会計3

将来減算一時差異は、一時差異のうち、当該一時差異が解消するときに、その期の課税所得を減額する効果を持つものをいいます。
棚卸資産評価損が、その一例です。

他方、将来加算一時差異は、一時差異のうち、当該一時差異が解消するときに、その期の課税所得を増額する効果を持つものをいいます。圧縮記帳が、その一例です。
また、税務上の繰越欠損金は、一時差異ではありませんが、その発生年度の翌期以降で繰越期限切れになるまでの期間に課税所得が生じた場合には、課税所得の一定割合を減額することができるため、一時差異に準ずるものとして、一時差異と同様に扱われます。 一時差異と税務上の繰越欠損金等を総称して「一時差異等」と呼ばれます。

他方、会計と税務に差異が存在するものの、将来その差異が解消することがないものも存在します。代表的な例が、交際費です。
交際費は、期末資本金の額が1億円超の法人であれば、税務上、50パーセント相当額を超える部分を損金算入することは認められていません。
つまり、企業会計上は費用計上したとしても、税務上は永久に損金にはならない差異であるため、これらの差異は「一時差異等に該当しない差異」と呼ばれます。

税効果会計は、企業会計と税務の差異が将来解消し、解消時点の税金を、減額または増額する効果がある場合に行う会計処理であるため、将来差異が解消する「一時差異等」のみが対象となり、差異が解消しない「一時差異等に該当しない差異」は、税効果会計の対象にはなりません。

資産負債法と繰延法

税効果会計の会計処理方法には、資産負債法と繰延法の2つがあります。
資産負債法とは、貸借対照表重視の方法であり、企業会計上の資産または負債の額と、課税所得計算上の資産または負債の額との間に相違がある場合に、税効果会計を適用する方法をいいます。
繰延法とは、損益計算書重視の方法であり、企業会計上の収益または費用と、税務上の益金または損金との間に相違がある場合に、税効果会計を適用する方法をいいます。
日本基準では、資産負債法が採用されています。これはIFRSと同じです。
ただし、連結財務諸表上の未実現損益に係る一時差異については、例外的に繰延法が採用されています。

繰延税金資産および繰延税金負債の計上

税効果会計は、一時差異の把握、法定実効税率の算定、繰延税金資産・負債の認識、繰延税金資産の回収可能性の検討、繰延税金資産・負債および法人税等調整額の算定、というフローで行われます。
一時差異のうち、将来加算一時差異に法定実効税率を乗じたものは、繰延税金負債として認識され、また、将来減算一時差異に法定実効税率を乗じたものは、繰延税金資産として認識されます。

税効果会計上で考慮される税金は、利益に関連する金額を課税標準とする税金であり、法人税・住民税・事業税の3つが該当します。
法定実効税率は、これらの3つの税金を勘案して、理論上の税負担率を算定したもので、具体的には、このような算式で算定されます。

ただし、繰延税金資産は、将来の税金負担額を軽減する効果を有しているもの、すなわち回収可能性があるもののみを資産計上することとなります。
したがって、認識した繰延税金資産をすべて計上することはできず、回収可能性を十分に検討し、慎重に決定しなければなりません。
繰延税金資産・負債の相手勘定は、税金費用を適切に期間配分するために、「法人税等調整額」と呼ばれる勘定項目を用います。
なお、繰延税金負債については、繰延税金資産の回収可能性とは対照的に、支払可能性を検討することになります。

繰延税金資産の回収可能性の判断要件

繰延税金資産の回収可能性があるとは、将来減算一時差異または税務上の繰越欠損金等が、将来の税金負担額を軽減する効果を有していると見込まれる場合をいいます。
具体的には、収益力に基づく一時差異等加減算前課税所得の十分性、タックスプランニングの存在、将来加算一時差異の十分性の、3つの判断要件のいずれかを満たすことが求められます。
収益力に基づく一時差異等加減算前課税所得の十分性とは、将来減算一時差異の解消見込年度、または繰越欠損金の繰越期間内に、十分な課税所得が発生する可能性が高いと見込まれること等をいいます。。
過去の業績や納税状況、将来の業績予測等を総合的に勘案し、課税所得の額を合理的に見積る必要があります。
タックス・プランニングの存在とは、含み益のある固定資産を売却するなど、将来減算一時差異の解消見込年度、または繰越欠損金の繰越期間内に、一時差異等加減算前課税所得を発生させる実行可能な具体的な計画、タックス・プランニングがあることをいいます。
将来加算一時差異の十分性とは、将来減算一時差異の解消見込年度、または繰越欠損金の繰越期間内に、将来加算一時差異の解消が見込まれることと等をいいます。

繰延税金資産の回収可能性の判断(分類1)

繰延税金資産の回収可能性については、会社の過去の業績とーの状況を主な判断基準として、大きく5つに分類して判断します。

  • 過去3年、および当期のすべての事業年度において、期末における将来減算一時差異を十分に上回る課税所得が生じている、
  • 当期末において、近い将来に経営環境に著しい変化が見込まれない、

という要件をいずれも満たす企業は、分類1に該当することとされ、原則として繰延税金資産の全額について、回収可能性があると判断されます。
 

繰延税金資産の回収可能性の判断(分類2)

  • 過去3年、および当期の、すべての事業年度において、臨時的な原因により生じたものを除いた課税所得が、期末における将来減算一時差異を下回るが、安定的に生じている
  • 当期末において、近い将来に経営環境に著しい変化が見込まれない
  • 過去3年、および当期の、いずれの事業年度においても、重要な税務上の欠損金が生じていない

という要件をいずれも満たす企業は、分類2に該当することとされ、一時差異等のスケジューリングの結果、スケジューリングされた将来減算一時差異について計上した繰延税金資産全額について、回収可能性があると判断されます。
また、分類2に該当する企業では、原則として、スケジューリング不能な将来減算一時差異に係る繰延税金資産については、回収可能性がないと判断されます。

例えば、当期100の将来減算一時差異について、5年目まで毎期10、6年後以降は30が回収されるスケジューリングをたてられたならば、80の将来減算一時差異について計上した繰延税金資産は、回収可能と判断し、スケジューリングされなかった20について計上した繰延税金資産は、回収可能性がないと判断します。

税効果会計4

繰延税金資産の回収可能性の判断(分類3)

  • 過去3年、および当期において、臨時的な原因により生じたものを除いた課税所得が、大きく増減している
  • 過去3年、および当期のいずれの事業年度においても、重要な税務上の欠損金が生じていない

という要件をいずれも満たす企業は、分類3に該当することとされ、将来の合理的な見積可能期間(おおむね5年)内の将来の一時差異等加減算前課税所得の見積額を限度として、当該期間内の一時差異等のスケジューリングの結果に基づき、それに係る繰延税金資産を計上できます。

例えば、当期100の将来減算一時差異について、5年目まで毎期10が回収されるスケジューリングをたてられたならば、50の将来減算一時差異について、繰延税金資産を計上できます。

税効果会計5

繰延税金資産の回収可能性の判断(分類4)

  • 過去3年、または当期において、重要な税務上の欠損金が生じている
  • 過去3年において、重要な税務上の欠損金の繰越期限切れとなった事実がある
  • 当期末において、重要な税務上の欠損金の繰越期限切れが見込まれる

という、いずれかの要件を満たし、翌期において、一時差異等加減算前課税所得が生じることが見込まれる企業は、分類4に該当することとされ、翌期の一時差異等加減算前課税所得の見積額に基づいて、翌期の一時差異等のスケジューリングの結果、繰延税金資産を見積もる場合、当該繰延税金資産は回収可能性があると判断されます。

ただし、重要な税務上の欠損金が生じた原因等を勘案して、将来の一時差異等加減算前課税所得を見積もる場合、将来において5年超にわたり、一時差異等加減算前課税所得が安定的に生じていることを、企業が合理的な根拠をもって説明する場合には、分類2に該当するものとして取り扱います。

他方、将来において3年から5年程度は、一時差異等加減算前課税所得が生じていることを、企業が合理的な根拠をもって説明する場合には、分類3に該当するものとして取り扱います。

繰延税金資産の回収可能性の判断(分類5)

  • 過去3年、および当期のすべての事業年度において、重要な税務上の欠損金が生じている
  • 翌期においても、重要な税務上の欠損金が生じることが見込まれる

という要件をいずれも満たす企業は、分類5に該当することとされ、原則として繰延税金資産の回収可能性はないと判断されます。

連結財務諸表における税効果会計

連結財務諸表における税効果会計とは、個別財務諸表上の一時差異等に係る税効果会計を適用した後、連結財務諸表作成手続において、連結財務諸表固有の一時差異に係る税金の額を期間配分する手続をいいます。

連結財務諸表固有の一時差異の例

  • 連結会社間の債権と債務の相殺消去による、貸倒引当金の修正
  • 投資に係る一時差異
  • 資本連結に際して、子会社の資産および負債を時価評価した場合に生じた評価差額
  • 連結会社間の取引から生じる未実現損益の消去
  • 連結手続において会計方針を統一した場合に、連結貸借対照表上の資産および負債の額と、個別貸借対照表上の資産および負債の額が相違しているときの差額

未実現損益の消去に係る税効果

親会社が80の棚卸資産を子会社に100で売却し、かつ子会社が当該棚卸資産を期末にも保有しているケースを考えます。
この場合、20の未実現利益は連結手続き上消去されますが、親会社の個別財務諸表上は利益計上され、課税されています。
そのかわり、後日、当該棚卸資産がグループ外へ売却された時には、この未実現利益部分については、課税されません。
したがって、この未実現利益は、連結上の一時差異として計上され、税効果を認識することになります。
これまで解説した資産負債法の考え方によれば、未実現利益20に、将来の税金費用を軽減する効果を有している子会社側の法定実効税率20パーセントを乗じて、4の繰延税金資産を計上することになりますが、ここでは、資産負債法の例外として、繰延法の考え方が採用され、未実現利益20に、親会社側の法定実効税率30パーセントを乗じて、6の繰延税金資産を計上します。

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