IAISがICS Version 2.0のLevel 1文書を採択

IAISが2019年11月20日に公表したICS Version 2.0に係る文書を解説します。詳細は原文をご参照ください。

IAISが2019年11月20日に公表したICS Version 2.0に係る文書を解説します。詳細は原文をご参照ください。

ICS/ComFrameの開発スケジュール

IAISは、国際的に活動する保険グループ(IAIGs)の監督のための共通の枠組み(ComFrame)の一環として2014年からICSの開発に着手し、複数回にわたるコンサルテーション・ペーパーの作成およびフィールドテストを通して評価手法を検討し、2018年7月31日にICS Version 2.0 コンサルテーション・ペーパーを公表しました。
2019年11月に開催されたIAIS年次大会において、ICS Version2.0はLevel 1・Level 2・Level 3の3つの文書で構成されることが公表され、これらのうちICSの包括的な原則やコンセプトを定めるLevel 1文書が採択されました。

モニタリング期間におけるICS Version 2.0文書のフレームワーク

Level1文書
年次大会で公表済
5年間のモニタリング期間における年次のConfidential Reporting(Reference ICSおよび追加報告)の最も重要な原則とコンセプト
Level2文書
2020年初頭
詳細な計算仕様
Level3文書
毎年4 - 6月
追加情報によりLevel1文書およびLevel2文書を補強

Level1文書の構成

  1. Introduction
  2. Components of ICS Version 2.0 for the monitoring period
  3. General Guiding Principles
  4. Reference ICS: Perimeter of the ICS Calculation
  5. Reference ICS: Market-Adjusted Valuation
  6. Reference ICS: Qualifying Capital Resources
  7. Reference ICS: Capital Requirement - The Standard Method
  8. Reference ICS: Tax
  9. Additional Reporting

IAIS 「Level 1 Document: ICS Version 2.0 for the monitoring period」を基に作成

2020年から2024年までの5年間はモニタリング期間として位置づけられており、その期間中はConfidential Reportingが行われます。その後、2025年より規制資本として適用が開始される予定です。また、モニタリング期間中には米国のAggregation Method(AM)との同等性評価が併せて行われることとなっています。

スケジュール

2019年フィールドテストからの変更点

ICS Version 2.0の詳細な計算仕様はLevel 2文書として2020年初頭に公表される予定ですが、それに先立って、Level 1文書と同時に公表されたTechnical Noteにおいて2019年フィールドテスト(2019FT)からの変更点が示されています。その内容は下表のとおりです。

ICSの要素:ICSバランスシート

2019FTからの変更点 2019FTにおける取扱い
会計
  • エンティティの種類が定義され、非保険事業に関する会計上のガイダンスが追加される。また、議決権を有しない持分事業体に関するガイダンスも開発される。
  • 非保険事業や持分事業体固有の取扱いはない。
所要資本
  • 非保険事業に対する所要資本はBCRやHLAのアプローチを踏襲し、以下が追加される。
    • 持分法が適用されているエンティティに関する比例的なセクター別資本要件
    • 市場価値とGAAP価値に対する株式リスクチャージ
    • 非金融事業に対する株式リスクチャージ
  • 非保険事業の資本要件は以下のセクター別に計算される。
    • 規制対象の銀行
    • 規制対象外の銀行
    • 資産運用事業
    • その他非保険事業

ICSの要素:MAV

2019FTからの変更点 2019FTにおける取扱い
ミドルバケットの基準
  • ミドルバケットの適用基準のうち、キャッシュフローのマッチングに関する要件が修正され、完全なマッチングではなく部分的なマッチングも認められる。
  • 調整スプレッドは、資産と負債のマッチング期間が長いほど、計算に大きく考慮され、マッチング期間後も一般バケットとミドルバケットの最大値の間の値が適用される。
  • ミドルバケットにおけるキャッシュフローのマッチングは資産と負債のマッチング状況を評価し、マッチングしていると認められない場合にはミドルバケットの調整スプレッドは適用できない。
LTFRの調整スプレッド
  • LTFRの調整スプレッドは以下のとおり地域ごとに適用される。
    • 主要先進国市場:20bp
    • その他先進国市場:25bp
    • 新興国市場:35bp
  • LTFRの調整スプレッドは一律15bpを適用する。
ローリングヘッジ
  • 資産負債評価におけるローリングヘッジに市場リスクと同様のアプローチを適用する。ただし、20%のヘアカットが適用され、更新頻度は1ヵ月以上とする。
  • 評価におけるローリングヘッジ固有の取扱いはない。
  • 市場リスクにおいてはリスク削減手法の更新について、更新が期待されることや更新頻度を条件として、ローリングヘッジの適用が認められる。

ICSの要素:適格資本リソース

2019FTからの変更点 2019FTにおける取扱い
特別なコールの制限付Tier1への算入
  • 制限付Tier1の基準に以下を追加。
    • 発行後5年の間に償還される場合であっても、償還が規制上または税務上の事象によるものであり、他の同等またはより資本の質の高い資本調達手段に入れ替わる場合には、制限付Tier1に算入
  • 償還がある場合、償還は発行後5年以降に発行者の任意によるものであり、かつ、償還が当局の承認による場合は制限付Tier1に算入される。
Tier2バスケット
  • Tier1資本から控除される以下の項目の適格資本への算入は所要資本の15%を限度とする。なお、いずれも繰延税金資産控除後とする。
    • 退職給付に係る資産×50%
    • ICSバランスシートにおける繰延税金資産
    • 無形資産のうちソフトウェアの額×10%
  • 所要資本に対する限度は10%であり、ソフトウェアの額に乗じる掛け目は50%である。
元本損失吸収メカニズム(PLAM)
  • 株式会社であるIAIGsにおいては、制限付Tier1の適格資本への算入上限が以下の合計となる。
    • 制限付Tier1のうちPLAMを有さない資本調達手段の算入上限は所要資本の10%
    • 制限付Tier1のうちPLAMを有する資本調達手段の算入上限は所要資本の5%
  • 当該取扱いはない。
  • 株式会社であるIAIGsにおける制限付Tier1の適格資本への算入上限は所要資本の10%である。
期限の利益喪失条項
  • 払込済Tier2の基準(i)における「ゴーイングコンサーンで発動し得る期限の利益喪失条項がないこと」は維持するが、他のすべての基準を満たしている場合に、期限の利益喪失条項の取扱いは管轄区域の裁量に任せる。
  • 払込済Tier2においては、ゴーイングコンサーンで発動し得る期限の利益喪失条項がある場合は資本リソースとして算入することは認められない。
期限前償還条項
  • 払込済Tier2の基準(e)は、発行から5年以内に償還される場合も対象となるように変更される。ただし、以下の条件を満たす必要がある。
    • 償還は発行者の任意による
    • 当局の事前承認の対象となる
    • 償還後、他の同等またはより質の高い資本調達手段に入れ替わる
  • 払込済Tier2の基準(e)は、発行から5年以降に償還される場合であり、当局の事前承認の対象となることが要件である。

ICSの要素:MOCE

2019FTからの変更点 2019FTにおける取扱い
  • Percentile-MOCEが採用される。
  • 信頼水準は生保85%、損保65%である。
  • Percentile-MOCEが採用される。
  • 信頼水準は以下の3パターンで計算する。
    • 生保75%、損保60%
    • 生保80%、損保65%
    • 生保85%、損保70%

ICSの要素:生命保険リスク

2019FTからの変更点 2019FTにおける取扱い
  • 日本の解約リスク(水準・トレンド)におけるリスクファクターは20%となる。
  • 日本の解約リスク(水準・トレンド)におけるリスクファクターは25%である。

ICSの要素:損害保険リスク

2019FTからの変更点 2019FTにおける取扱い
  • オーストラリア・ニュージーランドの保険料リスクのリスクファクターを見直し。
  • オーストラリア・ニュージーランドと香港の支払備金リスクのリスクファクターを見直し。
  • 省略

ICSの要素:株式リスク

2019FTからの変更点 2019FTにおける取扱い
  • 水準ストレスとボラティリティストレスを同時に与えた場合の影響額についての報告が不要となる。
  • 水準ストレスとボラティリティストレスを同時に与えた場合の影響額についての報告(参考データ)が必要である。

ICSの要素:資産集中リスク

2019FTからの変更点 2019FTにおける取扱い
  • 計算対象となるカウンターパーティーは10~100となる。
  • 株式リスクのエクスポージャーには95%のファクターを適用する。
  • 2018年フィールドテストの計算方法で計算した場合の所要資本については報告が不要となる。
  • すべてのカウンターパーティーに対するエクスポージャーを計算対象とする。
  • エクスポージャー(対象は信用リスクと株式リスク)は調整しない。
  • 2018年フィールドテストの計算方法で計算した場合についての所要資本(参考データ)についても報告が必要である。

ICSの要素:信用リスク

2019FTからの変更点 2019FTにおける取扱い
  • 代理店貸のリスクファクターは6.3%を適用する。
  • 代理店貸のリスクファクターは8.0%を適用する。

ICSの要素:税

2019FTからの変更点 2019FTにおける取扱い
MOCE
  • MOCEは一時差異と見なされ、MOCEに関する繰延税金資産が認識される(50%は乗じない)。
  • MOCEに関する繰延税金資産はMOCEの50%が認識される。
所要資本における税効果
  • 所要資本における税効果は以下の合計額となる。ただし、所要資本の20%が上限となる。
    • 欠損金の繰戻還付金×85%
    • 過去5年間の会計ベースの税引前利益の合計×実効税率×50%
    • ICSバランスシートにおける繰延税金負債から繰延税金資産を控除した額(所要資本×15%が上限)
  • 所要資本における税効果は以下の合計額である。
    • 欠損金の繰戻還付金(配賦された所要資本の額をを限度)×85%
    • 過去5年間の会計ベースの税引前利益の合計×実効税率×50%
    • ICSバランスシートにおける繰延税金負債(所要資本×20%が上限)から繰延税金資産を控除した額

 

IAIS 「Level 1 Document: ICS Version 2.0 for the monitoring period」および 「Technical Note on ICS Version 2.0 for the monitoring period」を基に作成

参考情報へのリンク(外部サイト)

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