ROIC経営におけるサステナビリティ投資の評価方法

企業がROIC経営を推進するなかで、サステナビリティ投資をどう評価・運用していくべきかについて解説します。

企業がROIC経営を推進するなかで、サステナビリティ投資をどう評価・運用していくべきかについて解説します。

上場企業は自社のビジネスモデルの持続可能性を高めるために、事業ポートフォリオの組換えを推進するとともに、脱炭素をはじめとするサステナビリティ投資に取り組むことを求められています。しかしながら、サステナビリティ投資は必ずしも短期的に利益を生むものばかりではありません。

そして、株式市場の主たる参加者である機関投資家は、サステナビリティ投資の結果として企業がリターンを犠牲にしても良いとは考えていません。ここで言うリターンとは、ROICがWACCを上回ることを指しています。つまり、企業はROICを維持・向上させつつ、サステナビリティ投資を推進していく必要があるのです。そのためにはサステナビリティ投資を企業価値向上の文脈のなかで正しく推進していく必要があります。

本稿では、企業がROIC経営を推進するなかで、サステナビリティ投資をどう評価・運用していくべきかについて解説します。

なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

POINT 1
サステナビリティ投資はリターンを犠牲にしてはならない

サステナビリティを目的とする投資であっても、中長期的にROICがWACCを上回ることが大前提である。ROIC経営では、サステナビリティ投資を適切に評価するフレームワークの策定が重要である。

POINT 2
財務フレームワークの一環としてサステナビリティ投資枠を設定する

ROIC Spreadを維持しながら投資を進めるには、サステナビリティ投資枠の設定が必要である。そして、サステナビリティ投資枠は財務フレームワークに基づいて設定すべきである。

POINT 3
サステナビリティ投資はその目的に応じて評価方法を使い分ける

サステナビリティ投資には、収益に貢献するものとリスク低減に寄与するものがある。投資の性質に応じて評価方法を使い分けるべきである。

I.リターンの犠牲は許されない

企業は自社のビジネスモデルの持続性を高めるために、サステナビリティ投資を推進することを求められています。事業会社が実施するサステナビリティ投資は、脱炭素に向けた設備投資やサプライチェーンのトレーサビリティを高めるためのシステム投資、人権DDを推進するための体制構築費用など多岐にわたりますが、これらの投資は必ずしも短期的に利益に貢献するものばかりではありません。また、効果が発現するのに時間を要するもの、あるいはそもそも利益を出すことを想定していないものもあります。その代表的なものが自社オペレーションのGHG排出量の削減に向けた投資です。昨今の脱炭素の潮流を踏まえると実施せざるを得ないものの、その投資自体は必ずしも利益を生むわけではありません。

一方で、機関投資家は企業が実施するサステナビリティ投資の結果としてリターンを犠牲にして良いとは考えていません。一般社団法人生命保険協会が実施した調査によれば、55.1%の機関投資家がサステナビリティ投資について「リターンを犠牲にしない範囲で投資すべき」と回答しています。「リターン向上につながるため、積極的に取り組むべき」と回答した30.6%を足し合わせると、合計85.7%の機関投資家がサステナビリティ投資についてリターンの維持・向上を求めていることがわかります(図表1参照)。

図表1 企業におけるESG投融資に関するスタンス

ROIC経営におけるサステナビリティ投資の評価方法-1

出典:一般社団法人生命保険協会「企業価値向上に向けた取り組みに関するアンケート」(2022年4月15日)を基にKPMG作成
 

ここでいうリターンとは「リスク調整後のリターン」、つまり資本コストを上回るリターンのことです。これはROEが株主資本コストを、ROICがWACCを上回っている状況を指します。つまり、機関投資家はサステナビリティ投資の結果として、ROICがWACCを下回ることは許容しないということです。したがって、企業はROIC経営を推進するなかで、サステナビリティ投資を適切に評価するフレームワークを策定することが重要となります。

II.サステナビリティ投資とリターン

サステナビリティ投資の評価方法を考察するうえで、サステナビリティ投資とリターンの関係について整理する必要があります。これは筆者が考案したESG・ROICモデルを使用することによって体系的に整理することが可能です(図表2およびKPMG Insight Vol.34/2019年1月号「ESG・ROICモデル~ESGと企業価値の連関を目指して」参照)。

図表2 「ESG・ROICモデル」を用いたサステナビリティ投資の効果説明

ROIC経営におけるサステナビリティ投資の評価方法-2

ESG・ROICモデルは企業価値向上とESGの関連性を整理したモデルです。企業価値向上、つまり、リターンの向上はROIC Spreadの向上を指しています。ROIC SpreadはROICが高まるか、あるいは、資本コストが下がることによって向上します。

ESG・ROICモデルはROIC Spreadを更に構成要素ごとに分解しています。特に企業はゴーイングコンサーンであることを踏まえ、資本コストに相当する部分は「r-g(WACC-永久成長率)」で表しています。これはバリュエーション算出時に使用するDCF法のターミナルバリューの考え方を応用したものです。

このモデルを基にサステナビリティ投資とリターンの関係を整理すると以下のように説明することができます。

(1)サステナビリティ投資の効果として短期的に利益(NOPAT)が増加する、つまりROICそれ自体が向上する。
(2)短期間で収益化が見込まれるわけではないものの、長期的な成長 “g” に寄与する。
(3)リスク “r” を下げる。収益化を想定するものではなく、ビジネスモデルの持続可能性を高める効果を有し、結果として資本コストは安定化または低下する。

これらをさらに整理すると、サステナビリティ投資は「短期的に収益化が見込まれる投資」「長期でなければ収益化が難しい投資」「リスク対応・低減のための投資」の3つに分類することができます。「短期的に収益化が見込まれる投資」は多くの場合、従来の投資評価基準を使用すればよく、サステナビリティ投資というよりは通常の収益獲得を目的とした投資に限りなく近い性質を有しています。ただし、「リターンは低くとも、さらにサステナビリティをドライブするための投資」を促進するためには、従来とは異なる評価方法を用いる必要があります。

一方、「長期でなければ収益化が難しい投資」と「リスク対応・低減のための投資」は従来の投資基準ではカバーできないことが多く、新たな評価手法を用います。

III.サステナビリティ投資の評価方法

「リターンは低くとも、さらにサステナビリティをドライブするための投資」「長期でなければ収益化が難しい投資」「リスク対応・低減のための投資」の3つの投資形態はいずれも、ハイレベル評価と個別案件評価の2つの観点から評価します。
 

ハイレベル評価:サステナビリティ投資枠の設定

ハイレベル評価は上述の3つの投資形態に共通する評価方法で、サステナビリティ投資のための投資枠を設定する、というものです。一部では脱炭素戦略の遂行を目的とした投資枠を設けている企業も出てきていますが、それと同等、あるいはそれに近しいものと言えます。

前述のとおり、サステナビリティ投資といえど、原則論としてROICが資本コストを上回ることは絶対条件です。ここで重要なのは、ROIC Spreadの拡大は連結ベースでそれを実現することが求められている、という点です。

また、投資は当然のことながらキャッシュアウトを伴います。投資が過剰となれば、フリーキャッシュフローの悪化を通じて他の投資に支障を来たすばかりか、財務健全性を損なう要因にもなり得ます。以上のことを踏まえると、サステナビリティ投資枠の設定は、ROIC Spreadの維持・向上およびキャッシュアウトの規模の両観点を考慮して設定する必要があります。

キャッシュアウトの規模は、その投資を進めることが全体のキャッシュフローアロケーションにどう影響を及ぼすかという点を見ます。これは、最適資本構成から導出されるDebt Capacityと営業キャッシュフローを原資として投資・株主還元にどうキャッシュフローをアロケート(配分)するかという財務フレームワークに則って実施します(KPMG Insight Vol. 39/2019年11月号「キャッシュリターンを意識した財務フレームワーク - ROIC経営の死角に対応する -」)。

また、ROIC Spreadへの影響は、その投資を行うことでROIC Spreadが著しく悪化しないか、あるいは資本コスト割れにならないか、という点を見極めなくてはなりません。悪化するのであれば、どのタイミングで元の水準に戻るのか、逆説的に言えば、どれくらいの期間ROIC Spreadの悪化を許容するのかを判断しなければなりません。

ROIC Spreadへの影響はキャッシュフローアロケーションとセットで考える必要がありますが、通常、減価償却の範囲内で収まるのであれば、キャッシュフローアロケーションに著しい影響を与えることもなく、かつ投下資本も増加しないため、ROIC Spreadを維持できる蓋然性が高まります。

サステナビリティ投資枠はM&A枠に代表される戦略投資枠に類似していますが、戦略投資枠は何かしらリターンを見込んだ投資を前提としている一方で、サステナビリティ投資枠は長期でなければリターンが得られない、あるいはそもそも利益獲得それ自体を目的としないリスク低減のための投資であるという特徴があります。そのため、必ずしもリターンを見込むことが困難であるなかで、いかにROIC Spreadやキャッシュアウトをコントロールしていくかという点に力点を置く必要があります。
 

個別案件評価

サステナビリティ投資枠が決まったら、その枠内で個々の投資案件を評価していくことになります。

上述のとおり、サステナビリティ投資は、「(a)リターンは低くとも、さらにサステナビリティをドライブするための投資」「(b)長期でなければ収益化が難しい投資」「(c)リスク対応・低減のための投資」の3つに類型化が可能です。

(a)に対応する評価方法としてはサステナビリティ投資用ハードルレートの設定、(b)に対しては投資評価期間の長期化とマイルストン法を用いた管理が挙げられます。(a)(b)(c)に共通するものとして、非財務視点で見たwith/without分析が挙げられます。

(1) サステナビリティ投資用ハードルレートの設定

投資は原則的にリスクに見合うリターンを求めることが前提であり、サステナビリティ投資であっても利益を獲得することが目的である以上、ハードルレートを適切に設定したうえで、投資評価を行う必要があります。

一般的に、持続可能性が低い事業はリスクが高くなり、投資するにしても相応に高いリターンを求めない限り「割に合わない」となります。昨今の環境変化を踏まえると、既存事業を変革することなく、漫然と継続するだけではサステナビリティに関するリスクは高くなると想定されます。逆説的に言えば、現事業が抱えているリスクを下げることに寄与する事業についてはハードルレートを引き下げてでも投資を推進することに合理性がある、という見方ができます。

たとえば、代表的なサステナビリティに関するリスクとして炭素リスクがありますが、昨今の情勢を踏まえると炭素リスクが高い事業はそのままでは事業の継続性それ自体が危ぶまれます。自社のオペレーションにおけるScope1・2・3 のGHG排出量を削減することが、事業それ自体の持続可能性を高め、事業リスクを低減することになります。事業リスクが低減されるということは、当該事業の資本コストも低減すると考えられます。

筆者のチームが試算したところ、炭素の原単位の大きさとマーケットでインプライされている資本コストの高さには緩やかな傾向が見られることがわかりました(図表3参照)。この試算は一定の前提条件をおいてのことなので、相関が高いとまでは言えないものの、事業における炭素の原単位を下げることができれば、その分、当該事業のハードルレートを引き下げて評価することは妥当であることを示唆しています。

図表3 GHG排出量の原単位 vs 株主資本コスト Impliedベース

ROIC経営におけるサステナビリティ投資の評価方法-3

出典︓S&P Capital IQのデータをもとにKPMG作成

ここまでの説明を踏まえて、脱炭素用のハードルレートの設定方法には、図表3にあるようなインプライされている資本コストの低減効果を参考に設定する方法やICPを活用した算出方法があります。

前者は、たとえば「GHG排出量の1原単位の減少に寄与する投資はリスクプレミアムを0.5%引き上げる」といったように設定します。そして後者は、過去の投資案件で内部炭素価格考慮前後のIRRを算出し、その差分の平均値などをリスクプレミアムの低減効果として織り込みます。また、まったく異なるアプローチとして、トランジションファイナンスを活用し、BSマネジメント視点でハードルレートを変更するという方法もあります。これが成り立つ前提としては、ROIC経営の一環として、事業別に有利子負債と資本を割り当てている必要があります。トランジションファイナンスで調達した有利子負債をトランジションが必要な事業に割り当てると、当該事業のD/Eレシオは上昇し、WACCは低下します。

トランジションファイナンスとはいえ、有利子負債の調達は財務格付の制約を受けます。サステナビリティ投資を名目に無尽蔵に調達できるわけではありませんが、トランジションファイナンスをBSマネジメントと合わせて戦略的に活用することで、WACCひいてはハードルレートそれ自体を調整することが可能となります(図表4参照)。

図表4 トランジションファイナンスを活用したサステナビリティ投資用ハードルレートの設定

ROIC経営におけるサステナビリティ投資の評価方法-4

なお、サステナビリティ投資用のハードルレートの設定にはいくつかの留意点があります。1つは、これらの手法はいずれも企業ごと、あるいは事業ごとに個々の微調整を行う必要があることです。企業が置かれている状況は個々に異なり、One-size-fits-allのようなアプローチはありません。上記の脱炭素用のハードルレートも複数の手法を組み合わせて個々の事業にフィットするように総合的見地から調整する必要があります。また、サステナビリティに寄与する事業のリターンはこうあるべき、という経営者としての意思を込める必要があるのは論を俟たないでしょう。

次に、サステナビリティのテーマの多くは、現状ではそのリスクプレミアムをハードルレートになかなか織り込みにくいという点です。GHG排出量はScope1・2を中心にデータが整備されつつありますが、Scope3はまだ緒に就いたばかりです。また、ESGのS領域やG領域については客観的に取得できるデータが少ないのが現状です。ESG評価機関が公表しているESG格付と資本コストの関係性から導出するという手法もありますが、現状ではESG格付同士の相関性がなく、1つのESG格付に依拠してハードルレートを設定するというのは困難です。

さいごに、ハードルレートの引下げは、あくまでもWACCが下限であるという点です。WACCはどのような事業であっても死守すべき採算性の最低ラインであり、調整幅は最大でもハードルレートとWACCの差分となります。そのためには、まずもってハードルレートが適切に設定されていることが前提となります。また、トランジションファイナンスを活用したアプローチはWACCそれ自体を調整する効果がありますが、高度なBSマネジメントを展開することが必須要件となります(図表5参照)。

図表5 サステナビリティ投資用ハードルレートの考え方

ROIC経営におけるサステナビリティ投資の評価方法-5

(2) 投資評価期間の長期化とマイルストン法を用いた管理

業種にもよりますが、設備投資の回収期間は、5~10年で設定している企業が多いようです。これは、10年間でNVPがプラスになっていれば良い、という前提をベースとした考え方です。

サステナビリティ投資は内容によっては、10年でも収益を上げるのが難しいケースもあり、評価期間を10~20年に引き伸ばす企業も出てきています。これは、つまりNPVが20年でプラスになれば良い、という評価方法です。

ただ、この評価方法は実務上、困難な側面が多いのも事実です。昨今の事業環境では10年でさえ事業計画どおりにいく可能性は必ずしも高くありません。そのなかで、20年に評価期間を引き延ばしたとしても、その不確実性は高まるばかりです。サステナビリティに寄与するから、という大義名分で評価期間を単純に引き延ばせばよい、というものではないのです。このような投資は研究開発投資や新規投資で用いられる投資フレームワークを併用する必要があります。研究開発投資や新規事業投資ではマイルストン法やゲート管理を用いることで、一定期間ごとに投資の成果を検証するアプローチを取ることがあります。これは、マイルストンごと(通常は年度ごと)にタスクを明確にし、クリアすべきハードルを設けることで、投資の進捗を可視化するためです。マイルストンの評価時にはハードルの達成状況のみならず、事業の前提条件の変化などを細かく分析し、投資を継続すべきか、あるいは縮小・中止すべきかの判断を行うことになります。

このような投資はサステナビリティ投資枠の範囲内で実施するとはいえ、それが積み重なることによってROICやキャッシュフローに甚大な影響を及ぼす可能性もあります。サステナビリティに資するという名目だけで長期投資を許容するのではなく、投資評価の規律を働かせることが重要です。

(3) 非財務的観点から見たwith/without分析

ここまでに取り上げたサステナビリティ投資用ハードルレートの設定や評価期間の長期化とマイルストン法を用いた管理は、収益化を目的とした投資の評価方法です。一方で、必ずしも収益化に資することない「リスク対応・低減のための投資」を評価する方法として、非財務的観点から見たwith/without分析があります。これは前述の収益化を目的とした投資にも援用することが可能です。

with/without分析は、その投資を実施した場合とそうでない場合とでどのような差があるのかを見極めるという分析手法です。通常は、財務評価の一環として活用することが多いですが、サステナビリティ投資の文脈のなかでは非財務の観点でこの分析方法を援用します。端的に言えば、投資を行った場合とそうでない場合とで非財務指標がどう変化するかを評価する分析手法と言えます。

そして、非財務の評価は主に次の3つの視点で評価する必要があります。

1つ目は、当該投資を行うことで、マテリアリティの解決を目的に設定しているKPIがどう変化するか、です。

マテリアリティは自社のビジネスモデルの持続性を高めるために解決すべき重要課題です。当然のことながら、その解決を図るうえで個々の施策があり、その進捗を評価するためのKPIが設定されていて然るべきです。

サステナビリティ投資を行った場合にも、そのKPIがどれだけ改善するのかを評価する必要があります。たとえば、脱炭素であればGHG排出量のスコープ別削減効果がどれくらいであるのか、フードロスであればその削減率がどの程度か、といった具合です。

2つ目は、投資を行うことで外部評価が維持できるか、あるいは改善するかです。外部評価は、たとえばESG評価機関が挙げられます。ESG評価機関はESGの個別テーマについて定量基準を設けているケースが多く、設定されている定量基準の改善度合いを格付評価に織り込んでいます。

自社のオペレーションを改善することを目的とした投資であれば、ESG評価機関の評価が悪化することはまずありません。その可能性があるのはM&A投資です。M&Aの場合、買収対象先企業のサステナビリティの取組み如何によっては、むしろ持続可能性に関するリスクが高まることもありえます。たとえば、買収対象企業に人権DDの仕組みがない場合には、人権リスクが事業に内在している可能性があり、買収することでそのリスクを自社が抱え込むことになります。

通常は、PMIを通じてそれらのリスクを適切にコントロールすることになりますが、そのためにも買収前にESG DDを実施するなどして正確にサステナビリティの観点からもリスクを評価する必要があります。なお、これはマテリアリティに影響を与える可能性もあり、1つ目と2つ目のポイントはセットで考えるべきです。さいごは投資を行うことで創出しうる社会的インパクトを評価することです。これは、投資前と投資後でどちらの社会的インパクトが高まるのかを評価することを目的としています。

社会的インパクトの評価で留意すべきは、たとえばフードロスであれば、それ自体のみに着目するのではなく、工場拡張によるGHG排出量の増加などを総合的に判断する必要があるという点です。仮にフードロスの対応が進んだとしても、結果としてその効果を新たに排出されるGHG排出量が上回ることになれば、社会的インパクトとしてはマイナスになります。

現在、社会的インパクトを測定するさまざまな手法が開発されていますが、その測定方法は開発途上であり、確立されたわけではありません。また、事業によって測定すべきインパクトも異なります。一方で、投資の都度、ゼロベースでインパクトの測定方法から協議していては投資評価のフレームワークとして機能しません。そこで、本評価手法を導入するのに先立ち、事業ごとにあらかじめどのような社会的インパクトを測定するのかを決めておくことが肝要です。なお、KPMGは社会的インパクトを評価する方法としてTrue Valueを開発しています(KPMG Insight Vol.59/2023年3月号「事業活動と社会貢献の成果の一体的管理 -True Valueメソドロジーを活用した価値創造アプローチ-」)。

IV.サステナビリティ投資の評価フレームワーク構築に向けて

本稿で考察したサステナビリティ投資の全体像は図表6のようにとりまとめることができます。

図表6 サステナビリティ投資フレームワークの全体像

ROIC経営におけるサステナビリティ投資の評価方法-6

サステナビリティ投資を実施する前提として、自社の事業ポートフォリオの基本的な方針を策定し、目指すべき事業の構成や創出するリターンを念頭に明確な戦略を策定する必要があります。その戦略を支える財務フレームワークがあり、そのなかでサステナビリティ投資枠が決まります。個々の案件に投資するに当たっては、サステナビリティ投資評価を多角的な観点で実施する-これがサステナビリティ投資の評価フレームワークの全体像です。

企業が目指すのは持続的な成長と中長期的な企業価値向上です。サステナビリティ投資に取り組むことがビジネスモデルそれ自体のみならず、それが生み出すリターンを向上・持続させることが求められています。そのためにはROIC経営を推進するなかで、サステナビリティ投資を適切に評価するためのフレームワークを構築する必要があるのです。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
サステナビリティ・トランスフォーメーション事業部
マネージング・ディレクター 土屋 大輔

土屋大輔

KPMGサステナブルバリューサービス・ジャパン/有限責任あずさ監査法人 サステナブルバリュー統轄事業部/サステナビリティトランスフォーメーション マネージング・ディレクター

あずさ監査法人

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